「タッタタという三拍子が他の馬とは違う。特別に柔らかいんだよ」
文中に出てくるこのセリフ、これがそのまま、九月ソナタさんの作風の説明になる。
イケメン王子と、ちょっとユニークな頑張る女の子(たまに男の子)
王道中の王道。
ありふれたストーリー。
しかしながら何かが違う。先行レビュー者「みかみさん」の仰るとおり、違うのだ。
レビューのたびに毎回似たようなことを書いているが、その違いは、九月ソナタさんの童心にある。
赤毛のアンが童話を書いたならきっとこのようなお話ではなかったかと想わせる、のびやかで、豊かな感性が隅々にきらめく、軽やかな筆致。
たくさん読書をしてきたことをうかがわせながらも、気難しい文学少女くずれになることもなく、「わたしの好きなお話」を想像の羽根を拡げて、のびのびと書いておられる。
大好きな絵本を抱いて眠った夜が誰にでもあるだろう。
お姫さまはお姫さま、王子さまは王子さま。童話の中にいた彼らとの再会。
北海道で育ち、在米生活が長い九月ソナタさんの紡ぐ物語は、どこか懐かしい。特別に柔らかい。
陽ざしに白く灯る桜の下を通るたびに青空に吸い上げられていくような気分になった幼い頃の春を、読む人たちに想い出させてくれるのだ。
世の中は、実に沢山のお話で溢れかえっています。
ホラー、ミステリー、ハイファンタジー、異世界ファンタジー、ヒューマンドラマ、sf――
とにかく、たくさん、たくさんです。
Webの世界に入れば、それはもう選び放題。よりどりみどり。
力作がばんばん集まるカクヨムコンなんて、超絶ひゃはーです。
でも、何故かものたりない。
けして、出会う作品に心が動かされないからじゃあないんです。
笑わせてくれるもの、ほっこりさせてくれるもの、ドキドキさせてももらえるし、えぐられる時だってある。
けれど何か、欠けている栄養素みたいなものがずっと私をプチ飢餓状態にしておりました。
こういうのって、何が足りないか自分でも分からない。
だから厄介なんです。
本日、こちらの作品に出会って、求めていた栄養素がようやく判明しました。
私を『物語』好きにさせてくれた原点とも言うべき要素。それが、本作には詰まっておりました。
なんでしょう……。
王道、はすこし違う。
あえて言うなら『核』
かなぁ。
とにもかくにも、子供の頃に触れて、心をかっさらわれたあの感覚を思い出しました。
本当に久しぶりでした。
とても満たされました。
私のように、プチ飢餓状態の方は沢山いらっしゃるんじゃないでしょうか。
お腹をすかせながら、カクヨムという樹海で彷徨っておられる方にこそ読んでいただきたいです。
もしかしたら、この作品があなたの求めている『栄養素』かもしれません。
オススメです!