第2話 わらわは猫だった。

わらわはマヤーだった。あだ名はまだ無かった。

(吾輩は猫である。名前はまだ無い。)


パパやママはあらかた分からなかった。

(どこで生れたかとんと見当がつかぬ。)


あばら屋からニャーニャー泣かなかった朝は無かった。

(何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。)


わらわはたまたま逢った。やからだった。生だったらなかなか無かった。

(吾輩はここで始めて人間というものを見た。)


わらわが逢った輩はまだ若かったが、頭が回った。数多な輩があった中、わらわが逢った輩は罠だった。

(しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。)


わらわが逢った輩らは、はらわたあばらが温まったら腹が鳴った。

(この書生というのは時々我々を捕まえて煮て食うという話である。)


だが、若かったわらわは分からなかったから、逆らわなかった。

(しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。)


ただ輩は腹から触った。わらわが高々上がったら、甘々な柔らかさがあった。

(ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。)


わらわは挟まったまま体がやや温まったが、頭はざわざわだった。輩ははなから逢わなかったからだ。

(掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。)


輩は肌がサラサラだったから、頭はさながら釜だった。

(第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶だ。)


マヤーならまあまあ逢ったが、輩さながらな片輪は更々逢わなかった。

(その後猫にもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会わした事がない。)


また、頭はなかがまさかだった。あからさまな長さな刀があった。

(のみならず顔の真中があまりに突起している。)


穴からはささやかな綿が上がった。さながら浅間山だった。

(そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。)


やたら鼻から刺さったからたまらなかった。

(どうも咽せぽくて実に弱った。)


輩が欠かさなかった刀。わらわは名が分かった。

(これが人間の飲む煙草というものである事はようやくこの頃知った。)


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 ――ややあからさまだからわざわざ明かさなかったが、あなたは分かったかな? はたまた頭が固かったら分からなかったかな?


 分からなかったら、頭からカタカナ化やらやったら……分かったかな?


 中川昌也は分かった。


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(ネタバレ解説用ページを開設しました!↓)

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わらわは猫だった 天野 純一 @kouyadoufu999

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