第4話「5人目の条件」
1、校内(勧誘)
開幕コマ:チラシのアップ。手書きの太文字で──『人狼部(申請中)部員募集!! 騙し合い! 裏切り! 処刑! 君も狼になろう!!』
真昼「……燐先輩、これ……こわいです」
栞「なぜ処刑を太字にしたんですか」
燐「え? 一番テンション上がるとこじゃない?」
※コマ:掲示板。隣には他部のチラシ「一緒に汗を流そう!」「お菓子作り体験あり♪」。温度差で笑わせる。
(昼休みの廊下)燐がチラシを配る。
燐「人狼部でーす! 嘘つき放題! 5人目募集中!」
女子生徒A「じんろう……って、あれでしょ、騙し合いの」
女子生徒B「うちの兄がやってるけど、終わったあと友達と気まずくなったって……」
女子生徒A「うわ、こわ……」
そそくさと去る二人。燐、チラシを持ったまま固まる。
燐「……なんで!? 楽しいのに!!」
栞「先輩。一般の方から見た人狼は『友情を壊す遊び』なんです。競技として認知されてるのは、強豪校のある地域くらいで……」
※コマ:廊下の窓の外、隣接する私立高校の校舎。
栞「あそこは全国大会の常連です」
真昼「ぜんこく……」
※真昼が校舎を見上げる1コマ。外の世界の存在を、ここで一度だけ提示する。
(放課後、校門前)真昼のターン。
真昼「あの、人狼部です! わたし、入ったばっかりなんですけど、すごく楽しくて!」
男子生徒「へえ。どんなとこが?」
真昼「えっと、みんなに嘘つかれて──」
男子生徒「うん」
真昼「──毎日わたしが処刑されて──」
男子生徒「……えっ」
真昼「あっ、で、でも! お菓子は食べ放題です!」
男子生徒「……お、おう……」
去っていく。真昼、しょんぼり。
真昼「正直に言ったのに……」
燐「正直に言いすぎなのよ! なんで自分の処刑回数を宣伝すんの!」
真昼「だって、ほんとのことだから……」
※コマ:校門脇のベンチで本を読む雫。勧誘には参加していない。真昼を横目で見て、口元がわずかに緩む。
(夕方の部室)円卓に、配りきれなかったチラシの山。
燐「ゼロ……見学者ゼロ……」
栞「先輩のチラシの文面が九割の原因だと思います」
2、部室(5人目の話)
真昼、チラシの山から目を上げて──5脚目の椅子を見る。
真昼「……あの。前にも聞いちゃったんですけど、お休み中の部員さんって──」
燐と栞、同時にぴたりと止まる。
真昼「あっ、ごめんなさい、言いにくいことなら──」
燐「停学中なのよ!!」
※コマ:燐、机に突っ伏して叫ぶ。栞、頭を抱える。
真昼「て、停学……!?」
栞「先輩ーっ、まだ言わない約束……!」
燐「だって毎回誤魔化すの疲れたぁ! 言いにくいのよ、『5人目は停学中です』って! 部のイメージ悪いでしょ!?」
真昼「そ、その、なにか、悪いこと、を……?」
栞「……いえ」
※コマ:栞、言葉を選ぶ顔。
栞「悪いことは、していません。少なくとも、わたしたちはそう思ってます。ただ……口が、強すぎる子なんです」
燐「あの子が本気で喋ったら、先生だって黙るもの。……黙らされた先生が、それをどう受け取ったかは、まあ」
※コマ:円卓の隅。駄菓子の山の中に、一つだけ開封済みのまま輪ゴムで留められた袋。
真昼「……これは?」
栞「あの子が、停学の前日に食べかけて。誰も、捨てられなくて」
※真昼、じっと見る。説明はここまで。
燐「あーもう、湿っぽい! そのうち戻ってくるのよ、期限あるんだから! そしたら真昼、覚悟しときなさいよ、あの子の卓はうるさいわよ〜!」
真昼「う、うるさい……」
燐「あんたなんか、一言で泣かされるわね」
真昼「泣きません!」
燐「泣くわよ」
雫「──さて」
雫、準備室から出てくる。手にはタブレット。
雫「勧誘は不作。5人目は不在。なら──練習相手は、外から借りましょう」
3、オンライン人狼(準備)
雫、円卓に人数分のタブレットを配る。画面には人狼のオンライン対戦アプリ。
栞「オンライン村です。全国の人と匿名で対戦できます。今日は7人村──わたしたち4人と、外から3人」
真昼「な、7人……! ちゃんとした人狼……!」
栞「役職も本格戦仕様です。これを機に、覚えてください」
栞、衣装ラックの前に立つ。説明モードで背筋が伸びる。
栞「占い師──毎晩ひとりを占い、人狼かどうかを知る。とんがり帽子とローブ」
栞「霊能者──処刑された人が人狼だったかどうかを知る。巫女装束」
