第5話「狼の子」
1、2日目
※コマ:朝の画面。『村人Aが無残な姿で発見されました』の文字が、上に流れていく。
こまち『おはようございます』
規定集『おはようございます』
S『おはよう』
ひなぎく『おはようございます♪』
わんこ㌠『おはよ〜!』
とらとら『占いはよ出てこい!! ……あ、おはよう!! 忘れとった!!』
まひる(本名)『おはようございます!』
栞「朝はまず挨拶から、が基本です。……とらとらさんは、まあ」
燐「忘れてたんかい」
ひなぎく『さっそくですけど♪ 昨夜の遠吠え、数えました?』
※コマ:真昼の指が、止まる。
ひなぎく『二十八回』
※コマ:真昼、画面の数字を見て、指先が冷たくなる。
※作画:前話の最後のコマと、同じ『28』です。
ページをめくった読者が、昨夜と同じ数字を、
今度は敵の口から聞かされる形にしてください。
とらとら『二十八!? 夜通し喋っとるやないか!!』
ひなぎく『初日の相談で、いります?』
ひなぎく『騙りの割り振りと、占い師が出たときの動き方。
その擦り合わせなら、十五回もあれば足ります♪』
ひなぎく『倍。しかも、ほぼ倍ちょうど』
ひなぎく『擦り合わせが倍になることって、ないんです。
倍になるのは──片方が、教えているときだけ♪』
ひなぎく『狼のなかに、手ほどきを受けている方がいらっしゃる』
ひなぎく『この卓で、いちばん不慣れなのは……まひる(本名)さん♪
お名前でわかります』
※コマ:真昼、画面に名指しされて硬直。向かいの雫は微動だにしない。
規定集『……とらとらさんが騒いだだけで済ませていい数字ではありませんね』
ひなぎく『ねえ、見せてください♪ 嘘のつけない人が狼だったら、どうなるのか』
真昼(モノローグ)(──台本。台本を、貼る)
※コマ:画面に『まひる(本名)が入力中…』の表示。──点いて、消える。また点いて、消える。
真昼(モノローグ)(貼るだけ。貼るだけなのに……指が、動かない)
ひなぎく『あら。「入力中」が三回消えたわ♪』
※コマ:真昼、目を閉じて──貼る。
まひる(本名)『村人です。初日の夜のことは、わたしには何もわかりません。吠え数が多いのは狼の事情で、わたしの事情ではありません』
栞「……真昼さん、急に堅い……」
ひなぎく『……ふうん』
ひなぎく『今のまひるさん、まひるさんじゃないみたい♪ 誰かが書いた言葉みたい』
ひなぎく『まあいいわ。──占い師CO、します』
※コマ:ひなぎくのアイコンがとんがり帽子とローブに変わる。
そして──文体が、変わる。
ひなぎく『昨夜、とらとらさんを占いました。結果は村人です』
ひなぎく『いちばん騒がしい方から確認しました。とらとらさんは白。今日の吊り先から外してください』
真昼「……あ、あれ? ひなぎくさん、♪が……」
栞「帽子を被った瞬間、別人になってる。……本物の占い師の喋り方です」
とらとら『わし白か!! よっしゃ!! ほなまひるが狼や!! 吠え二十八回!!』
規定集『対抗の占いは……出ませんね。ひなぎくさんは信用していい。真昼さんが最も怪しいのは、論理的には……』
S『待って。初心者を探すなら、この卓にはもう一人、静かな人がいる』
こまち『え』
わんこ㌠『たしかに! こまちさん、挨拶しかしてない!』
とらとら『こまち、なんか嫌や!! わし、こまちに入れる!!』
※コマ:真昼の脳内。地層。ほとんど何も積もっていない。自分が喋るのに必死で、聞けていない。
真昼(モノローグ)(……わたし、いま、誰の言葉も聞けてない……)
2日目・投票。こまちに4票(S・わんこ㌠・とらとら・まひる)。まひる(本名)に3票(ひなぎく・規定集・こまち)。──こまち、処刑。
真昼(モノローグ)(──生き、のびた)
(雫先輩が、逸らしてくれた。……わたしは、なにも)
2、2日目・夜(人狼チャット)
まひる(本名)『先輩、ひなぎくさんに、台本だってバレてます』
まひる(本名)『わたし、ずっと嘘をついてる感じがして、こわいです』
まひる(本名)『村のみんなを騙して、噛んで……人狼って、ひどい役です』
S『先に一つ。昨夜の二十八は、明日も突かれるわ。今夜は数を絞る。
返事はいらない。読んで、頷きなさい』
※コマ:真昼、打ちかけた指を、そっと膝に置く。
※作画:初日夜のラスト、返事を呑み込んだコマと同じ形で。
あのとき偶然できたことを、今夜は命じられてやっています。
S『──そう? なぜ人狼を悪だと思うのかしら。村人は本当に善人?
