第50話 休み明け、続く戦い

 ゴールデンウィークが明け、再び学校生活が始まった。


 ❁❁❁


 休み期間中、もともとの予定にはなかったけれどツインスターのお二人と丸一日会う機会があった。お忍びでということだったけれど、お二人の人あしらいがうますぎて、普通に楽しく遊んでもらった。ゲーセンではしゃぐアイドルを間近で見ることになるとは……。


(でもこれ、普通にファンの人たちに目の敵にされそうだな……)


 勿論遊ぶだけでなく、前世の記憶の擦り合わせや確認などもしている。少しずつだけれど前世の自分を受け入れ、消化しているのだと自分でもわかってきた。

 ツインスターの二人は、しばらく東京でのお仕事らしい。向こうではデメアが出ないということで、合間を見て見に来るよと約束してくれた。


「今をときめくアイドル様が、ひょいひょい地元に戻って良いんですか?」

「今をときめくと言っても、オレらはまだ新人だからな。それに……アイドルになった目的はもう達成されてるし」

「目的?」


 何だったんですか、と尋ねた。するとお二人は、顔を見合わせて笑い合う。答えてくれたのは、カフェラテを飲み干した優依さんだった。


「お前らだよ」

「え?」

「オレたちは、前世で仕えていた王子を捜していたんだ。たくさんの人に知ってもらえれば、王子もオレたちを目にするかもしれない。そう思ったから、アイドルになった」

「結局は、デメアがきっかけではあったけどね。何にしても、出会えてよかったよ」

「会う、ために……」


 夢月が、手を握り締めていた。記憶を取り戻した今、彼にとって慧依さんと優依さんはかつての側近であり、現在は戦闘の先輩で仲間だ。わたしにとっても、お二人は大切な仲間。まさかこんな関係になるなんて、思いもしなかった。


「だから……改めて誓おう。な、慧依」

「ああ、優依」

「誓う? 何、を……」


 首を傾げる夢月の前に、優依さんと慧依さんが跪く。目を丸くする夢月に向かって、慧依さんが粛々と述べた。


「我ら二人、今世でも貴方の傍で、貴方と貴方の大切な人々を守ると誓います」

「月の王国の王子、夢月。我らの誓いを聞き入れて下さいますか?」

「……はい、勿論です。これからも宜しくお願いします」


 言葉を詰まらせた夢月だけど、落ち着いた声で応じた。少し嬉しそうなのは、きっと気の所為ではない。


「でも、今世でも主従だからと丁寧な言葉遣いをする必要はないですよ。お二人の方が年上ですし、経験も上です」

「ま、今世はもう少しラフにつき合わせてもらうよ。よろしくな」

「よろしく、夢月」

「はい」


 握手を交わし、三人が笑い合う。その光景が嬉しくて、わたしはシャリオちゃんと顔を合わせ頷いた。


 ❁❁❁


「美星、おはよう!」

「おはよう、紗都希ちゃん」


 休み中も会っていたけれど、学校で会うのはまた少し気持ちが違う気がする。


(そういえば、何となく紗都希ちゃんってんだよね)


 ぽんぽんと飛び出す彼女の明るい声を聞き相槌を打ちながら、わたしは目を細めていた。話はゴールデンウィークに一緒に行ったカフェやテーマパークのこと、そして今度あるというツインスターのイベントの話へと飛ぶ。


「再来月なんだけどね、隣の市でツインスターも出る音楽イベントがあるの! 明日からチケットの抽選始まるんだけど……よかったら一緒に行かない? 当たれば、だけど」

「……良いの? わたし、ツインスターに関してはミリしらだよ?」

「いい! ミリしらから数ミリしらになってくれたら良いなっていう下心だから」

「正直か」


 思わず突っ込むと、紗都希ちゃんは「うん!」と頷いた。

 紗都希ちゃんは、アイドル・ツインスターのファンだ。だからこそ、言えない。ツインスターである慧依さんと優依さんと知り合いだってことを。わたしたちが戦士としてデメアという怪物と戦っていることも明かさなければならなくなるから。大事な友だちを、危険にさらしたくないから。

 そんなことを考えていたからか、気付くと紗都希ちゃんがわたしの顔を覗き込んでいた。お互い椅子に座った状態で、彼女の大きな目がわたしの顔を映し出す。


「……美星、どうかした?」

「え? あ、ううん。何でもないよ。休みの間遅い時間まで起きてたから、感覚戻ってなくて」

「わかる、夜更かししちゃうよね」


 くすくす笑う紗都希ちゃんを見て、うまく誤魔化せたとほっとする。それからわたしは、再来月だというイベントへの参加に対し「良いよ」と返事した。純粋に、お二人の歌やダンスが見たいと思ったから。

 わたしの返事に、紗都希ちゃんは目を輝かせた。


「ありがと! 当たったらまた言うね」

「うん、よろしく」


 そうこうしているうちに、授業開始のチャイムが鳴る。紗都希ちゃんが自分の席に戻り、わたしはテキスト類を机の上に出した。


 ❁


 六時間目の数学の授業が始まってしばらく経った時、わたしは普段の学校生活では感じないはずの感覚に襲われていた。明らかな敵意と確固たる意志の気配だ。


(こんなところに、何で……っ)


 幸いにも、後五分で授業は終わる。この後は帰るだけのはずだ。だから、放課後になったらすぐに学校を出ようと心に決める。

 教室の前の方を見ると、夢月の後ろ姿が見えた。特に変化は見えなかったけれど、きっと彼も気付いていると信じて。


「――美星」

「うん、行こ」


 案の定、ホームルーム終了と同時に玄関まで走ったわたしの後を夢月が追いかけて来た。わずかに息は乱れているけれど、言外に言いたいことは伝わった。

 近くにデメアがいる。誰かが怪我する前に、倒さなければ。


「おい、夢月!」

「夢月、近くに野犬が出たらしいから気を付けて……」


 駆け出そうとした直後、守山くんと十九川くんが夢月を呼んだ。しかも野犬が出ただなんて、驚きの内容だ。

 わたしも一緒にいることに気付いた守山くんが、夢月に「ちゃんと守れよ」と笑って言った。


「わかってるよ、それくらい」

「なら良いけど? 右の道に出たって言うから、帰るなら左に曲がって遠回りしろってさ」

「了解」


 じゃあなと言って、夢月が走り出す。わたしも後を追いたくて、二人に「また明日ね」と手を振って玄関を飛び出した。

 守山くんに左に曲がれと言われたけれど、夢月が曲がったのは右。


「夢月、そっちは野犬が……」

「多分、野犬はデメアのことだ。気配の方向がこっちだから間違いない」

「デメア……」


 幸か不幸か、野犬騒ぎで通行人がほぼいない。車は走っているけれど、もともと車通りが多い道ではない。わたしのから顔を出したシャリオちゃんが「夢月様のおっしゃる通りです」と言う。


「この先にデメアがいます」

「……じゃあ、倒さなきゃ。一体でも多く」

「ああ」

「――結界、張ります!」


 見付けたのは、野犬に似た姿のデメア五匹。シャリオちゃんの合図を皮切りに、わたしたちはデメアを倒すために変身した。


 ❁―❁―❁


 第1部、完結です。

 諸事情によりしばらく時間を置き、第2部開始します。よかったらフォロー外さずにいてください。

 カクヨムコン応募作品です。もしよろしければ、評価等お願い申し上げます。

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白夜の天空《はくやのそら》~妖精の捜し人と過去世の運命~【第1部完結】 長月そら葉 @so25r-a

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