第3話 研究所が私の住処です
研究所で働くようになってから私の生活は一変して忙しくなった。
「セリナ、この書類ミスがあるわよ」
「すみません、今直します!」
「あとこの魔道具だけど、普段使いしたいならこんなにゴテゴテさせないほうが良いと思うわ」
「なるほど、参考にします!」
カプリ先輩が教えてくれたことを忘れないようにメモを取る。忙しい毎日だけど、全部が魔道具の研究や開発につながるものだから楽しい。何の感情も湧かずに淑女教育を受けていたあの頃より、断然楽しい。
「あとね、セリナ」
「はい、なんでしょう」
「ちゃんと家に帰ってる?」
私は研究所で寝泊まりした日にちを数える。
「3,4……6日前に帰りましたよ」
「休みの日以外ほぼ研究所じゃない! 一週間は7日しかないのよ!」
「だって家にいたら仕事ができないじゃないですか」
「あんた、とんだワーカーホリックね」
カプリ先輩が呆れたようにため息を吐く。私は首を傾げた。
私は好きなことをしているだけだ。起きたら魔導具のことを研究して開発して、気が付いたら眠っていて、目が覚めたら魔導具を研究して開発する。好きなことを好きなだけしても許されるから楽しい。アステリア家にいた時には考えられないことだ。
「あんた、どうしてそんなに頑張るのよ」
「魔道具の研究が好きなので」
「それにしてもやりすぎじゃない?」
「そんなことないですよ。だってせっかく研究できるのにしないなんて、時間がもったいないですから」
私は魔道具に関する論文や参考書を眺めながら話す。
「魔道具の開発なんてアステリア家にいた時は許されなかったんです。だから研究できる環境になった今、全てを研究の時間に使いたいんです」
私は机に広げていたノートを抱きしめる。これは私が家にいた頃から使っているメモ用のノートだ。家の中では地位が低くて自由がないから、ノート一冊買ってもらうのにも苦労した。
ページが勝手に増える魔道具で、開発したい魔道具のアイディアをここに記したり、家に置いてある本で使えそうな文献の題名やページを記したりするのに使っていた大事なノートである。小さい頃からずっと使っていたからボロボロだが今でも使っている。
魔鉱石さえあれば半永久的に使えるのだから、やっぱり魔道具ってすごい。
「でも、お風呂ぐらいは入りなさいよね」
「そんな! お風呂を入ってる時間がもったいないですよ」
「あんた、本当に貴族出身?」
カプリ先輩がため息を吐くと私の腕を引っ張った。カプリ先輩に連れて行かれるまま歩くと、カプリ先輩は私を研究所の外へ追い出した。
「今日は帰りなさい。ゆっくり休むのも仕事のうちよ。どうせろくなご飯も食べてないんでしょう」
「でも、新人だし頑張らないと――」
「新人に簡単に追いつかれるような仕事なんかあたしたちはしてないわ。いいから今日はゆっくり寝なさい」
カプリ先輩は研究所の扉をばたんと閉める。今日は入れてもらえそうにない。
こうなっては帰るしかない。私は肩を落として、一人暮らし用に用意してもらった家に帰ることしにた。
***
あたしが魔導具課に戻ると、課長は苦笑いをして待っていた。
「カプリ。もうちょっと言い方があるんじゃないかね」
「うるさいわね。課長もインスタントばっかり食べてないでちゃんとしたものを食べなさい」
「う~ん、根は優しいんだけど言い方がきついんだよなあ」
課長は困った顔で蓄えたお腹をさする。中年に差し掛かって薄くなり始めた髪がふわっと揺れた。
「それにしてもセリナさんって、貴族っぽくないっていうか意外といい子そうだよね。本当に魔導具が好きみたいだし」
「……そうみたいね」
正直意外だった。世間的に魔導具は貴族のためにある道楽だと思われている。魔道具は強い魔法が使える人向けという認識があるせいだ。本当は魔法が使える人なら誰だって使えるし、あたしが作りたいのは庶民に親しまれるような魔導具だ。
でも現実はそううまくいかなくて、貴族に売れるからという理由でお金儲けのために魔導具を開発しようとする人は少なくない。セリナもその一人だと思ってた。寝る間も惜しみ、家に帰る時間すら惜しんで研究する姿を見るまでは。
「ここの所長が貴族のコネで入って来た子を受け入れるって聞いたときは驚いたけど、魔導具が好きなのを知ってたから魔導具課に受け入れたんだね」
課長の言葉にカプリは頷く。少なくともセリナは娯楽や遊び半分でやってきたわけではない。数日だが、セリナの行動を見てるとそう思えた。
「まあ、研究者としてはまだまだだけどね」
口から出た自分の声が思ったより優しくて、カプリはつい笑みを浮かべた。
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婚約破棄されたので大好きな魔道具の研究をします! ~魔法科学の女神? 待って、私は魔法使えないんだけど!?~ ぬのきれタ @nunokireta
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