事実は小説よりも狂奇

@kyomu4245

芽吹 銃と狂人と死

「……今なんつった?」


 突如、座っていた鉄パイプの椅子が倒れる。

 鼓膜を震わせる程の音が響き渡る。次の瞬間、俺の体が押し倒される。

 体内から鈍い音が響くと同時に背中を激しく打ち付け、一瞬仰け反る。

 痛みに声を上げようと口を開いた瞬間。俺を押し倒した警察官、春宮が携帯していたリボルバーを突っ込まれる。

 銃後方にある突起に指を引っ掛ける。突起に添えた親指を勢いよく振り下ろす。

 弾頭が見える筒が一回転し、装填音が四畳半の部屋に木魂する。

 同時に俺の腹部に殺意を宿した目で俺を見下ろし、乗っかかってくる。

 冷えきっているタイル状の床のせいか。それとも俺を見下ろしてくる女性の冷めきった目のせいなのか。

 先程から寒気と震えが止まらない。

 俺が今いるここは地下のアンダーグラウンドにある闇カジノでもない。ましてや世間を騒がしているヤクザの事務所で拷問を受けている訳ではない。

 信じられないだろうがここは、市民のみんなが頼りにしている警察署の中だという。

 流石に警察の人間だ。こんな場所で人殺しはしないと確信している。

 だが、を見ていた俺の心は耳をつんざく程のハザード音を鳴らしていた。

 銃を構えている女性の目には軽く人を殺す事に躊躇など微塵も持っていなかった。

 俺は大抵の事なら、恐怖心を表に出す事はない。だが今は若干の恐怖が現れている。

 先ほどから脳内は死という単語がピンボールの如く跳ね回っていた。


「うぇ!ふご!」


 脳内でピンボールをしていると、俺の鼻腔に金木犀の香りが充満する。

 その香りの根源は今俺の口にある銃が更に奥に押し込められる。

 その際に女性の刑事が前のめりになった際、彼女の結ばれた髪が鼻付近に落ちてくる。金木犀の香りを嗅ぐ度、生まれて初めて死を実感できた。

 人が死ぬという行為はテレビや漫画の世界だけだと思っていた。だが、いざ死を間近にすると過去の事を鮮明に思い出すのだな。

 と言っても出てくるのはクソミテェなもんだけど……まだ俺は死ぬ訳にはいかないんだ。

 助かる方法をなんとか編み出そうと死を勧めてくる走馬灯を振り切って、こうなってしまった事を思い出す。

 思い返すとホントさっきと言ってしまえばさっきだが正確に言うと数時間前の事。

 この拳銃を突っ込んできた狂人刑事と部屋の隅でこの光景をワクワクしながら見てる車椅子の腹黒女と……この2人と関わってしまったと言っても過言では無い。

 諸悪の根源……華異かいいという未知の生物との出会いだ。


 

 

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