第5話# 短編エピソード:最高のゲーム



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### 短編エピソード:最高のゲーム


わたしは満足感に浸りながら、ヤツからの電話に出た。スピーカーモードに切り替え、スマホをテーブルに置く。片手では、箱の中の母親の生首の、冷たい頬を撫でていた。


「もしもし?」

『…どうだ? 春海。プレゼントは気に入ったか?』

電話の向こうから、わたしの反応を窺うような、粘つく声が聞こえる。きっと、わたしの悲鳴や絶叫を期待しているんだろう。ウケる。


「まあね。ヒントが分かりやすすぎたわ。『一番最初のオモチャ』。答えはママ。で、わたしの勝ち?」

『……』


一瞬の沈黙。ヤツの計算が狂った音だ。わたしが動揺もせず、ゲームの勝敗について話していることが、理解できないんだろう。やがて、絞り出すような声が聞こえた。


『…ああ、お前の勝ちだ。だが、残念だったな。お前から奪うはずだった『大切なもの』は、もうこの箱の中だ』

ヤツはククク、と喉の奥で笑う。必死にマウントを取ろうとする姿が、目に浮かぶようだ。

『銀座じゃお前は『誰でも良かった』と言ったらしいな。だが俺は違う。これはぜんぶ、お前のためだ!』


「そう。嬉しいわ」

『…は?』

「わたしのためだけに、ママを殺してくれたんでしょ? 最高の愛の告白じゃない。やっと本気になったのね」


わたしがうっとりと囁くと、電話の向こうでヤツが息を呑んだ。

ああ、楽しい。こいつの常識が、わたしの前でガラガラと崩れていく。


わたしはテーブルの上のオブジェ(ママの生首)を眺めながら、日常の献立を相談する主婦のように、軽い口調で切り出した。

「で、相談なんだけど。これ、どうしようかなって。あなたからのプレゼントだし、無碍にもできないけど、正直ちょっと大きくて冷蔵庫に入らないのよね」


『……何を、言って…』

「せっかくの頂きものだし、腐らせるのも勿体ないじゃない? そうね…余りものだから、お隣さんに分けてあげようか?」


電話の向こうで、空気が凍った。

ヤツの呼吸が止まる。わたしの狂気を、測っている。試している。

やがて、スピーカーから漏れ聞こえてきたのは、抑えきれない歓喜に震える声だった。


「そうだな! それがいい!」


ヤツは腹を抱えて笑い出した。憎悪に満ちた声じゃない。心の底から面白いものを見つけた子供のような、無邪気で、残酷な笑い声。

『いいね、春海! 最高だ! 隣の奥さん、どんな顔するだろうな!』


「でしょ? いつも感じよく挨拶してくれる、人の良さそうな奥さんなのよ。きっと喜んでくれるわ」

『ああ、喜ぶさ! 腰を抜かして、泡を吹いて、一生忘れられない思い出になるだろうな! ハハハ!』


電話越しに、二人の笑い声が重なる。

憎しみ合っているはずなのに。この瞬間、わたしとヤツは、世界でたった二人の共犯者だった。誰にも理解できない悪意と愉悦を、完璧に分かち合える、唯一の相手。


「じゃ、善は急げってね。タッパー、どれがいいかしら」

『ああ、丁寧にラッピングしてやれよ。リボンも忘れずにな』

「もちろん。じゃあ、また後で」


わたしは通話を切ると、鼻歌まじりでキッチンに向かった。食器棚から、イチゴのイラストが描かれた、可愛らしいタッパーを取り出す。


「さあ、ママ。お引越しよ。ご近所付き合いって、大事にしなくちゃね(笑)」

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退屈だから、夫を死刑にしてみた。 志乃原七海 @09093495732p

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