※コマ:ラックの白衣に緋袴、鈴のついた神楽鈴。真昼「みこさん……!」
栞「狩人──毎晩ひとりを人狼の襲撃から守る。自分は守れません。同じ人を続けて守るのは可能。衣装は犬耳と尻尾に、小さな盾」
※コマ:犬耳のカチューシャと、掌サイズの丸盾。
真昼「い、犬……? 狼と間違えません……?」
燐「盾があるかないかで見るの。犬は守る側、狼は襲う側」
栞「そして人狼が2人。狼耳と尻尾」
※枠外注釈:配役=村人2・占い師1・霊能者1・狩人1・人狼2。初日の犠牲者はNPC。
栞「同じ部屋ですが、画面は見せない、顔も読まない。部内オンライン戦の鉄則です」
燐「真昼は読まれる側だから心配いらないわよ」
真昼「ひどい!」
栞「では、PNを決めてください。本名は使わないのがマナーです」
真昼「ぴーえぬ……偽名、ってことですか」
栞「そうです」
真昼「…………」
真昼、入力画面に指を伸ばして──止まる。震える。
真昼「……む、無理です。偽名、打てないです。手が」
燐「そこから!?」
栞「では……こうしましょう」
※コマ:PN入力欄に「まひる(本名)」。
燐「本名って括弧つきで書く奴、初めて見たわ……」
真昼「これなら、嘘じゃないので……!」
雫「……いいわ、それで。相手が混乱する」
※各自のPN:「わんこ㌠」(燐)/「規定集」(栞)/「S」(雫)/「まひる(本名)」(真昼)
真昼「燐先輩、わんこ……?」
燐「狼系の名前ぜんぶ取られてたのよ!!」
栞「(犬飼さんの家の犬みたいですね……)」
※アプリ画面:アバターはCOに合わせて衣装が変わる仕様。衣装文法はオンラインでも生きていることを1コマで。
入室。外部の3人。
PN「とらとら」/PN「ひなぎく」/PN「こまち」
とらとら『よろしくーーー!! 7人おるな!! はよ夜こい!!』
とらとら『ってか「まひる(本名)」って何やねん!! おもろ!!』
こまち『よろしくお願いします』
ひなぎく『よろしくお願いします♪ まひる(本名)さん、そのお名前、すてき』
真昼「わ、褒められました……!」
燐「あんたそれ褒められてないと思うわよ……」
※コマ:ひなぎくのアイコンは、小さな白い花。害のなさそうな、かわいい絵。
真昼(モノローグ)(知らない人が、三人。……大丈夫。村人を引いて、ぜんぶ聞いて、積むだけ)
(村人。村人。村人──)
雫「──来るわよ」
※コマ:雫、タブレットから目を上げずに。
雫「……声、出さないこと」
真昼「え」
栞「同じ部屋にいますが、ここからは七人の他人です。
悲鳴も、ため息も、情報になります」
燐「あたしが言われてる気がするわね」
栞「言ってます」
※コマ:全員のタブレットが一斉に暗転。月のアイコン。
部室の照明はついたまま。四人の顔だけが、画面の光で青い。
※作画:ここ、部室の空気が「夜になる」のではなく、
画面の中だけが夜になる絵にしてほしいです。
第2話の「部室ごと夜になる」演出との違いが、
そのままオンライン戦の孤独になります。
※コマ:真昼の画面。中央に、伏せられたカードが一枚。
下に小さく『タップしてめくる』。
※作画:このアプリのUIは対面卓を模した作り。
アバターがCOで衣装に着替えるのと同じで、
競技人狼の作法をそのまま画面に持ち込んでいます。
真昼(モノローグ)(村人。……村人でありますように)
真昼、そっと、指をカードに触れる。
※コマ:指の腹が画面をこすり、カードがゆっくり回転しはじめる。
※作画:ここは急がないこと。2〜3コマ使って「めくる時間」を稼いでください。
カードの縁が持ち上がり、裏面の模様が斜めに傾き、色が覗く。
※コマ:真昼の顔。──血の気が引く。
真昼「…………」
※大ゴマ:画面いっぱいのカード。人狼。
※作画:第2話「最終戦」で真昼が村人カードを見てほっとしたコマと、
構図をわざと同じにしてください。同じ構図で、逆の顔。
真昼(モノローグ)(──────え)
※コマ:真昼、思わず息を吸いかけて──止める。
口を開いた形のまま、声だけが出ない。
※作画:ここ、無音の半コマ。「声、出さないこと」が効く場所です。
※コマ:画面の隅に、小さなウィンドウが開く。『人狼チャット』。
※コマ:チャットの参加者表示──『まひる(本名)』、そして──『S』。
真昼(モノローグ)(S……せ、先輩……!?)
