SFチックなファンタジー
- ★★★ Excellent!!!
企画に参加して頂き、ありがとうございます。ご要望は忌憚のない意見、一区切りである一章までは読んで欲しいとの事でしたね。確り、熟読させて頂きました。
意見やアドバイスを求めていらしたので、忖度のない是正提案が欲しいと解釈致します。分解し、分析させて頂きました。ガチで向き合いましたので、少々失礼な言い方をするやも知れません。ご不快であれば、削除してくださいませ。
早速。今作で一番引っ掛かった所、それはずばり『優先順位付けミス』と『説明過多』です。
説明過多に関して
第一に、設定だけの話ではない。本作における構造上の話になります。
本作は三人称神視点で展開されており、その視点の強味を十二分に活かせているとは言えません。基本、視点位置は固定され、定点から世界を眺めております。
シーンに合わせた濃淡、時間配分、が圧倒的に足りていない。雰囲気、質感とも呼ばれる要素が足りず、体験と言うよりは解説を読んでいた印象がありました。
何故か?
描写自体は加不足なく、伝える上では問題ない書き方です。なにをしているかは分かります。しかし、この作品の弱点でもありまして。
読者が介入する余地がない、本当にない。
冒頭から一章の最後まで、また、気になって二章も五話までじっくり拝読しました。そこまで読み、逆に最新話にも目を通した辺りで確信しました。端的に申せば解説過多、これに尽きます。
と言うのも、構造の形が変わらない。絶対に解説が入るんです。
台詞(情報)→描写→描写の解説→内省→内省の解説。
のように、折角の奥行きを作る『投資』を即座に回収し、常にこいつはこうだ、しかないのです。勿論、正しく伝えるのは大事です。ですが、『それだけで終わる』のも考える頃合いだと思います。
最も顕著に、弱点として形になったのが第一章の第七話です。
レグルスとの対話、意図は汲みますが、答えありきの解説を帯びた台詞、地の文も内省に向いて風景、動作、時間など――現実――が白飛びしています。なので、そうなのか、と納得だけで終わりました。
最初に決めた視点位置、ボンネットの上から最後まで変わらず、全く動きもない。これは物理的に限らず、進行を含めた指摘になります。会話劇も決まり切った道筋を辿るようで、狙う効果を得られていません。
数千文字を投資したのに、プロット進行を止めてまで繰り広げた会話劇、このコストに見合った結果とは呼べないでしょう。これは解説過多だけでなく、複合的な要因が重なって導かれた結論です。
第七話、最後の〆も、そのままで終わっています。陥り易いミスですが、言葉を増やして解説するのではなく、伝えたい事は精査して『削る』事が大事なんです。とは言ったものの、理解するには更に踏み込んだ解説をすべきだと思うので、本文を抜粋して解説致しますね。
第七より
☆
「ありがとう」
もし、もう一度変わる機会を掴めるのなら……。
幼き少年の想いは、夕焼けの光陽に抱かれる。その瞳には、自身を救ってくれた女性への、尊ぶべき憧憬が宿っていた。
言葉と共に頬を流れた一雫は、彼の人間性を保証する物のようだ。救えなかった後悔も、彼を悩ませた哀惜も、確かにその涙に詰まっていた。
☆
この中にどれだけ解説が入っていると思いますか。
解説=作者の都合、こうだ、と言う事。
悪いのかと、思うでしょう。この描写は言葉は飾っております、でも本質はそこにはないんです。三文文士ながら、私が是正した文章と比較してみて欲しいのです。
☆
「……もし……もしも……」
もう一度だけ、と。伏せていた瞳がつい上がる。ビルの合間から伸びる夕焼けが、瞳を撫でればレグルスは眩しそうに目を細めた。
アスファルトのヒビ割ればかりを追っていた目が、空を染め上げた緋の鮮やかさに気付いて、広がった。
「っ……」
目尻に、太陽に彩られた粒がちらついた。スッと落ちる雫に景色は混ざる。不格好に、不器用に歪んだ頬を伝う。彼は堪らず、声が漏れないように必死に唇を結んだ。唇溶けた涙は仄かに苦く、だから、彼は前を向く。
一呼吸だけ、彼は考える。震えたままに、確かに掴んだ機会を前にして。固く結んでいた唇は、柔らかく崩れた。
「ありがとう」
☆
詳しく解説します。
「瞳を撫でれば」
「眩しそうに目を細めた」
