最終話:きびだんごの絆

桃谷は部屋でラジオニュースを聞いていた。


「警察は桃ノ木町で起こった連続強盗事件の首謀者として鬼頭剛容疑者34歳を強盗致死傷の疑いで逮捕しました。」


鬼頭逮捕のニュースが流れていた。


「警察によりますと鬼頭容疑者は通称『鬼』と呼ばれる特殊な機械を用いて複数の家から金品を強奪し、金品を売りさばいていたとことが分かっており、詳しい状況について引き続き捜査をしています。」


須佐本部長が言っていたように警察は『鬼』の存在を公表しなかった。


「また、鬼頭容疑者は警察システムの構築に関与しており、警察システムへ侵入して、機密データを流失させた疑いもあり、警察は詳しい状況を調査しています。」


須佐本部長は連続強盗事件に留まらず、機密データの流出についても会見で言及していた。


「警察システムからの機密データの流出について昨日警察本部で行われた緊急会見で、須佐警察本部長は辞意を表明し、警察は流出の原因となっているシステムの再建に向けて動き出しています。」


そこまで聞くと桃谷はラジオニュースを消した。


しばらくすると携帯電話が鳴った。


「やぁ、猿渡くん。君もニュースを聞いたかい?」


「はい。それから、あの後正式に警察本部からシステムの再構築の依頼を受けました。」


「鬼頭さんのシステムを浄化するには時間がかかると思いますが、必ずやり遂げようと思います。」


「わかった。システム浄化には時間がかかりそうだね。」


「でも今回の事件で本当に恐れなければいけなかったのは鬼頭のように人の心が持つ『鬼』がシステムの一部として機能してしまうことなんだ。」


「そうですね。僕も鬼頭のようにならないように気をつけます。」


「君なら大丈夫だよ。それじゃあ健闘を祈るよ。」


桃谷は電話を切った後、携帯電話の画面に雉屋翼から送られてきた写真を開いた。


そこには雉屋広海と雉屋翼の親子が一緒に写った写真と共に『父の名誉を回復していただきありがとうございました』とのメッセージが添えられていた。


今回の事件で止まっていた雉屋家の時間が浦島船長に開けられた『玉手箱』により再び動き始めたのだ。


その日の夜、桃谷は犬飼と『うみはま食堂』に来ていた。


「ゴンさん、ありがとうございました。」


「いや、こちらこそありがとう。おかげでワシの心のモヤモヤが晴れたよ。」


「あっミックスフライ2つね!」


桃谷はポケットからきびだんごの御守りを取り出して静かに見つめていた。


この正義の信念で結ばれた絆があったからこそ、今回の困難な鬼退治が成し遂げられたのだと。


「そういえば、温羅さんたちは元気にしてるかな?」


「温羅さんたちなら大丈夫だよ。きっと元の島の生活を取り戻しているよ。」


犬飼の問いに答えた桃谷は、ふと鬼の存在を公表しなかったことが本当に良かったのか考えていた。


犬飼は桃谷の様子を見て、彼の懸念を感じ取った。


「これで良かったんだよ。」


「公表すれば必ず第2、第3の鬼頭が現れる。」


「鬼を利用しようという奴が再び現れるんだ。」


「そうですね。」


主人がミックスフライ定食を運んでくる。


「お待たせしました、ミックスフライ定食だよ!」


「さぁ、冷めないうちに喰っちまおうぜ!」


桃谷は手のひらのきびだんごの御守りをそっと胸のポケットに入れた。


桃谷巡査部長は、正義の信念を胸に町の平和を守るため新たな警察の日常へと足を踏み出した。

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警察組織の真実に迫る!現代における鬼退治とは 甘井 サト @Amai_Sato

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