ショーケースで奏でられるその音は……。

光の届かぬ地の底。そこは海の底である。
やがてそこに、一頭のマッコウクジラの死骸が落ちてくる。

マッコウクジラの体から、真っ白な雪のような微粒子が、水面に向けて登ってゆく。
いわゆる、マリンスノウだ。
現実の雪とは違い、天に登って降っていく。まるで夢の中にいるような情景である。



その夢の世界で、誰かがタカアシガニとなったあなたに問いかける。

「なぜ、そこでじっとしているのか」と。




現実の世界では一人の職人が、楽器を作っている。
それは、巨大なツノをのようなものを奏でる、ディジュリドゥという管楽器である。
その職人は、タカアシガニの足を使ってその楽器を作らんとしていた。


それは生命の冒涜である。
因果を操り、何度楽器制作をやめさせようと試みるも、職人の信念は揺るがなかった。


そして……


楽器となったタカアシガニのディジュリドゥから、最初の曲が奏でられようとしていた……。









物語は現実と、虚構を行き来し、読者に語りかけられるメッセージは、
どこか寂しげだが力がある。


ご一読を。