第6話## 桜吹雪の彼女 最終話



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(※前略、花村が「しがない魔女なのです」と告白するシーンまで同じ)


変身を遂げた彼女は、ハイヒールの踵で床をコツリと鳴らし、妖艶に微笑んだ。


「少し、残業してきてもいいですか?」


田中が口をパクパクさせている間に、彼女はレストランの窓を蹴破り、ガーゴイルが待つ夜の街へと華麗に舞い降りていった。


**《ピコピコピーン!》**


再び、田中の頭にだけ響く電子音。


**《チュートリアルを開始します》**

**《あなたは魔女の『契約者』に選ばれました》**

**《サポート役として、魔女の戦闘を補助してください》**


「……え、俺もぉ!?」


田中の悲鳴が、高級イタリアンに虚しく響き渡った。

どうやら今夜のデートは、ディナーだけでは終わらないらしい。

彼の人生を賭けた、魔女との残業(ワールド・デストラクション)が今、始まろうとしていた。


……。

………。

…………。


**「――んなわけねーだろが(笑)」**


気がつくと、田中は自分の部屋のベッドの上で叫んでいた。

目の前には見慣れた天井。窓の外からは、平和な朝の光が差し込んでいる。


「……夢、か」


あまりにもリアルで、壮大な夢だった。

魔女、ガーゴイル、契約者。昨夜のデートの緊張と、「ベヨネッタ」という単語が、とんでもない妄想を脳内で生成してしまったらしい。


「だよな…。花村さんが魔女なわけないし…」


田中は苦笑しながら身を起こし、スマホを手に取った。

すると、メッセージアプリに一件の通知が来ている。送信主は、花村佐知子。


『昨日はありがとうございました。とても楽しかったです。

 田中さんが私のことをベヨネッタに似てる、と言ってくれたのが、

 実はすごく嬉しくて…。

 つい、調子に乗ってしまいました。すみません。

 また、お食事ご一緒できたら嬉しいです』


その、どこまでも丁寧で、少しだけ照れが滲む文章に、田中の胸が温かくなる。

なんだ。やっぱり彼女は、不器用で、真面目で、ちょっと変わってるけど、普通の素敵な女性じゃないか。


田中は、「こちらこそ楽しかったです!ぜひまた!」と返信を打ちながら、昨夜の夢を思い出して、一人で笑った。

(魔女、ねえ…)


その時、メッセージアプリの通知が、もう一件ポップアップした。

花村さんからの追伸だろうか?

田中が、軽い気持ちでその通知を開いた。


そこに表示されていたのは、システムからの自動メッセージ。


**《ピコピコピーン!》**


**《昨夜のクエスト報酬として、スキル『桜吹雪耐性(小)』を獲得しました》**

**《次回も魔女のサポート、よろしくね♡》**


「…………」


田中は、スマホを持ったまま、完全にフリーズした。

部屋の窓の外で、カラスが「アホー、アホー」と鳴いている。


**エンド🔚(笑)**

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『桜吹雪にご用心!』 志乃原七海 @09093495732p

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