カクコンに参戦された平手さんのエースの作品です。
「すばらしい」としか言いようのない力作です。
お話は、どちらかというと難解なのですが、人の生き方の方向性や魂の根源を問うような、哲学的な作品です。
タカアシガニの彼は、発達障害の方だったのか、現実世界ではすり減って死の直前にあったわけですが、神の意図と違う方向から息吹を吹き込まれ、精神的再生を達成します。
ディジュリドゥの彼は、神の意図を気づいていなかったわけですが、タカアシガニの彼を正しく導きました。結果的には正確に「彼がもっと輝く生き方」を見抜いていたとも言えます。
他者が見ても、その人の正しい在り方は分からない。
そして遅すぎることはない。そのあり方を取り戻したとき、人は再び輝き、世界は光で充たされるのです。
平手さん渾身の一作。私には到底書けません。
これはお勧めです。
光の届かぬ地の底。そこは海の底である。
やがてそこに、一頭のマッコウクジラの死骸が落ちてくる。
マッコウクジラの体から、真っ白な雪のような微粒子が、水面に向けて登ってゆく。
いわゆる、マリンスノウだ。
現実の雪とは違い、天に登って降っていく。まるで夢の中にいるような情景である。
その夢の世界で、誰かがタカアシガニとなったあなたに問いかける。
「なぜ、そこでじっとしているのか」と。
現実の世界では一人の職人が、楽器を作っている。
それは、巨大なツノをのようなものを奏でる、ディジュリドゥという管楽器である。
その職人は、タカアシガニの足を使ってその楽器を作らんとしていた。
それは生命の冒涜である。
因果を操り、何度楽器制作をやめさせようと試みるも、職人の信念は揺るがなかった。
そして……
楽器となったタカアシガニのディジュリドゥから、最初の曲が奏でられようとしていた……。
物語は現実と、虚構を行き来し、読者に語りかけられるメッセージは、
どこか寂しげだが力がある。
ご一読を。