「必死に唇を結んだ」
感情を動詞と生理反応に変換しています。読者目線、カメラワークを意識します。文字を追った人は、きっと少年の筋肉の動き、震え、から幾つも汲み取ります。
キララ様が伝えたい「憧憬」や「覚悟」を描けるんです。答えを渡すのではなく、それを導く『道』を提示しています。優しく手を差し伸べて、読者と答えに歩む、これがこそが最初に述べた「読者の介入余地」の本質です。
また同時に、カメラワークに着目してください。
伏せていた瞳(下)→ビルの合間(奥)→アスファルトのヒビ(足元)→空(上)
となってます。これは比喩、メタファーにもなるカメラワークで。下は内省的な少年の様子で、次第に上――少年が外に向く、希望――と回しています。
今作はこうしたカメラワークがなく、ガチっと固まっています。三人称神視点とは視点位置が自由自在で、どこにでもいけます。同時にそれはとても厄介で、視点位置を据え間違えるだけで全て破綻します。ですが、使い熟せれば下手な一人称じゃあ辿り着けない『語り手の信頼』と『寄り添い』を産めるのです。
また、コスト管理的視点の話をしますが。読者が文字を読むのは対価を求めて、です。カタルシス、快楽とは『答え』を自ら得た時にこそ最大化されます。忘れられない物語は必ず、この最大化された答えを与えており、読書の楽しみであります。
今作では答え自体を与えていて、その読書の楽しみを奪っています。これはひとえに、キララ様が『読者に任せる余韻を与えていないから』で。読者は分脈で察します、分脈を正しく運用すれば伝わります。言葉を増やして確実な正解を伝えるだけでは報告であり、世界観設定の過多提示と組み合わせると構造的な魅力――少年を取り巻く葛藤や希望――が薄まります。
いえ、違いますね。もっと正確に言い直すなら『体験』ではなく『暗記』になります。
少年は大変でした
読者 そうなのか。
で、終わるのは勿体ないッ!
あなた様は正確に記述する力があります、読んだ中で文章力は間違いなくあると判断出来ます。問題はそれを、事実の記載だけにしか使用してない点にあります。描写は『楽しかった』ではなく、動作や時間経過、現実の動き、心体的な変化、生理的な感触の積み重ねこそを描写と再定義すると劇的に化けるでしょう。
答えに納得はしても、読者は『説得力』を感じていません。説得力は描写(積み重ね)に宿り、時に鋭く脇腹を抉り、或いは肩を並べ暖まるのです。
そして次に、優先順位付けとはなにか。
これは世界観設定を解説している時に出る『語り尽くす』癖によって引き起こっています。
第六話、刺客を例にしますが。
四聖剣の解説は不要です。ゼロで良いです、読み方さえ分かれば良いです。
何故か?
これは構造上、優先すべきは目の前の現実――不意に現れた男――であり、カメラをフォーカスすべきなんです。この場の緊張、空気、キャラクターの感情を上記の是正提案のように『答えに導くように』且つ『言葉を単に増やすではなく、削って』描くシーンなんです。
見所の一つです、不要な解説は必要な時に惜しみましょう。その情報規制が奥行きを生み出し、演出の一つとして機能します。設定を出して奥行きを広げるのではなく、語らない事、最低限にして主軸の促進力にしてください。これはプロローグの二話、宇宙樹にも当て嵌まります。
この作品の構造は
独白、世界設定、会議、と動きが少ないんです。開幕の独白は良いとして、二話目、宇宙樹があかんのです。
誰かの手記(地質学者)の形であったり
あくまでも今は作者が設定語りに徹しているので、勉強のような感覚を与えます。それを誰かの物語として簡潔に纏める手法にするなら、地質学者視点を焦点にした構造にするのもありです。
或いはガッツリ削って、もし宇宙樹が主人公達――星羅に天星――から見える位置にあるなら、その姿を描写するだけで問題ないんですよ。魔力のルーツも、身体の中に作られる器官だとか、魔獣だとか。それら全ては物語進行として見ると、文字数(コスト)を払う優先順位が低いんです。
冒頭で一番優先順位が高い、描くべき、コストを割くべきは『主人公二人が、爆裂する市民を巡った事件に関わる姿』です。宇宙樹にて語られた内容、設定は後々に必要な設定ではありますが、読んだ限り必要がないと愚考しております。
何故か?
