第49話 不確かで確かな記憶
「思い出した……のですか?」
最初に口を開いたのは、シャリオちゃん。わたしは彼女の問いかけに「全部じゃないんだけどね」と肩を竦める。
「自分が星の王国の姫君だった前世、何があったのか、誰といたのか。それと王国の名前と自分の名前も。……シャリオちゃんの言ってた通り、言語が違い過ぎて発音は難しいね」
「そう、なのですね……姫様」
「ちゃんとシャリオちゃんのこともわかるよ。それと……慧依さんと優依さんの前世も、夢月の前世も」
「……っ」
月の王国と星の王国、二つの国は友好関係を結んでいた。互いに人が行き来し、物の取引も盛んだったみたい。長い夢を見ていたんですと言うと、ツインスターの二人は顔を見合わせふっと微笑んだ。
「それなら、色々説明しなくても良くなるかもな」
「そうだね。でもさっき、全部ではないと言っていたね。何か、夢の中で気になることがあったのかな?」
「そう、ですね。何人か、顔が思い出せなかったんです。というか、その人たちだけ夢で顔を見ることが出来なかった」
星の王国の姫君に仕えていた、最も仲の良かったはずの女官。そして、よく顔を合わせていたはずの月の王国の青年たち。
それを口にすると、夢月が「俺も……」と遠慮がちに手を挙げた。
「俺もさっきまで寝ていて、夢を見ました。過去の、前世の夢を。同時に、これは記憶なんだってしっくりきて、思い出しました」
「夢月様も……」
「ああ。なんか、待たせてごめんな。シャリオ」
「……いいえ。思い出す方が辛いことも多いですから。きっと、記憶が封じられていた理由は、辛い思いをさせないためだと思うので」
ゆるゆると首を横に振るシャリオちゃんの言う通り、思い出して嬉しいものばかりではない。それは夢月も同じらしく頬を指で掻いて「まあな」と苦笑いした。
「大抵のことは思い出したけど、美星と同じで近くにいたはずの二人の友だちの顔がわからない。慧依さんと優依さんはわかるのに。……まだ俺たちの記憶の箱が開き切ってないってことなのか?」
「夢月もそうなんだ。じゃあ、そういうことなのかな? ……んー、知ってると思うんだけどなぁ」
何故か見えない友だちの顔。それでも懐かしさと親しみを感じるのは、いつも傍にいてくれたことが本当だからだろうか。
幾ら首をひねっても、わからないものは仕方がない。わたしは一旦横に置くことにして、気持ちを切り替えた。
「とりあえず、置いときます。それよりもこれからのこと、ですよね」
「だな。……あの二人は、遊園地でのことを実験だと言った。つまり、本番が控えているってことだよな」
優依さんの言う通り、あれはあくまで実験。本番を阻止することが、今やるべきことのように思われた。
「でも、どうやって本番の時を知るんです? それこそあいつらの気分次第でしょう」
夢月の言葉に、わたしも「そうだよね」と頷く。特に明神夜斗はお姫様なのだから、彼女の一声でいつでも爆弾のスイッチが押されるのではないだろうか。
わたしたちの不安に対し、シャリオちゃんは何かに気付いたのか顔を上げる。キョロキョロと見回してから、そっと「あの……」と手を挙げた。
「どうしたの? シャリオちゃん」
「あの……一つの可能性なのですが、思い当たる日にちがあります」
「思い当たる日にち?」
なんだそれ、と夢月が首を傾げる。わたしにも分からなくて、夢月につられた。
頭の上にはてなマークが飛んでいるわたしたちと違い、慧依さんと優依さんは顔を見合わせた。先に口を開いたのは、慧依さんだ。
「シャリオちゃん、もしかしてそれは……」
「地の王国がオレたちのところに攻め込んで来た時と同じってことか……?」
「はい。おそらく、全く同じことを考えていると思います」
三人でわかり合っているみたい。だからわたしは、しびれを切らせて尋ねた。
「あの、それはいつなんですか?」
「……真冬のある日だ。地球から見れば、新月の夜」
「冬は、最も負のパワーが強まる季節。更に新月ともなれば、地球に星の力が届かなくなります」
優依さん、そしてシャリオちゃんが口々に言う。
「でも新月なんて、年中何日もあるだろ? その中から一日を探し出すなんて可能なのか? 冬だけでも何日あるか」
「あるんだよ、それが。今は使われていない、
「だとしても、その地暦はもうないんですよね? どうやって……」
「……クリスマスイブ」
ぼそりと呟いたのは、シャリオちゃんだった。わたしたち四人の注目を集めた彼女は、真剣な表情で言葉を続ける。
「暦を完全に把握することは出来ません。ですが、当時私たちの使っていた
「……つまり、今年のクリスマスイブに地の王国の企てが実行される?」
「その可能性があるってことか」
だったら、方針は決まりだな。夢月はそう言って、ニッと笑う。
「まだ五月だけど、十二月までにあいつらの計画を潰せれば良いってことだ。あいつらにとって俺たちは邪魔だろうから、これからも襲いに来るかもしれない」
「うん。何度だって止めてみせる」
「……二人の記憶もまだ曖昧なところがあるみたいだし、戦う中で見えて来るものもあるかもしれないな」
「そうだな、優依。俺たちがいつも傍にいられるわけではないけど……いつでもできるだけ早く飛んで来るから」
「ありがとうございます、お二人共」
期限はクリスマスイブ。それまでに地の王国を止め、大切な人々を傷付けさせない。わたしたちの方針はそう決まった。
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