この作品を、最初は傍観者の立ち位置で読み始めました。それこそ同じ電車に乗り合わせただけの人々のように。存在は視認できるけれど、興味を引かれるほどの存在ではない、そんな感覚を持っていました。
作者と読者の年齢がまるで違うので、どこまで読み進めることができるかな、という不安も正直なところ大きかったです。
しかし、そういった大人故に抱いてしまう先入観も、読み進めていくうちにいつの間にか無くなり、言葉巧みに(いい意味で)作中の主人公の行動や思考を追体験させられているような、小気味よい没入感を味わうことができました。主人公の目に映るものや、所作の一つ一つが丁寧に描かれているこそ、成せる業なのかなと思います。
なにより、主人公がとても魅力的に映りました。思考は内々に向いているのですが、ずっと前に進み続けている。その姿が羨ましいとさえ思いました。大人はこういうとき、立ち止まって考えてしまうことが多いので。。。
まさに万人向け。より多くの方に読んで欲しいと思える作品でした。