今日、村は「静かだから」という理由でこまちを吊った。無実の人をね。
それも人狼のせい?
もしかしたら、こうかもしれないじゃない。
疑って、吊って、間違えて、それでも正義の顔をする村人たちに、
因果応報を与えに来たのが人狼だって』
※コマ:真昼、画面を見つめたまま止まる。
まひる(本名)『……それ、ほんとに、そう思ってますか』
※コマ:真昼、打ってから、しまった、という顔をする。
※作画:数を絞れと言われた直後に、一回使ってしまいました。
それでも聞かずにいられなかった、が伝わる半コマで。
S『さあ。役としては、そう思っているわ。
──いい、真昼さん。騙りは嘘じゃない。役よ。
あなた、役がやりたくてここに来たんでしょう』
※コマ:真昼の脳内。第1話──
「演技は嘘とはちょっと違う……あなたの場合、その前の段階かな」。
あの言葉が、裏返る。
※コマ:真昼、口の中だけで「……役」と呟く。打たない。
※作画:ここは声にも文字にもしないこと。
この子が今夜いちばん大事に受け取ったものが、
一回も吠え数に乗らなかった、というのが効きます。
S『台本はもう一枚だけ渡す。──明日、わたしが吊られそうになったら、庇わないで。
あなたも一緒に、わたしに入れなさい。
初心者の相方は、経験者。占い師はそう考えて、わたしを占う。それでいい。
わたしを吊れば、村は残り一匹を探す目になる』
S『それより、今夜の噛み先。──規定集よ。霊能でしょうね』
まひる(本名)『規定集さん、まだ何も名乗ってないです。なんでわかるんですか』
※コマ:真昼、一行に詰めて打つ。
※作画:さっき一回使ってしまった子が、今度は二つの質問を一回にまとめました。
誰にも褒められないけれど、この子は今夜、確かに一つ憶えています。
SS『今日、あの人だけ「明日の朝」に軸足を置いたの。
──『今日の吊りは、明日の朝いちばんに意味を持ちます』
全員が今日の吊りを見ていた中で、一人だけ、
翌朝の自分の仕事を先に押さえにいった。読み上げる側だけよ、それをやるのは』
※コマ:昼の議論のログが、一行だけ浮き上がる。
──『今日の吊りは、明日の朝いちばんに意味を持ちます』
※作画:ここは真昼の地層の演出は使わないこと。
これは雫の目です。真昼はまだ、自分では拾えていない。
S『霊能は早く消す。定石よ。
ひなぎくは占い師COしてる。今夜は狩人が張りついてるでしょうから、噛んでも通らない。
なら、まだ誰にも守られていない役職を先に取る。
──ここは覚えておきなさい。
狼が探すのは、いちばん喋る人じゃない。いちばん、こぼさない人よ』
※コマ:真昼、その一行をじっと見る。
※作画:ここで小さく、地層に一枚積まれる音のイメージ。
最終日に、この言葉が返ってきます。
まひる(本名)『先輩は、こぼさないんですね』
S『おやすみ』
※コマ:吠え数のログ。『ワオーン』──十三回。
昨夜の半分以下。
※作画:数字だけのコマにしてください。
二晩並べて見せると、この二人が何をしていたかが一目でわかります。
3、3日目
※コマ:朝の画面。──誰も死んでいない。
栞「GJ……! 狩人が、襲撃先を守り切りました!」
燐「あたしよ!!」
※コマ:燐、思わず立ち上がりかけて、栞に座らされる。(顔を読まないルール)
※コマ:円卓の向かい。雫。
──タブレットを持つ指が、ほんのわずかに、止まる。まばたきが一回。それだけ。
※作画:絶対に大きくしないでください。顔も動かさない。
真昼はこのコマを見ていません。読者だけが見ています。
わんこ㌠『はいはーい、狩人COでーす!
