成人の試練・二人の少年はその夜、授けと呪いを得る
ケロリビドー
成人の試練・二人の少年はその夜、授けと呪いを得る
その村の成人の儀式は、夜に精霊たちの棲む森に入り試練を受けるという物だった。
12歳の少年ハリーは小さな灯りを手に、深淵の森へと足を踏み入れた。
森の奥、少年を待つのは一生を終えたエルフが姿を変えた大樹「授けの木」である。
儀式の試練は授けの木からその果実を得て村に持ち帰ること。それを口にした者はその一生を終えるまで森から糧を得て生きることを許されるのだった。
試練そのものはそう難しくない。森と精霊に敬意を払い、自分が生きるに足る糧だけ得て生きる誓いを立てればいいのだ。しかしハリーには気がかりなことがある。同い年のジャックの存在だった。
ハリーはジャックに虐められていた。いつも暴力をふるわれ、持ち物を取り上げられた。少し前にジャックも授けの木へ向けて出発している。真っ暗で他に誰もいない森で彼と二人きりになるのはハリーは嫌だった。
その時がさがさと茂みが蠢き、恐怖に駆られたハリーは思わず駆け出す。しばらく走ったところで急に何かに足を取られ、そのまま転倒した。
「いたた……」
身を起こすと、暗闇からジャックの意地悪な笑い声が聞こえた。
「ハハハ! のろまのハリー、お前は絶対に大人になんかなれないさ……」
足元を見ると草が結んである。こんな大事な夜さえ邪魔されるのか……と暗澹たる気持ちでハリーは足を引きずり奥へと進んだ。
予定よりも時間をかけて、ようやくたどり着いた場所で授けの木はハリーの前に姿を現した。まだ若いうちに木になったというエルフの両目が木の幹にぎょろりぎょろりと生きていた。ジャックはもう儀式を済ませたのか、ここにはいない。恐怖を押し殺しながらハリーは授けの木に実を乞う。
「成人の儀式で実を授けてもらいに来ました。どうか僕を大人にしてください」
葉擦れに似た声が少年に降りかかった。
「定命の子よ。そなたは森とどう生きるのか」
「ぼ、ぼくは、森に感謝します。与えられた命を全うして、欲しがり過ぎずに精霊に敬意を払って生きます!」
ハリーが勇気を出してそう言うと、掌に温かい木の実が一つ落ちた。彼は授けの木に感謝をし、それを持ちかえった。
村に戻ったハリーを待っていたのは、ひたすら笑い転げるジャックの姿だった。
「ジャックは森へと放とう」
授けの木に敬意を払えない者はエルフの呪いを得る。そして狂気に沈むのだと村長が言った。
ハリーはその後村で一生を終えたが、時々森で12歳のジャックの笑い声を聞いたという。
成人の試練・二人の少年はその夜、授けと呪いを得る ケロリビドー @keroribido
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