第3話 上位ベースボール選手
初戦から下位リーグで3戦ほど試合があった。そんなに強くもないチームだったこともあり、フィニックスが先発で投げて点差が付けば交代という方式で3勝できた。
フィニックスが投げ続ければ完封は間違いなかったが、代償として身体の負担は免れないためその方式を取っている。
次の初の上位リーグ戦に向けて、チームメンバーは珍しく全員でトレーニングをしていた。そんなトレーニング後のロッカールームで話し掛けてくる男がいた。
「なぁ聞いたかよ、上位リーグに上がって1戦目の相手
あのパイロブレス・ドラゴンズだってよ」
「あのさぁミゲル、裏のリーグなんてテレビじゃ放送されてないのよ
“あの”って言われても“どの”パイロかも“どの”ドラゴンかもわかんねぇな」
ミゲルはヴェノマス・トーズのレフト、その軽い雰囲気だけでチームにいるような下手クソだ。色々事情には通じているので、情報は全部コイツから聞ける。
「おいおい、裏リーグに入ったからには見とけよ、裏リーグ配信チャンネル
聞いて驚け、このチームはホームではほぼ負けねぇ」
「嘘だろ……
裏リーグの配信チャンネルなんてあるのかよ……!」
「そっちかよ!
ホームで負け無しだぞ!?
そっちに驚けよ」
「いや、まぁ驚きなんだが、その言い方だとホーム意外だと普通に負けてんだろ?
裏リーグは知らんけどホームとアウェイは普通50:50
下位リーグとかホームでやったの1回だけだったし、たぶんホーム戦だけじゃ優勝はできねぇ」
「かぁ〜、即そこまで思い至るのはさすがだねぇ
そうそう、ヤツらホーム以外はほぼ負け」
「は?」
ホーム戦が強いってチームはいるが、そこまでハッキリしてるのは異常だ。普通ならその時点で即イカサマを疑われるが、そうじゃないなら……。
「そのチーム、普通に弱いだろ」
「あぁ、クソ弱い
ホーム戦でもなぜ勝てねぇのかわかんねぇくらいな」
特に対策もなく対パイロブレス・ドラゴンズ初戦を迎えた。上位リーグはホームグランドをもれなく持つ。我らがヴェノマス・トーズも上位昇格に際してホームグランドを急遽リース契約をした、港湾のしみったれたグランドだ。
『さぁ始まりましたアンダー“グランド”上位リーグ、本日はパイロブレス・ドラゴンズ対ヴェノマス・トーズ!
ホームにおいてもはや負けなしのドラゴンズに対し、挑むはシーズン途中に異例の上位昇格のトーズ
ホーム戦最強をチーム打破する番狂せとなるか、早速力試しの一戦です!』
ロッカールームでは毎試合恒例、作戦会議とは名ばかりのダベりが行われていた。
「とりあえず俺が投げてる限り負けることは無いだろ
最悪でも同点、無敗伝説も終わりってことだ」
「マジで有り得ねぇくらいの自信だな
まぁ実力は俺たちも目の当たりにしたけどよ
だが強いから勝てるって次元じゃないと思うぜ」
「ありがたいねぇ、勝てたらこりゃ年俸アップだな」
フィニックスは投球練習のためにブルペンという名の地下駐車場へ向かいながら、ある懸念について考えていた。
絶対の威力を持つ投球に、絶対の能力を持つ相手が現れた場合どちらが優位になるのか。相手チームにホーム限定で絶対打つバッターなんかがいた場合勝てるのだろうか。
(まぁよくわからんが何か魔力とかそういうのが強い方が勝つんだろうな……
俺は筋トレよりも魔力トレーニングとかした方が良いんじゃないの……?)
投球練習は身体が変わらない範囲で毎回無茶苦茶な投球をして能力の有効を確認している。今回はキャッチャーに後ろを向いてもらって壁に当ててミットに入れるというものだった。これは特に物理的に無理もなかったので簡単にできた。
試合の開始時間の夜の7:45、裏リーグはいつも何故かナイター。後ろ暗いことは何故かいつも暗い時間帯にやるらしい。“表”ほどじゃないが眩しい投光器に照らされながらマウンドに立つ。
パイロブレス・ドラゴンズはチーム全員がアジア系人種。ミゲル曰く、どうやらこの球場の周りの地元民が所属しているらしく、移民系で構成された珍しいチーム。最初のバッターも例外なくアジア系の顔立ちだった。
「ネタはわからんがやってみるしかないか」
球審がプレイボールを宣言し、1球目を投げる。打者はスイングしたが空振りし、意外なほどあっさりとミットに収まった。
少し球場がざわついた感じがあり、これだけでも普段とは違うらしいことがわかった。投球の時にも後にも特に負担がなかったが、フィニックスはなんだか嫌な感じがした。
構わず2球目を投げる。またしても空振りのストライクカウント。全く負ける気のしないバッターを相手に、肩透かしを食らったような顔をしているとここで初めて異変が現れた。
「オェっ……!」
猛烈な吐き気、全身が酷い風邪の時のようなダルさに襲われた。目の前がグラグラするような眩暈。おそらく、それでも投げれば三振は取れる。その代わり、とてつもない体調悪化に見舞われるのだろう。
「まぁ…でも、やってみるしかないわな……」
フラフラになりながら投球姿勢を取る。かろうじて投げたボールはフォームからはあり得ないほど真っ直ぐに飛びミットに収まる。
「ッ……!」
その代償としてすぐに襲った体調不良は、もはや苦痛を伴いフィニックスの意識を奪った。三振を奪った先発投手はマウンドの上に倒れ込むことになった。
目が覚めたのは試合終了直後、身体には気持ちの悪さもダルさも全く残っていなかった。医務室にはスタッフがついていた。
「試合はどうなってる!?」
「ちょうど今終わったよ
0-7で惨敗だ
アンタが倒れた後は3回で3点取られ、7回で3点取られ、ダメ押しで9回に1点だ」
これは勝てない。投げれば負けない絶対投手も投げられなきゃ意味がない。あれは……、呪いか?
もし俺の左腕と同じような“ホームの試合では絶対に勝つ”という条件だったなら、そもそも三振は取れてなかっただろう。つまり、推測でしかないが、俺の能力は打ち消されていない。
「とりあえずトレーニング行くか」
魔球の射手 @epocepoc
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