狩人はどちらだ?
- ★★★ Excellent!!!
先ず、講評企画に参加して頂き、誠に感謝申し上げます。
最初に話すべきだろうと思い、少し脱線しますが。
私はカクヨムのペーペーですので、仕様を知悉しておらず至らぬ点があるやも知れません。カクヨムコンテストも少し目を通しただけの人間なので、認識に誤りがあるやも知れません。
前置きはそこそこに、講評に移らせて頂きます。
感想 読者として
私としては字数上限があるなか、起承転結が良く纏まっているなと思いました。コンセプトである心理戦、ゲーム、そして破滅。最後は次へのフック、続きへの引き込みも用意されています。字数上限の関係か、後味は薄めですが、読んでいてちゃんと楽しめる作品でありました。
感想 私として
構成上捻りはなく、道筋は簡単です。
拉致され、理不尽に競わされ、主人公が頭を捻って『強味』を出し、破滅する『敵』を描く。
デスゲームは読者への引き込みとして使い古されたテーマです、最早、よっぽどのミスマッチかインパクトがなければ見慣れた設定であるので、読者は自然と事前知識によって足りない部分を補完するでしょう。
王道とは、万人に愛される理由がある、に近い話ですね。
こちらの問題の差別化として、キャラクターやストーリー、或いは見所に着目し『どんな差別化を図ったか』探った訳ですが、正直な感想で申しますと目新しさはありませんでした。小説に限らず――映像作品、ゲームなど――作品に関わっていれば見飽きたと判断されてしまうやも知れません。
これが問題の一つで、本作は字数上限の関係から初見の読者を『デスゲームの醍醐味』を本当の意味では体感しません。記憶に刻み付けるような強烈な味がないからです。終始、描写は記述に留まっており、はらはらやわくわくの一撃がストーリー進行に頼っているからです。
それは読み易さの選択であるのかも知れませんが、であっても、手に汗握る、或いはぞくりとさせる一撃が足りてません。二人のキャラクター性も似通っており、人称が同じ『俺』である点も惜しい。イカツイ入れ墨男らしさは正直薄く、どうにも台詞から『らしさ』を汲み取れない。
これは作品全体を通し『雰囲気』の形成が圧倒的に足りていないのも響いております。狭い空間、檻に区切られて対面する。この息苦しさ、コンクリートが醸す重力があんまりに軽い。
私の感想として、端的に申し上げると、コンパクトに徹したがために、コンテンツの強味が薄まっています。
既知の読者からは目新しさはないが、そうした足りない部分を無意識に補いそれなりに楽しめる。
新規読者からは目新しさがあるが、そうした足りない部分が無意識に欠いてそれなりに楽しめる。
と、感想をいつまで口にしても作者様の糧にはならないので、アドバイスをします。
初めに、改めて私はカクヨムコンテストの短編部門を流し読みした程度の輩ですが、中黒(・)は字数制限に引っ掛かりますよね……?
文字だけ換算であるなら申し訳ないんですが、記号なりも全て含むと考えるなら、の前提で続けますが。
普通に三点リーダー(……)を偶数個使った方が良いです。創作のルールが、とかじゃなくて、シンプルに字数の無駄使いになっちゃってます。ざっと数えましたが、中黒を三点リーダー偶数個に切り替えるだけで百文字近く浮きます、めちゃくちゃ勿体ない。大真面目に、拘りがないなら字数を確保した方が良いです。
本作は『雰囲気』を作るため、血反吐を撒き散らしながら描写の為に文字を使わねばなりません。今、全く足りてない。冒頭とか、中盤の転換とか、めちゃくちゃ足りてない。
そこで、もう一つ。人称が凄く……多いです。分かり易くする、であるとしても明らかに過剰です。一人称の最大の利点は、人称(俺)が容易に省ける点です。人称過剰問題は地の文だけでなく、台詞にも及んでいます。この無駄を省けば、より必要な部分へ出力出来ると思います。
とは言え、具体的に話さねば伝わり難いものなので。僭越ながら、私、千古不易が本文より抜粋し解説致します。こっから更にマジで、あなた様に向き合います。ご不快にさせてしまうやも知れません、ですのでその場合は削除して構いません。
えー、始めます。
冒頭
『金属が〜見知らぬ部屋に蹴り飛ばされる』
ここなんですが『見知らぬ部屋』は不要です。それより今、一番大事なのは主人公が蹴り飛ばされて『床に転がる』事にあります。
何故か? それは文章を追っていくと『独白』の後に『一人になった俺は立ち上がり』とあるからです。
はん? あんさん転がってたんかっ!?
