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手錠より重い罰を、ご存知ですか。

生きる意味?、死ぬこと?

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### エピソード「糸を喰む罰」

**【刑務所作業場】**

**死ぬより辛いことなんて、あるのかな?**

ガシャン、ガシャン、と単調なミシンの音が響く。油と埃の匂いが混じり合った空気が、肺に重くのしかかる。目の前には、ただ灰色の布。終わりのない、灰色の時間。

**そんなわたしは、友達を殺め、刑務所にいる。**

裁判官が何かを言っていた。生きて罪を償え、と。馬鹿みたい。死んだ方がよっぽど楽なのに。生きて、この灰色の時間をただ繰り返すこと。それが、死よりも辛い罰なのだと、あの人たちは知らない。

カタカタカタ…ミシンの針が進む。白い糸が、布に縫い目という名の傷跡をつけていく。
その糸が、ぷつりと切れた。絡まった糸が、針の周りでぐちゃぐちゃの塊になる。
手錠をかけられた手では、この小さな塊をうまく解きほぐせない。爪を立てようにも、カチリ、と冷たい金属が邪魔をする。

『おい、手でいじるな! 針を折る気か!』

以前、看守に怒鳴られた声が頭に響く。

じゃあ、どうしろっていうの。
わたしは、絡まった糸の塊を顔に近づけた。そして、口に含む。

**なにしてんのかな?わたし。**

舌と歯を使って、もつれた繊維を一本一本、唾液で湿らせながら解いていく。味のない、乾いた糸の感触が口いっぱいに広がる。まるで、自分の人生を喰んでいるみたいだ。

**糸を歯で噛みほぐし、縫う。**

これが、わたしの日常。
これが、わたしの罰。

『手際が悪い!』
『遊んでいるのか!』

**手は使うな??**
だったらどうしろっていうのよ! 器用に動かせないように縛り付けておいて!

**いっそ死刑にしてほしい!!**

心の中で叫ぶ。声に出せば、罰則が待っているだけだ。
この手で、たった一人の友達の未来を奪った。その手で、今はただ灰色の布を縫い続ける。死ぬことも許されず、生きる意味も見つけられず、ただ機械の一部になる。

**そう、それが罪と罰!**

ああ、でも。
もう、わからないよ。
何が罪で、何が罰なのか。
ただ、この冷たい手錠と、口の中の糸の味だけが、現実なのだと思い知らされる。

ガシャン、ガシャン…。
ミシンの音が、また響き始める。

**もう、つかれたよ。**

誰か。

助けて。

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