第4話 ハイリゲ・ツヴァイ!


 グリューネの緑。ロティルダの赤。

 二人の聖女はそれぞれの聖力に包まれた。

 着ていたドレスがシュルシュルと形を変える。鎧のごとく身を守るが、見た目は燕尾の乗馬服のように上品な戦闘スーツ。

 この後、決め口上を述べれば頬と口もとがマスクでおおわれる。まずはリーダーのロティルダが右手を天に掲げた!


「――赤き炎が魔を焼き尽くし!」

「ブラウナがいなーい!」


 グリューネが悲鳴をあげた。いつもならここで「青き泉は命を育む!」とブラウナが微笑むのに。


「い、いいから二人でやるの!」

「仕方ない! ――緑の風よ安息をもたらせ!」


 なんだか締まらないのでローザとアウローラのぶんを小声でつぶやく。


「激情の華には棘もあるけど……聖なる光で民を守らん……」

「その調子、いくわよ!」


 二人の声が重なる!


「「五つの奇跡よ、邪悪を祓え! 我ら、聖女戦隊ハイリゲ――」」


 一瞬のためらいがあった。今、フュンフ五人じゃない。


「「――ツヴァイ二人!!」」

「ばーぶーっ! まぁっ!」


 いい子でお座りするフィオが、たった二人の戦隊に歓声をあげ応援してくれる。

 薄れゆく白煙の向こうを見れば、そこに黒ずくめの男たちがいた。五人ほど。なんだか顔を見合わせてうろたえている。


「ちょ待てよ! 〈赤き戦乙女〉までいるとか聞いてないぞ」

「ていうか聖女戦隊が変身するってマジだったのか……」

「俺らが敵うわけないじゃないかっ、聖力のオーラにっ」

「おいおーい顔を傷つけろって言われたけどマスクでおおわれてんじゃん?」

「いや、ワンチャン目ならいけるって!」

「――ちょっとあんたたち!」


 たまらずにグリューネは口を挟んだ。聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「――私の顔に傷を負わせるつもりで来たの?」


 ゆらり。緑のオーラが揺れた。男たちが一歩後ずさる。

 どうやらこれは魔族の襲撃などではないらしい。相手は普通の人間だ――しかし!


(乙女の顔を狙うとは――私、嫁入り前なのに!)


 許せない。グリューネはサッと地に手をついた。


「――グリュン・ケッテ緑の鎖!」

「ぐわぁっ!?」


 賊の足もとの芝生がありえない速さで成長した。なんなら根っこまで地上にはみ出してきて、強く男たちを縛りあげる。ナイフを手にしている男もいたが、拘束を切ろうにも手首しか動かせなくなった。


「く、くそ……っ!」

「あらぁ、情けないこと。何もできずに焼き尽くされていくのね」


 団子になって崩れ落ちもがく賊を見おろし、ロティルダは凄惨に笑んだ。右の手のひらを差し出す。


ロート・ライニグング浄化の赤


 静かに唱えるとその手の上に炎が現れる。男たちから悲鳴があがった。


「やめろぉっ! 俺たちは頼まれただけだ!」

「ふふっ、悪人はみんな言い訳をさえずるものよ」

「本当なんだ! 助けてくれ! 貴族の使用人っぽい奴から金をもらったんだよぉっ!」


 その訴えにロティルダは片眉を上げ、を片足で踏みつけた。楽しそうだ。

 さらに脅そうとするのをグリューネはさえぎる。


「もうやめよ? フィオがお目々まん丸にして見てるじゃないの。教育に悪いってば」

「あん、いけない子ねフィオ? ここからはオトナの時間なのに」


 嫣然としてロティルダは捕らえた賊に目をやった。

 彼らの中に、女王様にお仕えしたい系の者がいたら――そのまなざしにゾクゾクしたに違いない。



  ✠ ✠ ✠ ✠ ✠



 尋問により判明した賊の命令元。それはリヒトに熱をあげる男爵家の娘だった。

 リヒトが王宮を出奔し、聖女との愛の結晶を育てている――そんな噂にブチ切れ逆恨みしたらしい。


「だから産んでないって言ってるのに……」


 夜。静かになった館で、居間のソファにグリューネはくつろいでいた。しかし不満たらたら。

 腕に抱かれウトウトするフィオはとっても可愛い。でもグリューネ本人は出産どころか、純潔の身だ。


「いいじゃないか。いっそこのままグリューネとフィオを俺が迎え入れる手もあるな」


 リヒトはスッと隣に腰をおろした。グリューネとの間に隙間がない。グリューネの肩に手を回すと、フィオごと両腕にそっと抱きしめてきた。


「緑の聖女グリューネなら、俺の妃になっても文句は出ないさ」

「またそういう冗談ばっかり……」


 顔を上げたグリューネは、近すぎるリヒトにうろたえた。やだ、ビジュがいい。


 ――戦場ではいつも近くにリヒトがいた。

 こうして密着し、魔族の探索から隠れたことがある。焚き火の前で寄り添い仮眠もした。リヒトの裸だって見た。傷を負ったリヒトの服を脱がし治療しただけだけど、筋肉もイケてた。


「冗談……だと思うか?」


 リヒトの吐息が頬にかかった。美形の圧に伏せたくなる顔を、意識して上げる。見返した。

 リヒトの瞳が煌めく。その輝きがとてもイタズラで、グリューネはため息をついた。コン、とリヒトの肩をおでこで小突く。


「子どもの頭の上で本気のわけないでしょ」

「……バレたか」


 楽しそうに笑んだリヒトはそっとフィオを抱き取る。よく食べよく眠る赤ん坊は幸せそうに眠りかけながらフニャフニャ言った。


「まぁ……」

「ママはまだ寝る支度をしてないんだよ。しばらくパパが抱っこしててやるからな」

「もう。またパパ、ママなんて言って」


 とはいえフィオを見ていてくれるのはありがたい。さっさと身支度を整えようとしてグリューネは立ち上がった。軽々と片手でフィオを抱くリヒトは微笑んで赤ん坊を眺めている。


(……まさか本当に父親なのかしら)


 魔族の女性を愛して内密に産ませたものの、母となった人が病に倒れ――とか。


(それとも相手が魔族の姫で、引き裂かれてしまった! なんてのもいいわぁ)


 勝手な空想をされているとは知らず、すぴすぴ眠りにつく赤ん坊フィオ。

 その両親の正体は、まだなんの手がかりもない。


 紫がかる瞳が示す、魔族との関わり。

 となると、フィオの親を探す行く手にはきっと戦いが待っているはず――だが、グリューネなら戦い抜くだろう。聖女戦隊の〈緑〉なのだから。


 グリューネはキッとあごを上げた。

 フィオにはなんの罪もない。この子の幸せを守らなくては――!



 そうだ行け、聖女戦隊!

 戦え、ハイリゲ・フュンフ!


 ――――まずは育児という戦いに、身を投じるのだ!!





  ✠ ✠ ✠ ✠ ✠



 ……という第一章でした。カクヨムネクスト賞への応募作ですので、ここで終わりますがご容赦ください。

 続きが気になると思えましたら、★★★評価をよろしくお願いいたします!


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聖女戦隊、赤ちゃんを拾いました 山田あとり @yamadatori

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