昨夜守ったのは──規定集さん! えっへん!』
※コマ:わんこ㌠のアイコンに犬耳と、小さな盾。
とらとら『規定集ぅ!? なんでや! 占い師守らんかい!!』
わんこ㌠『みんなひなぎくさん守ると思うでしょ? 狼もそう思うでしょ?
だから誰も見てないほうを守ったの。……勘よ! 勘!』
規定集『勘』
わんこ㌠『そしたら来たのよ! 来た! あたしのとこに!』
栞「先輩、それ今出ちゃダメなやつです……! 狩人は最後まで潜伏……!」
燐「だって、あたしが黙ってたら『誰かが守った』で終わるじゃない!
規定集さんが狙われたって事実が、盤面に一行も残らないのよ!?」
栞「……それは、そのとおりですけど」
燐「でしょ!? だから言うの! あと言いたいから!」
栞「後半が本音ですよね」
※枠外注釈:変態護衛=狩人が、相手の役職を知らないままその人を護衛すること。
GJを狙って出せるものではない。
規定集『……仕方ありませんね。霊能者CO。
昨日処刑されたこまちさんは、村人でした』
※コマ:規定集のアイコンが巫女装束に変わる。鈴の音の演出。栞、背筋が伸びる。
規定集『わんこ㌠さん。名乗る前に守られて、名乗る前に引きずり出されました。
順番がめちゃくちゃです』
わんこ㌠『えっへん!』
規定集『褒めてません』
真昼(モノローグ)(宵野さん、巫女さん……きれい……じゃなくて。こまちさんは村人。じゃあ、あと二回の吊りで、狼二匹を──)
ひなぎく『占い結果を報告します。昨夜、Sさんを占いました。──人狼です』
※コマ:真昼、息を呑む。向かいの雫、瞬きひとつしない。
ひなぎく『初心者狼はいずれ言葉で見つかる。見つけにくいのは相方のほう。
占いは、相方に使いました』
S『……対抗するわ。わたしが占い師』
S『初日、こまちを占って白。昨夜、ひなぎくを占って──人狼よ』
とらとら『占い二人!? どっちや!! ってか後出しやんけ!!』
S『昨日は白一つしかなかった。出たところで本物か決まらないまま、
狼にどちらか噛まれて終わりよ。一晩待つ価値はあったわ』
規定集『……ただ、初日の白がこまちさんというのは。
昨日、あなた自身が吊った相手です』
S『ええ。白を吊らせたわ。庇えば、わたしが疑われたもの』
※コマ:真昼、画面を見て息を呑む。
※作画:真昼は知っています。あの流れを作ったのが誰かを。
とらとら『えげつな!!』
規定集『……理屈は通ります。潜伏占いとしては、定石の範囲です。
ですがわたしは、Sさんが騙りである可能性のほうが高いと見ます』
ひなぎく『わんこ㌠さん。今日も守ってくださいね♪ どちらでもいいので』
わんこ㌠『どっちでもいいんかい!!』
※コマ:真昼、画面を見つめる。
真昼(モノローグ)(燐先輩は、当てたのに、ふざけてる。
雫先輩は、負けないために嘘をついてる。
ひなぎくさんは……たぶん、ほんとうのことを言ってる)
(嘘って、こんなに、いろんな形をしてるんだ──)
S『……いいわ。投票を』
※コマ:真昼の手元。台本の最後の一行──『あなたも一緒に、わたしに入れなさい』。
3日目・投票。Sに5票(ひなぎく・規定集・わんこ㌠・とらとら・まひる)。──S、処刑。
※コマ:円卓。雫、静かにタブレットを伏せる。真昼を見て、口元だけで──「いい子」。
真昼(モノローグ)(──台本が、なくなった)
4、3日目・夜(ひとりの人狼チャット)
※コマ:黒い画面。参加者──『まひる(本名)』だけ。
まひる(本名)『……』
※コマ:吠え数『ワオーン』一回。誰にも届かない一回。
真昼(モノローグ)(噛む相手を、決めなきゃ)
(ひなぎくさんは噛めない。連続ガードあり。燐先輩は今日も守る)
(宵野さんを噛めば、明日の朝、先輩の黒は出ない。……でも)
※コマ:地層。一枚だけ、浮き上がる吹き出し。
──『狼が探すのは、いちばん喋る人じゃない。いちばん、こぼさない人よ』
真昼(モノローグ)(……あれ?)
