主人公も、周りの人間も、善も悪も、確かにそこに存在すると教えてくれる作品。
お嬢様だとか剣士だとかエルフだとかなんだとかありがちな設定は、作者の文章力によって「個人」を与えられ、作品の中に生まれ落ちています。
配信回では応援コメントが大荒れし、現実の炎上さながらでした。それは物語が本物らしいことの証左だと私は思います。
キャラ一人ひとり、いいところも悪いところもありますから、もしかしたら合わないキャラによっては読み進めるのが難しいかもしれません。
しかしそれこそがこの作品の良さでもあるので、全員にはオススメできないです。
ただ、私にとってはとても好きな作品です。
なろうの方も癖が強いですが好きです。
自分は好きな作品。
心理描写が匠で、人間は単純ではなく、複雑な思考、思想があることを上手に表現できている。
人の考えを表現しようとすると、作者の思想を押し付けるような作品になってしまうことがあるが、いい塩梅で線引ができていると思う。
(考えを押し付けていたとしても、それを主人公のキャラクターに落とし込めている)
主人公最強としてバトル物かと思わせて、そこから人間関係のドラマが展開される。
人間関係を主軸にしていくと、鬱々とした展開になったり、主人公や適役がただのアホみたいになったりするが、陰陽のキャラクターでバランスよく展開されている。
勧善懲悪が好きな人や、バトル物で爽快感を得たい人には合わないかもしれない。
キャラクターを使い捨てずに背景を深堀りし、物事は白と黒で分けられないから複雑で面白いということを感じさせてくれる作品。
(今後どのように展開されるかわからないのでまだ★2)
――もっとああすれば、なんてのは寝言だ。もっとああできないやつなんだっていう、それだけの話だ。俺も、おまえも、他のみんなも
作中より。
善人だから与えられたわけでも、努力してたから報われたわけでもない。望んですらいない。
ただ拾った。
聖剣と、おそらくは業深き妖刀を。
主人公のD級ダンジョン清掃員トールは決して善人ではない。けれど悪人でもない。選ばれし人間ではないものが一振りでもバランスブレイカーな伝説の剣を二本も拾ってしまうのは、ファンタジーの中でも偏ってファンタジーな設定。でもその理不尽は作中うまく消化されていました。
聖剣のヒロインティアに対して、主人公も妖刀を持っていることで存在感が競り負けないし、チートすぎて現実感ないという展開でもない。
本作は、設定とうってかわって写実的です。
現代と異世界が融合してしまった本作世界は、剣と魔法がありながら価値観は一般労働社会のまま世知辛い。清掃員はコネで立場を得た受付嬢に見下されている。
けれどその分トールも含め凡人……人のカッコ悪さに体温があります。
前述の受付嬢、生まれつき才能に恵まれイージーモードしか知らないアイドル冒険者。本作では誰もたまたま生まれつきのガチャに勝った「運が良かっただけの凡人」のように見える。その理不尽がトールの成り上がりに現実感を持たせています。
けれど彼女らが空っぽの人物に書かれているかというとそうでもない。
誰もその人なりにそう生きるしかなく、それぞれ与えられた立場に対し人間らしく至らず、失言し、見誤り、窮地に陥り、もがくように生きている。それは笹森のような足を引っ張ることを生き方としてきた人物でも書かれている。
自覚して謙虚な者もいれば、自覚せず他人ばかり見下す者もいるにせよ。
偉人なんて美化の中にしかいない、
トールは「できない」ことを悪いようには言わない。もっとああできないやつなんだっていう、それだけの話。人は等しく凡人なのかも知れない。
剣を持たない頃、トールは清掃員として「迷宮暴走」を防ごうとしていた。彼に出来ることがそれしかなかったから。剣を持っているかどうかはトールにとって重要ではないのでしょう。
本作の謎は二振りの剣と「迷宮暴走」という災厄を焦点に深まっていきます。数奇な運命になると思われます。
まだ連載中ながら、カクヨムコンテスト最終日をもってレビューを書かせていただきました。