多分高偏差値夫婦

　落ち着いた雰囲気で何を話しているかと耳をすませば、夫婦喧嘩をやっていた。夫、妻、両方とも機械のような話し方だった。感情を表に出さないよう理性的に接していた。彼らに、高偏差値だろうという疑惑が浮かんだ。中高一貫、塾通い、東大卒、大企業社員、そんな言葉がパチリと当てはまるような会話の仕方だった。

夫「パパに抱っこされてると静かだねー」

妻「女は今は会社で働いて当たり前、とかめっちゃ言われて」

　事務的な喧嘩の後、言葉だけの甘やかしをしゃべっていた。それはそうと、よく聞いていたら喧嘩ではなかった。妻の愚痴を夫が聞いていたのだ。そう判明した後も、私は奴らの異常に機械的な話し方が無性に嫌だった。理性で激怒をコントロールしているように見えて、実際にはそういう「コントロールできる自分たち優秀」という、心の狭すぎる陶酔に浸っていたのではないか。4,50代のおばさんはそんなことができない。代わりに醜い感情をとめどなく流し続けることができる。もしその流れに巻き込まれたら一貫の終わりだが、20mほど高いところから見れば雄大な河川の流れが拝める。高偏差値若造夫婦は、感情を制御したために砂漠を砂漠のままにした。

　味のない会話をタリーズで聞くのは正直言って生きたタコに首を絞められるより嫌だ。都心のど真ん中のタリーズはこういう無味なのが多い。住宅街が多いところのタリーズでは、おばさんが薬の数の自慢で盛り上がっていたことを覚えている。また、高校生カップルが頭を引っ付けて一台のスマホを見ながらクスクス笑っていたことも覚えている。黒ずくめの、闇バイト指示役かと思える男四人組。日本語とベトナム語を交互に使いながら会話する意味不明な男女。職場のおばさんOが嫌っていた先方のおばさん（子連れ）。私は、カフェでは味のある者どもを見たい。ただそれだけだ。