(先輩の黒が出るのを嫌がるのは、誰?)
(──先輩の相方だけだ。ほかの誰も、あの黒を隠したくない)
(宵野さんを噛んだら、わたしは「隠したい人」になる)
(じゃあ、出せばいい。先輩の黒は、出ていい。
あの黒を欲しがる狼が、もう一種類いる──)
※コマ:真昼の脳内。第2話の講習。燐が目を輝かせて叫んでいる。
「身内を売って信用を買う……あの背徳の味をさあ!」
真昼(モノローグ)(燐先輩が、いちばん好きなやつ)
(明日は4人。狼はわたし一人。……一回、吊られなければ勝ち)
(三人のうち、二人を動かせばいい)
※コマ:真昼の脳内。三つの顔。
とらとら──知らない。
宵野さん──「論理では疑う理由がない、でも」。
燐先輩──「根拠? ないわよ」。
真昼(モノローグ)(……燐先輩は、動かない。理由で動く人じゃないから)
※コマ:真昼の指が、震えながら、「わんこ㌠」を選ぶ。
真昼(モノローグ)(ごめんなさい、燐先輩)
(先輩の言葉、ぜんぶ積んでたから──わかっちゃった)
5、最終日
※コマ:『わんこ㌠が無残な姿で発見されました』
燐「……え」
※コマ:燐、伏せたタブレットを持ったまま固まる。
※作画:ここから燐は、卓の会話に一切参加できません。
円卓の一席だけが、生きたまま黙っている絵にしてください。
燐「……なんで、あたし」
栞「先輩。声、出てます」
燐「〜〜〜っ」
※コマ:燐、口を両手で押さえる。目だけがぐるぐる動いている。
※コマ:燐のタブレット画面。『霊界チャット』。
参加者──『こまち』『S』『わんこ㌠』。
S『おかえりなさい』
わんこ㌠『部長ォ!! なんであたしなの!?
霊能止めるなら宵野さんでしょ!? あたし噛んでも黒出るじゃない!!』
S『……ええ。出るわね』
こまち『あの、わたし、村人だったんですけど』
わんこ㌠『それは知ってる!!』
S『わんこ㌠。──黒が出て困る狼と、黒が出て助かる狼がいるの』
わんこ㌠『は? そんな狼どこに──』
S『あなたが、いちばんよくご存じのはずよ』
わんこ㌠『…………』
※コマ:燐。──画面を見つめたまま、ゆっくり目を見開く。
わんこ㌠『……あの子』
わんこ㌠『あたしのやつ、やる気じゃない』
※コマ:部室。燐、声も出せずに、真昼のほうを見る。
真昼は気づかない。画面しか見ていない。
※作画:この構図がこの回の絵の見せ場です。
いちばん最初に真昼の才能を見抜いた人が、
いちばん最初に見抜いた席から、なにも言えずに見ている。
残り4人:まひる(本名)、規定集、ひなぎく、とらとら。
規定集『おはようございます。霊能結果を報告します。
昨日処刑されたSさんは──人狼でした』
とらとら『ほな決まりや!! ひなぎくの黒が当たっとる!! ひなぎくが本物!!
残り狼一匹、まひるや!! 吠え二十八!!』
ひなぎく『……ええ。そうなりますね』
※コマ:真昼、画面を見つめる。台本はない。
真昼(モノローグ)(誰も、わたしを庇わない。……当たり前だ)
(──役。わたしは、村人の真昼)
(村人の真昼なら、なんて言う?)
