◆空飛ぶ布団◆

茶房の幽霊店主

第1話 空飛ぶ布団。

※(副店主Jさんの体験談です)

※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)


※※※※※



快晴で心地よい風が吹いていました。

一族で話し合い、休ませていた田んぼを時間を掛けて再び水田にしてみようという運びとなり、用水路まわりの掃除や背の高い雑草を取り除く作業をしていました。


一息ついて、空に雨雲がないか確認していた時、作業をしていた自分の真上の青空に 【1センチ四方の白いもの】がクルクル回転しています。


飛ばされたビニールハウスの一部かと思い 目を凝らしますが、形状はほぼ四角。屋根の一部なら危険なので田んぼから出て道路から観察しますが、その白い四角は自らも回転しながら楕円を描き、螺旋状に 段々降りてきているのです。


『なんだ?あれ』


時間をかけながら降りてくる『それ』がかなり大きい物体であるのに気が付きます。地上まで10メートルぐらいまで迫った時、白い四角が 布でできているのが分かりました。


『……え……?』


田んぼに色々なものが居たり、飛来してきたことがあります。

鳥類やその他の動物、トタン、風で飛ばされたゴミ。

酔っぱらった人間、 果ては車など。


空を舞っているのは、布団(ふとん)だったのです 。


掛け布団がムササビのようにピンと四方を広げ 自身も回転しつつ、楕円にスウィングし、螺旋を描き降りてくる。


訳の分からない事態に呆然とするしかなく。


とうとう、布団は用水路と田んぼを跨ぐ形で、ばさりと着地しました。

上は花柄。どうみても、和布団(わぶとん)。

下から見えていた白い部分は掛け布団の内側だったのです。


頭の中を整理しようにも、布団が空から飛んできたとしか、他に言いようがありません。


とりあえず、布団は後からでも片づけられるので現場に残し、他の人にも確認してもらうため自宅へ急ぎます。


家の者はほとんど出払っていて、母親だけが昼食の準備を していました。


※※※※※


『あの、母さん。ちょっと一緒に確認してほしいんだけど』

『田んぼで何かあったの?』

『いや、あったというか、何というか。とりあえず見に来て』

『分からない事があるなら、後でお父さんに聞いてもいいんじゃない?』

『そういうのではなくて』


あったことをありのまま言うしかないなと思い、


『布団がふっ飛んできたんだよ。田んぼに』


一瞬、母親は口を開けて目を丸くし、


『何バカなこといってるの! あんた、 いつからそんなオヤジギャグ言うようになっちゃったのよ!』

『ギャグとかではないよ。本当に布団が』

『もうっ!いい加減にしなさい!』


母親は野良着のお尻を平手でバチーン!と一発叩き、それでも ぶつぶつ言いながら田んぼを見に行くことに。


自転車で先に到着した母親を走って追いかけ現場へ戻ると、


『嫌だわ。誰があんなとこに不法投棄したのかしら』

『……自分が居たから堂々と捨てになんて来ないよ』

『作業中に誰かがコソっと捨てていったんでしょう』


『布団が空から飛んできてるの見てるから』

『そんなことある訳ないじゃない!アレ邪魔だから 片づけておいて。トラックの後ろ空いてるでしょう』


そんなことあるんだって。


会話が平行線になるのが分かっていたので、何とか言葉を のみ込み、横たわっている布団を引きずって 運んでいると、布団の表面がひんやりと冷えており、少し湿っているのに気が付きました。トラックの荷台に積む時、母親も手伝ってくれましたが、


『なんだか冷たいし、ちょっと湿ってる。気持ち悪いわ』


と眉をひそめていました。


※※※※※


※(ここからは【空飛ぶ布団】の考察です)


空から和布団が……。


あまりに奇妙な出来事ですが、恐らく、その日の前日か近い日で台風並みの強風が 吹いている地域があり、住宅地に干されていた布団が遥か上空まで吹き飛んでいたのではないかな、と推測します。


布団の表面が冷たかった事、そして湿っていたのは雲の中もしくは雲の上まで布団が飛んで行き凍っていたのではないかと。


ムササビのようにピンと張ったまま降りてきたのも、凍っていたのが解凍されながら空気抵抗で、その形状に広がったとも考えられます。


ただ、強風で巻き上げられ、上空で凍った布団が、解凍されながら降りてくるのを目撃する確率は、どれぐらいなのでしょうね。


ある意味、幸運以上の豪運の持ち主なのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

◆空飛ぶ布団◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