生きるしかない。どんな世界であれ生まれたのだから。

描かれているのは、心身に欠落を抱える児童たち。
親元を離れて〝賢者の家〟と呼ばれる場所で共同生活を営んでいます。

子供らの視線で眺める世界は、とても不明瞭です。
読む者は、この世界の状況がよくわかりません。
わかるのは、そこが交戦状態だということ。状況全体に不穏な印象を受けました。

子供たちは目的の不明瞭な訓練受け、評価され順位付けられています。
どの子も常人にはない特殊な能力を持っているようです。

その子供たちの中のひとり。
盲目で周囲の熱分布を感知して世界を見ている少女。
小鼠のグレーテ。
自分のことを〝兵器〟だと言う子供です。
本作を読む者は、彼女を通して世界と彼女のあり様を知ることになります。

グレーテを取り巻く状況は厳しく、周りにはまだ形のない不安な事柄がたくさんあるようです。
未来は閉塞し、希望はないかのように思えます。
それでもグレーテは、いつか〝廃棄される〟までは生きていこうとしています。

その健気さに感じ入ったのでしょうか。
いつの間にか彼女を応援したくなりました。
幸せとはいえない子供たちが、未来を探し出し、それを掴む様子を見てみたくなりました。

まだまだ先の見えない物語です。
それでも読む者を惹きつける物語です。
どうぞ御一読ください。