真昼、深く息を吸って──打つ。
まひる(本名)『とらとらさん、規定集さん。ひとつだけ、聞いてください』
まひる(本名)『わたしは、ひなぎくさんが狼だと思っています』
とらとら『は?』
ひなぎく『あら♪』
※コマ:ひなぎくのアイコン。帽子のまま。♪だけが、こぼれた。
ひなぎく『まひるさん、それだと狼は、わたしとSさん。
占い師を名乗った二人が、二人とも狼ということになりますけど♪』
ひなぎく『狼が二人とも占い師を騙る村なんて、聞いたことがありません』
まひる(本名)『あります』
※コマ:無音。
まひる(本名)『わたし、教わりました。
占い師を騙った狼が、仲間の狼に黒を出して、吊らせる。
仲間を失うかわりに、本物の占い師として信用を買う──そういう作戦』
※コマ:部室。燐が、口を開けたまま真昼を見ている。
燐「それ、あたしのやつ……!」
栞「先輩、顔!」
まひる(本名)『本物の占い師は、こまちさんでした』
まひる(本名)『初日、いちばん静かだった人。
狼はそれを見て、名乗る前に吊りで消した』
まひる(本名)『そのあと、ひなぎくさんが占い師を名乗って、Sさんに黒を出した。
Sさんは対抗して、吊られた。霊能で黒が出た。
──だからみんな、ひなぎくさんが本物だと思ってる』
まひる(本名)『占い師を騙る狼は一人だけ、って、みんなが思ってるから』
まひる(本名)『二人とも騙って、片方を切れば、残った片方は絶対に疑われない』
まひる(本名)『狼は、一人生き残れば勝ちですから』
※コマ:規定集の吹き出しが、止まっている。
とらとら『……待てや。ほなこまち、なんで名乗らんかったんや。
四票入っとったんやぞ。真占いなら叫ぶやろ』
まひる(本名)『わたしなら、名乗れなかったと思います』
※コマ:真昼の指。──震えていない。
まひる(本名)『初めての村で、名指しされて、入力中を三回消して。
言わなきゃいけない一言が、どうしても打てない。
……わたし、二日目の朝、そうでした』
とらとら『……』
とらとら『まひる、お前』
とらとら『今のは本物の声やった。画面でもわかったで』
規定集『吠え数は、どう説明しますか』
規定集『初日の二十八回。ひなぎくさんが「教えている」と読んだ数字です。
狼がSさんとひなぎくさんなら、教える相手がいません』
まひる(本名)『空白でも、送れます』
※コマ:真昼、昼のチャット欄に、なにも打たずに送信する。
まひる(本名)『 』
※コマ:卓の全員の画面に、空っぽの吹き出しが一つ並ぶ。
まひる(本名)『いま、一回です。夜も同じだと思います。
中身は『ワオーン』としか見えないんですから、
空っぽでも、数だけは増える。──二十八は、作れます』
規定集『……仕様上、可能です。吠え数の偽装は、よく使われる手ですから。
残っている狼の数を悟らせないために、水増しする。あるいは、絞る』
規定集『二十八は、読ませるために置かれた数字だった。
……その可能性は、否定できません』
とらとら『空白て!! そんなんアリか!!』
規定集『アリです。……悔しいですが』
真昼(モノローグ)(──あれ?)
(震えてない。指が、震えてない)
(嘘をついてる感じが、しない。……村人の真昼は、ほんとうに、そう思ってるから)
とらとら『……わし、ひなぎくに入れよか思うてきた』
規定集『わたしも、まだ、決められません』
※コマ:ひなぎくのアイコン。──帽子が、笑っている。
ひなぎく『すてき』
ひなぎく『まひるさん。あなた、今日ほんとうに村人ね』
ひなぎく『でも──二日目の投票、憶えていますか』
まひる(本名)『え』
ひなぎく『こまちさんに四票。Sさん、わんこ㌠さん、とらとらさん、まひるさん。
まひるさんに三票。わたし、規定集さん、こまちさん』
ひなぎく『わたしとSさんが狼で、本物の占い師のこまちさんを
名乗る前に消すのが作戦だったなら──
どうしてわたしは、こまちさんに入れなかったのかしら』
ひなぎく『四対三。一票で裏返る数です。
狼二人の勝ち筋がかかった吊りを、わたしは相方まかせにした。
そんな狼、います?』