つい関西人なのでツッコミんでました。そうした誘導不足、アンカーとしての機能不全がありました。
『〜直後、乱暴に目隠しを引っ剥がされた。眩しさに目眩を覚える前に、俺は床に転がっていた。
「指示を待て」
背中を蹴り飛ばしやがった男の声が、回る視界を押さえた。文句をぶつけようとした間際、ドアが閉まる音。見れば、姿はなかった。
「くそ、なんだってんだ?」
俺が闇金の連中に拉致られたのは分かる。丁寧に目隠しされて、どこかに連れてこられた。どこかなんて見当もつかないが、耳栓がないだけマシではある。必死に聞き逃さないようにし、辛うじて、分かることがあった。
「……俺は売られたのか」
鼓膜に残る不快な男達の声、金の臭いがする取引現場の音。それを振り切るように、俺は立ち上がる。周囲を見れば、視界いっぱいの灰色。十五畳はあるだろう無機質な部屋、スピーカーに、物言わぬ監視カメラ』
あんまり長いと解説が複雑になるので。
先ず、主観が足りてない。主人公目線の地の文はあっても、質量が驚くほどない。そして、分かっている事を繰り返している。
拉致された『重さ』を疑問形の憶測、また茶化しが粉砕している。どこかこの主人公は違う、冷静で観察力が凄い、を演出するならそれじゃあ悪手です。その演出は後々で触れられますし、なにより部屋の様子の描写が『なんとなく、じわじわと主人公の観察力は高いかも』って読者に印象付けるならば、演出はカメラワークの焦点、フォーカスにすべきです。
空気感、主人公の感情の流れ、優れた冷静な観察力の描写は積み重ねに宿ります。今作の主人公はどうにも言い切らない表現を多用しますが、それより一歩踏み込んで欲しいのです。
見知らぬ部屋が不要な理由
後で描写するのなら蹴られた動揺や勢い
特筆して目隠しの反動(数時間塞がれたなら眩しいでしょう、桐生さんの表情が分かる程度には真っ暗ではない様子ですし、光源はある)はめちゃくちゃ大事です。
雰囲気を独白、回想が粉砕してます。伝えるべき内容に――金で取引された部分など――ぐいっと近付いてあげてください。カメラワークが常に定点で、凄く勿体ない。字数の問題はありましょう、しかし、それは補えます。
私の是正提案でいっとうに注目して頂きたいのは、圧縮と無駄の排除にあります。例えば『見知らぬ部屋』がないのは、後で触れるから。『独白、回想』が要点に絞るのは雰囲気の確保、字数調整です。
十二分に『数時間〜マグロ漁船』あたりをがっつり削り、絶対的に必要な部分を残しています。ここは、物語の導入です。この筆のまま桐生さんの登場まで、こう言った物体の疑似人化とか五感を混ぜながら圧縮、主観を混入した一撃を放つべきです。
無論、私の提案例が正解ではありません。冗長とあれば、字数制限下ならば私でも削るなり、語彙選択をします。全体を見て、そうします。でも、ここ冒頭なんです。物語を通し、重力と緊迫感を与える空気、舞台を読者に定める場所です。
とは言え、字数は嵩むでしょう。なので過剰な人称から省き、一文で複数の役割を果たせる文章に変えるべきです。一番に端折れるのは間違いなく人称、そして二番目に無駄な描写の統合とシェイプアップ。情報密度を上げるべき時は上げ、下げるべきは下げで字数のバランスを見直してみては如何でしょうか。
序盤、そして二人の緊迫感を伝える一瞬、転換(主人公が狩人になった瞬間)と、破滅に情報密度を上げて文章力を解放してください。今では、ペンの頭を抑え過ぎだと私は考えます。
台詞ももっと削ったり、鋭く出来る筈です。字数ギリギリ、瀬戸際をもっと攻めましょう。
例えばですが、第二話協力で一番引っ掛かった所を指摘しますが。
『〜本気だ、と一瞬で分かった』
いや、なに、わからんて。なんで? 顔か、表情か?
