第8話
…研究所からの脱出は二人の想像していたよりも多くの時間と労力を要した。
上層に行けば行くほど通路や階段の崩落はひどく、道がふさがっていることもあった。
ギーミアと出会った広間を出てから一日目、最初にヘイムルが落ちてきた貯水池まで戻った。そのままそこで一晩を明かし、お互いが知らない情報を共有しあった。どうやら、原書の一族とは神代の時代より続く赤目に白髪の支配者一族であったらしい事が知れた。そして、おそらく俺は原書の一族であるらしい。それと、ギーミアが最高傑作?でありこの研究所で研究対象とされていたこと、天人族では神代の技術の研究が活発に行われていること。
二日目、さらに三つ上層の居住区画であったと思しき階層に到達。使えそうな日用品をギーミアが見繕ってきてくれたので補給をした...
…居住区画のとある民家。
「今日はここを仮拠点にしないか?」
元住んでいた人間の寝室であろう一室を探索する中、へイムルがつぶやいた。
「いいよっ!...寝台があるから”野”営かは怪しいけどね?」
そういいながらギーミアはベッドのうえで飛び跳ねる。
「それもそうだ。...ギーミアは補給のために歩き回って疲れているだろうし先に寝るといい。今日は俺が寝ずの番をしよう。」
「うん、ありがと!」
「ああ。」
簡単にそう返すとヘイムルはそばの椅子に腰かけて机の上にある報告書用の記録の続きへと視線を落とす。オイルランプの薄明りの中、さらさらと筆が紙をなぞる音が聞こえる。ふと、ギーミアからの視線を感じた気がして顔を上げると、案の定毛布の中から頭だけヘイムルのほうに出したギーミアがこちらを見ていた。。
「...どうした、寝付けないのか?」
「ううん、やっぱり似てるなぁって...」
「それは、何が何に?」
ギーミアは布団へと潜り、大きな芋虫のような状態でもごもごと続ける。
「...ヘイムルが、ダルナに」
「...昨日もその名前を口にしていたが、それは誰なんだ?」
「...私の、友達。...研究対象の私とよく遊んでくれた優しい子。...原書の一族の直系で天人族の姫。それと...多分ヘイムルの母親。」
「…そうか…育ての母からも、とても美しい人であったと伝え聞いている。」
「…うん。」
ギーミアは再びイモムシのような状態で頭と目元だけ布団から出してまるで遠くを振り返るように天井を眺めている。
「…もし、差し支えなければ…母について教えてくれないか?」
もぞもぞと布団が動いてへイムルに視線が向き、沈黙が流れる。
「……いいよ。」
ギーミアが、小声でそうつぶやいた。
原書の回帰 法線かぁ @kuma0319
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