ひなぎく『まひるさん。あなたの説で、これを説明してください♪』
※コマ:真昼。──指が、止まる。
真昼(モノローグ)(……投票)
(先輩は、投票のことは、教えてくれなかった)
(狼二人が、どう票を分けるのか。分けるものなのか。わたしは──知らない)
※コマ:地層。真昼が探す。一枚も浮かばない。
※作画:決めゴマの型の「空振り」。初出です。
積んでいないものは、拾えない。
まひる(本名)『…………』
※コマ:部室。栞が、小さく唇を噛む。声には出さない。
ひなぎく『答えられませんよね』
ひなぎく『あなた、そこだけ声が止まった』
ひなぎく『さっきまで、あんなにすらすら喋っていたのに』
ひなぎく『……ああ。きっと、教わってなかったのね』
※コマ:真昼、画面の前で動けない。
ひなぎく『いいんです。誰にでも、まだ渡されていない一枚がありますから♪』
ひなぎく『ごめんなさい、朝一で言うべきでした。少しだけ、見ていたくて』
ひなぎく『昨夜、まひるさんを占いました。──人狼です』
※コマ:真昼の顔。──崩れない。役のまま、静かに目を閉じる。
とらとら『まひる……。わし、画面やと自信ないんや。ごめん』
規定集『……投票を割った理由が、あなたの側から出ない以上、
わたしはひなぎくさんの側に立ちます』
最終投票。まひる(本名)、処刑。──人狼。「村人陣営の勝利」。
6、部室(試合後)
※コマ:伏せられたタブレット。円卓。誰も、すぐには喋らない。
栞「……真昼さん。最後、ひなぎくさんに聞かれたとき」
真昼「……はい」
栞「『身内投票』って言えば、繋がってました」
真昼「みうち、とうひょう……?」
栞「狼が、仲間の狼に投票すること。
票が割れれば、繋がりを見せずに済みます。
仲間が吊られる危険を背負う代わりに、ラインを消せる」
※枠外注釈:身内投票=人狼が、あえて仲間の人狼に投票すること。
仲間との繋がりを悟られずに済むが、
そのまま仲間が吊られる危険も背負う。
仲間に黒判定を出して吊らせる「身内切り」とは別物。
真昼「……危なくないですか、それ」
栞「危ないです。だから、勇気の要る手なんです。
──ひなぎくさんは、それをやったことにされても、
平気な顔で説明できる人でした」
栞「……教えてなかったのは、わたしたちです」
真昼「…………」
雫「──いいえ」
雫、真昼の前にチョコを置く。
雫「教わっていない言葉が出ない子だから、教わったことは全部本物に聞こえるの。
今日のあの演説、誰も嘘だと思わなかったでしょう」
燐「…………くやしいけど、あたしなら入れてたわ。ひなぎくに」
燐「……ていうか」
※コマ:燐、じとっと真昼を睨む。
燐「あんたねえ。あたしの身内切りを、あたしより先に語るんじゃないわよ!!」
真昼「ご、ごめんなさい! でも燐先輩の説明が、いちばん最初に浮かんで──」
燐「知ってる!! だから腹立つの!!
あれはあたしがやって、あたしが伝説にするやつ!!」
雫「それが役よ」
雫「台本がある芝居はできる子。今日あなたは、自分で台本を書いた。……それだけで、今日の負けは安い」
※コマ:真昼、チョコを口に入れる。──甘い。
栞「……まあ、先輩が狩人COしなければ、真昼さんは迷ったはずです」
燐「迷う?」
栞「噛み先が三人。誰を選んでも、狩人に当たる可能性があった。
ひなぎくさんを噛んで、先輩がまた守っていたら、
朝が来て、真昼さんはもう一日、吊られる番を待つことになりました」
燐「…………」
栞「先輩が名乗ったことで、その分岐が消えたんです。
狩人だけは、絶対に守られませんから」
燐「……あたし、自分から『ここ噛んでください』って言ったってこと?」
栞「はい」
燐「うわああああ!!」
栞「ただ」
※コマ:栞、眼鏡を直す。
栞「先輩が名乗らなければ、わたしが狙われた事実も卓に出ませんでした。
あれがあったから、わたしは霊能を名乗る決心がついたんです」
燐「……じゃあ、よかったってこと?」
栞「勝ってますからね。──結果としては」
燐「歯切れ悪ぅ!!」
