また、ともに

野々宮 可憐

また、ともに

「私たち、前世でも友達だったんだよ」


 放課後の閑散とした教室で、未来みくことみぃちゃんがまた変なことを言い出した。あまりにも唐突だったので、漢字を書くために走らせていたペンが止まった。


 みぃちゃんはまん丸の目で真っ直ぐこちらを見つめてくる。胸の当たりがざわりと騒いだ。


「何言ってんの。ほら、今度こそ数学赤点回避するんでしょ? 集中しなよ」


「いいじゃん、ちょっとくらい。ほんと、そういうとこ変わってないよ、すーちゃんは」


 みぃちゃんはふにゃふにゃとした数式が書かれたノートの上に突っ伏した。相変わらずの飽き性で、もはや安心感すら覚える。小さい頃もけん玉に飽きたと突然言い出して外に飛び出して、兵隊ごっこに飽きたとすぐにあやとりを始めていたのを何となく思い出した。


「前世ではさー、私たちはヨーロッパの貴族で、よく一緒にお茶会してたんだよ」


 思いつきで行動するみぃちゃんには珍しく、ストーリーまで用意しているらしい。ちょっと、悪戯心が疼いた。どこまで細かいところまで妄想しているのだろうか。


「へぇ。じゃあ何年くらい前の時代に生きてたの?」


「あんまりその辺は覚えてない。でもかなり昔だと思う。マリーアントワネットとか、そんくらい?」


「変なの。前世は貴族なのに、今はどこにでもいる女子高生やってるの?」


「そういうもんだよ、案外。……信じてないでしょ」


「うん。私たちが貴族なんて上品な人達のわけがないもん。でっち上げでしょ」


「バレたかぁ……。ロマンがないなぁ。もしかしたらほんとに友達だったかもしれないじゃん。そう思った方が、楽しいし」


 どうやらもう降参らしく、みぃちゃんは深く溜息をついた。


「すーちゃんとはさ、高校生からの付き合いとは思えないんだよね。なんとなく」


「それはそうだけどね。……ほら未来、勉強しよう。期末テスト近いんだからさ」


 私は小さく安堵の息を漏らして、またノートに視線を落とした。


ㅤみぃちゃん、思い出さなくていいからね。

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