ここに一個の暗闇がある

屑木 夢平

ここに一個の暗闇がある



ここに一個の暗闇がある

月のない夜を母として

電球の切れた六畳間を父として

誰から望まれることもなく産み落とされた

一個の暗闇がある


ケロイドは右の腕と太股

帯状疱疹の天の川が腰回りをぐるりと囲んで

手首に刻まれた傷の本数は

明けることのなかった夜の数と一致する


星は天ではなく

掌に瞬いている

それらを全て呑みこんで

虚弱な胃の中にできた潰瘍

血とともに吐き出した言葉たちが

秋の波にさらわれてできた赤潮


ここに一個の暗闇がある

望まれずに生まれた私は

今日も暗闇の中で独り

調剤薬局に渡しそびれた処方箋の裏に

誰にも読まれることのない詩を書いている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ここに一個の暗闇がある 屑木 夢平 @m_quzuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