これは、主人公目線を偏らせているならば正解です。しかし、頭の良さや観察力を読者に提示しているならもっと工夫が必要です。或いは、今の形を維持して後からじわじわと主人公がフォーカスする桐生さんの『小さな変化』で演出する布石でもありです。
指先とか、目線、動作、癖は? 呼吸は浅いのか、深いのか、早いか、遅いか。言葉の抑揚は、言葉尻のニュアンスは? と、会話進行(物語進行)で小出しにして、色鮮やかに主人公を飾れます。
字数上限? そりゃ勿論ありましょう! しかし! 省ける場所はある筈です。あなたなら、きっと気付けます。全体のバランス、濃淡を練った上で冗長(無駄)を省ける筈です。例として第二話の冒頭『先に口を開いた〜画面を見せて言う』は同じ事の焼き増しです。
『グー』を選択した画面を〜で大丈夫です。なんなら消した文字数、余裕があるので『グー』を〜の文章を弄ったり、他を増強出来ます。
第三話裏切り
彼は不気味な笑みを浮かべて言った〜俺に勝つもりだ。だって彼はこのラウンドになってから〜こちらに見せていない。
こちらの表現なんですが、一番強調したいのは『俺に勝つつもりだ』にあると思います。なので、こうしたやり方もあるよって参考になればなあ、と、少し手直しさせて頂きますが。
『
彼は不気味な笑みで言った。あまりに露骨すぎる。気づかない方がおかしい。
こいつ、このラウンドで画面を見せようとしねえ。俺に勝つつもりだ』
主人公の言葉遣いや、桐生の呼び方、それらと核心を最後に据える。これは今まで『彼』呼びで『いやに冷静な主人公』の渦巻く感情をダイレクトに伝え、主人公の動揺、もしくは怒り、更には後に続く『狩人化』の一撃を高める方法になります。
折角の丁寧な『彼』呼びです。崩す、核心は一番目立つ位置に、そうすれば『彼』呼びも拾えて無駄がないです。
四話欺瞞
引っ掛かった場所がありまして、いや、もっと良くなるなと思ったシーンがありまして。
主人公が桐生へ狩人らしさをみせ、がっちりロックオンするシーンです。
『彼の顔からスッと生気が引いていく〜人生をやり直してやる』
です。ここ、もっと強く崩して良い! 上記で話したように、どこか丁寧な彼が牙を剥くシーンです。
『今更だ。顔からスッと生気が引いてやがる、だが、もう遅い。俺の人生を潰して、てめえだけやり直そうなんざ許さねえ。逆にてめえのふざけた面ごと踏み台にして、俺は人生をやり直してやる』
くらいぶっ飛んでイイ! 見所! そして丁寧な呼び方を続けた温度差を出せる。『彼』呼びすら伏線にするような、そうした用意周到な一撃となります。
と、まあ、少し長過ぎますかね。ですが、どうにか伝わったかと思っております。
今回はあなたの大切な作品と向き合わせて頂き、誠にありがとうございました。はい、私、ガチです。ほんとうに糧になりたいので、なるべく飾らず長々と語らせて頂きました。なにかあれば、近況にでも気楽におこしくださいませ。
はは、は……ちょっと、フルパワー過ぎましたかね。申し訳ありません苦笑
不快でしたら削除してくださいませ。