不可視記憶と実在しない感覚の果てしないレゾナンス

この物語は、物語を理解させようとはしない。
読者の中にある感覚が、静かに共鳴するかどうかだけを問う。

声、記憶、喪失。
テクノロジーは説明されるためではなく、人の感情に触れるために存在している。
それは、2000年代のSFが辿り着いた「静かな感性」の系譜にある。

強い展開や分かりやすいカタルシスはない。
けれど、読後に残るのは、誰かの声を確かに聞いたという感覚だ。
その余韻に価値を見いだせる人にとって、この作品は忘れがたい一作になる。

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