とらとら『まひるーーー!! 次はリアルでやろ!! 顔見ながらやったら、わしぜったい負けへんからな!!』
ひなぎく『まひる(本名)さん♪ あなたの言葉、ぜんぶ持って帰りますね』
ひなぎく『あなた、今日ほんとうに村人だったわ。次はもっと近くで──崩れるところ、見たいわ♪』
退室。
真昼「……こ、こわい……」
栞「にこにこしながら言うのが、一番こわいです……」
燐「……ね、部長。あのひなぎくって子──」
雫「──いいえ。似た打ち方をする人を、知っているだけ」
※コマ:雫の目。懐かしいものを見る目。
栞「あ──そういえば」
栞、鞄から一枚のプリントを取り出す。
コマ:『全国高校人狼選手権 予選エントリー受付開始』
栞「エントリー締切が今月末。予選は──夏休みの、頭です」
真昼「な、夏休み……!」
燐「二か月ちょい! 余裕じゃない!」
栞「余裕ではありません。エントリーには五人必要です」
※コマ:全員の視線が、そろりと5脚目の椅子へ向く。
燐「…………」
栞「……停学が明けるのは、来週です」
※コマ:真昼、ぱっと顔を上げる。
真昼「ら、来週!?」
燐「そーよ。来週の月曜、あいつ帰ってくるの」
燐、輪ゴムで留められた駄菓子の袋を、指先でつつく。
燐「……ずっと言えなかったのはさ。
あんたが入ってから、部が楽しくなっちゃったからよ」
真昼「え」
燐「あの子が戻ってきたら、この部、絶対うるさくなるの。
いまのこれが、終わっちゃうのが──ちょっとだけ、やだった」
栞「……先輩」
燐「はいこの話おしまい!! 湿っぽい!!」
雫「──真昼さん」
雫「来週から、あなたは四人目じゃなくなるわ」
真昼「……はい」
雫「五人になったら、初めて本当の人狼ができる。
役職を全部入れた、本当の村がね」
※コマ:真昼、5脚目の椅子を見る。
真昼(モノローグ)(……はじめまして、って、言えるかな)
(わたし、はじめましてのとき、いつも──嘘つけないんだけど)
※コマ:真昼、ちょっと笑う。
真昼(モノローグ)(……それでいいのかも)
※最後のコマ(部室側):夕暮れ。5脚目の椅子。
その上に、栞がそっとプリントを置く。
※作画:椅子の上で、プリントと、輪ゴムで留められた駄菓子の袋が並びます。
7、どこか(シルエット)
※完全に別の場所。黒いシルエットの演出。
夜の街。コンビニの明かり。自動ドアの音。
黒いシルエットの少女が、レジ袋を片手にぶら下げて出てくる。
※作画:顔は見せません。輪郭だけ。
髪は明るくない。校則どおりの色。爪も、耳も、なにもいじっていない。
※設定資料どおり「髪色を変えなかった子」であることを、
シルエットの段階で読者に置いておきたいです。
シルエット、街灯の下で立ち止まり、袋の中を覗く。
※コマ:袋の中。──駄菓子が、山ほど。
シルエット「……買いすぎた」
シルエット、スマホを取り出す。
※コマ:画面。トーク画面。相手の名前は伏せる(あるいは吹き出しで隠す)。
だが、送られてきたメッセージだけが読める。
『来週の月曜、戻ってくるんでしょ』
『部室、掃除しといたから』
『あと、新入部員が入ったわよ』
シルエット「……新入部員」
※コマ:スクロールされる画面。写真が一枚。
部室の円卓。とんがり帽子を被って、ぽかんとしている真昼。
※作画:第1話で燐が真昼に帽子を被せたときの写真です。
読者だけが、いつ撮られたものかわかります。
『嘘つけない子なの』
『あんた、絶対に泣かせるでしょ』
シルエット「…………」
※コマ:シルエットの横顔。──ふ、と、口の端が上がる。
シルエット「泣かせないわよ」
シルエット、袋を担ぎ直して、歩き出す。
シルエット「──言い負かすだけ」
※最後のコマ:夜の道を歩いていく後ろ姿。
レジ袋の中で、駄菓子ががさがさ鳴っている。
(ナレ)人狼部(申請中)、五人目。
(ナレ)──来週、帰ってくる。
第1巻・了
【漫画脚本版】じんろーCO!(カドコミ漫画原作コンテスト【ナツガタリ'26】参加) 本尾 美春 @mirerisu
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