第7話
…遺跡地下。
「・・・ぃ」
まどろむ意識の中、冷たい感触とともに意識が浮上する。
「おーい」
ゆっくりと瞼を開けると、頬触れるに少女が眠っていたであろう容器の金属質な冷たさが鮮明になる。気づけば、至近距離に見目麗しい少女の顔があった。どうやら、容器にもたれかかったまま眠ってしまったようだ。
「...あ、やっと起きた!ずいぶんとぐっすり眠ってたね?」
「そうか、俺は遺跡内で...そういえば君は!?」
とっさに後ろに飛びのいて剣の柄に手が伸び、臨戦態勢に入る。
「私?私はギーミア。さっきは適当にあしらっちゃってごめんねぇ、原書の末裔君。」
眠気から解放されて上機嫌なのだろうか。ギーミアは異様に高いテンションで続ける。どうやら、ギーミアから敵意は見てとれない。それに、相手は丸腰のようだ。
「それで?君、名前なんだっけ?」
「...ヘイムル。ヘイムル・ラグナルズドッティルだ。ここには遺跡調査の名目で来た。...突然ぶしつけに申し訳ないが、君は何者なんだ?」
目の前の少女の瞳孔からは動機もわからぬヘイムルに対しての興味が見て取れる。ヘイムルは見知らぬ相手にこちらの情報を開示しすぎぬよう注意しながら問答を続ける。
「私ぃ?...んー...強いて例えれば数多くの芽の中で咲いた一輪、てきな?ごめんねぇ、生まれてこのかた外にも出たことはないし、私もよくわかんない!」
「......そうか。理解した。...立ち話もなんだが、このような開けたところではどんな脅威にさらされるかわからない。ひとまず拠点にできそうなところを探してもいいか?」
そういってヘイムルは剣の柄から手を放し、辺りを見渡す。
「いいよ!じゃあ、ついてきて?」
そう言ってギーミアはよたよたと走り出した。
「...待ってくれ!この、ギーミアはこの遺跡の内部構造を知っているのか?」
「うん!いいからついてきて?」
そういうと、ギーミアは正方形の広間の壁のうち、何もない壁の一辺に手をかざした。
「あーけーて」
ギーミアがそういった途端。壁が呼応するかのように光り、床に面した2メートル四方ほどの壁が細かな立方体に細分化され、道を開けるかのように左右に動いて通路が現れた。
「......は?...これは!?…なぁ、君は…」
「ギーミアだよ。」
「…ギーミアは、天人族…で合ってるんだよな?何故この遺跡の仕掛けを知っている?」
呆気にとられていたへイムルは通路を歩いていくギーミアを慌てて追いつつ質問する。
「もちろん私は天人族であっているよ。遺跡?とかは分からないけれど私が最後に眠りについたところから動いてないからここは研究所だよ?第一造書研究所。研究者のひとたちが権能の研究をするとこなんだ…」
ヘイムルは一切の迷いなく歩みを進めるギーミアを慌てて追いかけて横へ並び、歩幅を揃えて周囲を警戒しながら歩く。
「なるほど…それで、今はどこへ向かって歩いているんだ?」
「とりあえずは、回廊に向かってるよ。外、出たいでしょ?」
「ああ。心遣い痛みいる。」
そうこうしている間に、通路の終わりが見え、一つの扉があった。開けると、地上での崩落が嘘だったかのようにヒビ一つない大回廊があった。
「そういえば、私からも質問いい?」
「…なんだ?」
ヘイムルは辺りに脅威がないか、気を配りながら先頭に立ち階段を登る。
「…さっきあなたは、原初の末裔について知らないって言ってたけれど、純白の羽根にあなたのその目と同じ色をした瞳を持つ天人族の女性を知らない?…もしいなかったら、翼を持ってなくても、身内とかでもいいんだけど…」
「…すまない、唯一の肉親であった実の母とは幼いときに死別しているんだ。」
ふと、後ろから続いていた足音が止まった。
「…ギーミア?」
見れば、一瞬立ち止まったギーミアの瞳に切り揃えられた前髪の影が落ちた。
「ううん…なんでもない!そっか、そっか。ごめんね!嫌なこと思い出させたね?」
「いや、俺は別に…」
ハッと顔を上げたギーミアはへイムルの手をつかんで先へ進む。
「ほら進もう!…まだまだ先は長いよ!」
そう言って速い足取りで進んでいくギーミアの背中からはその表情は見て取れない。
ふと躓きそうになって足元を見ると、小さな水滴が落ちた跡が黒い小さな点を作っていた。
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