必要な時に小出しすれば良いからです。優先度は『物語進行』が一番で、次にテーマである宇宙樹――こちらは窓から見える姿をさらりと描写するだけで、なんか得体の知れないでけぇ木があるんだなって読者は察します――とか、そうした取捨選択が甘いです。
書くべき内容は増やすではなく、減らすです。すんごい難儀なジレンマで、全ての作者がぶつかる問題でもありますが、基本は『増やす事』が解決にはならず、削って一文の『情報密度』を上げる事が解決になる問題となっています。
作者様は台詞、地の文、描写、設定、で同じ内容を重ねてしまう癖があります。会話劇を見ると『同じ事言い合ってるな』と、そうした感覚。台詞もそのせいで作者に言わされているようで、不要な台詞は削らねばなりません。物語が停滞するからです。
無駄は削る。
簡単なようで非常に難解です。事実、どこまで削るかは『読み易さ――わかりやすいか――』に繋がるからです。私の場合は逆に、削りまくって密度を極限化したい性癖がこざいまして『わかりやすさ』を犠牲にしてでも『雰囲気作り、文字自体』に捧げておりますね。
ですが、無駄を省く一歩目に『この人称、主語は必要か?』と言う問いを常にするだけで、あなた様の文章は研ぎ澄まされていくと思います。長い台詞とか、分割して動作――現実の変化――を加えたり。
でも個人的に長い台詞って好きなので、じゃあどうやって長い台詞を喋らせて楽しませるか? 違和感や窮屈さをなくすか? それを考え、工夫すれば元々の長大な台詞を維持して、拘りとして機能させられます。
読んだ方が絶対に伝わるので、本文を抜粋し、是正提案として一例を出しますね。
第二章一話より
「そして最後に、ロナルド・アストラエアの伝言ですが……」
星羅の提出した映像がホログラムに映し出される。その姿を見た瞬間、その場に座る大臣達の全員に緊張が奔った。
「……本当なのか? ロナウド・アストラエアと遭遇したと言うのは。映像に映っている男は……本当にあの男と同一人物なのか?」
報告を聞いたジャックは若干動揺しながら確認する。どうやら彼はロナウドという男について何か知っているらしい。だが反応から察するに、あまり良好な関係を築けてはいなかったのだろう。映像という証拠を見せられているにも拘わらず、その事実を認めたくないようにも見えるのだ。
「ええ、映像の通りです。彼は私に宣戦布告をしていきました。まぁ、厳密には貴方達にですが……やはりご存知なのですね? ロナウドという男を……」
「……奴は我が都市の星騎士だった男だ。もう十年も前にこの世から去った。それは間違いのない事実。君が会ったという金髪の男は偽物だろう」
「やはり星騎士ですか……どうりで……ですが死んでいる筈は……」
比較的落ち着きを取り戻したジャックは、よそよそしく髭を触りながら語る。彼は何かを隠している、それは間違いない。だがその言葉からは、嘘偽りの気配が感じられなかった。彼は確信で以て、ロナルド・アストラエアの死を宣告しているのだ。
☆
「そして最後に、ロナルド・アストラエアの伝言ですが……」
起動したホログラムが青白い光を広げ、会議室を染めた。映し出された金髪の男を見た瞬間、大臣らが息を呑み込んだ。いやに響くのは椅子の軋む音のみで、この場に被さった沈黙は酷く重々しいものだった。
「……本当に、これなのか」
沈黙を恐る恐る破って絞り出された声は、掠れている。ジャックの眼前に浮かぶ『人相』を網膜に焼き付けるように、食い入っていた。その眼差しは、旧友を懐かしむ温かさなぞではない、足裏に刺さった釘のように『過去の汚点』を拒絶する、鋭い嫌悪が混じっている。
「ええ。彼は私を、いえ……あなた方を明確に指名して、宣戦を布告しました」
星羅は言葉を選びながら、彼等の裏で渦巻く何かに指を掛けた。そうすれば、パネルを叩くジャックの指先が、不自然にピクリと跳ねた。慰めるように宥めるように、執拗に自らの髭を指で捩れば。
「……奴は、十年前の事故で死んでいる。死体も、この目で確認した。それは揺るぎようがない事実だ」
声に、迷いはない。髭を弄る指先の震えとは裏腹に、言葉だけは鉄の硬度をたずさえて室内に伸し掛かる。嘘を吐いているようには見えない。むしろ、自分自身へ言い聞かせるか如く、どうにも確信的な感触がした。星羅の目配せにジャックは目を人相に逃がして一息。
「君が会ったのは、その……何らかのまがい物だ。間違いなくな」
星羅はジャックの指が髭を千切りかねない程、強く強張っているのを見逃さない。
彼が『死んでいる』のだとしても、彼を話題にするのをあきらかに避けている。何かがある、予感ではない。星羅は確信する。
☆
こう言う風にすると、あなたが描こうとした『ロナウドの謎』や『ジャック達から醸される言い知れぬ深み』の魅力を更に引き出せます。
ウェブ界隈って多くの方の講評やアドバイスがどうしても……言っちゃあ悪いんですが……なんかふわっとしている環境じゃないですか?
だからこそ、本気で体当りして申し訳ありません。本作の魅力を汲み取ったからこそ、惜しいと思って本腰を入れ直しました。
少し、いやめっちゃ失礼ながら。全力で是正提案を考え、どう伝えるか悩み、筆を取らせて頂いた限りです。
とまあ。
あんまりに長々とすると迷惑でしょうから、そろそろ終わりにします。
どうか、あなたの描く魅力をもっと出せるような、そうした糧になれたらなと祈ります。また、もしも不快でしたら削除してくださいませ。
質問とか、返信とかあれば気楽に近況とかにコメントくださいね。