※コマ:円卓の向かい。雫、表情を一切変えずに、タブレットを見ている。
※作画:真昼の視線がすがるように向かいへ飛ぶのに、
雫は一度もこちらを見ない。それが一番こわい。
S『──よろしく、真昼さん』
※画面:黒地に月。チャット欄。ほかのプレイヤーには見えない、二人だけの窓。
※作画注:チャットの吠え数は「送信回数」で数えます。
真昼は思いつくたびに一行ずつ投げ、雫は書き切ってから一度で送る。
吹き出しの形(真昼は小さいのが連続、雫は一つが大きい)で
その差が見えるようにしてほしいです。
まひる(本名)『せんぱい』
まひる(本名)『むりです』
まひる(本名)『むり』
まひる(本名)『わたし嘘つけないです知ってますよね』
まひる(本名)『あした村人ですって打てないです手が』
まひる(本名)『どうしよう』
まひる(本名)『どうしよう』
※コマ:円卓の向かい。雫、動じない。
このチャットは声に出せない。二人とも無表情のまま、指だけが動く。
S『落ち着きなさい。あなた、いま七回吠えたわ。
狼の夜会話は、外からは回数だけ見える。──もう戻らない』
まひる(本名)『?』
まひる(本名)『回数って』
まひる(本名)『中身は見られてないんですよね』
まひる(本名)『じゃあ何回でもいいのでは』
S『よくないわ。──いい、これは基礎だから覚えて。
狼は初日から喋るの。誰が何を騙るか、占い師が出たらどう動くか、
噛み先を明日どう決めるか。喋ること自体はおかしくない』
まひる(本名)『じゃあ』
S『問題は量。二匹で十五回前後が相場よ。
慣れた同士なら、もっと少ない。型が決まってるから、擦り合わせが要らないの』
※枠外注釈:吠え数=人狼の夜会話の発言回数。
内容は他プレイヤーには『ワオーン』としか表示されないが、
回数だけは全員に見える。7人村の初日で、二匹合わせて15回前後が目安。
まひる(本名)『じゅうご』
まひる(本名)『……わたし、もう七回』
S『そう。そして今夜は、これから増えるわ』
まひる(本名)『え』
S『あなたに教えることがあるから。
相談じゃなくて、講義になる。講義は、擦り合わせの倍かかるの』
※コマ:真昼、画面の隅の数字を見る。小さく、けれど確かに増えている。
まひる(本名)『……止めます』
まひる(本名)『わたし、もう打ちません』
まひる(本名)『それなら数、増えないですよね』
S『増えなくていいなら、そうしなさい。
──明日のあなたが、なにも知らないまま七人の卓に座ることになるけれど』
まひる(本名)『…………』
まひる(本名)『教えてください』
※コマ:真昼、唇を噛んで打つ。
※作画:ここ、覚悟のコマ。この子は今、
「バレる代償を払って学ぶ」ほうを自分で選びました。
S『いい返事。──なら払った分の中身にするわ』
S『まず方針。わたしは占い師を騙らない。あなたも、なにも騙らないで。
あなたは村人。今日から最後まで、ずっと村人。
占い師が出たら逆らわない。白をもらった人を庇わない。
村人がやることだけをやりなさい』
まひる(本名)『村人がやること……』
まひる(本名)『って、なんですか』
S『挨拶して、人の話を聞いて、怪しいと思った人に入れる。それだけよ』
まひる(本名)『それ、いつもわたしがやってることです』
S『ええ。だから、いつもどおりにしなさい。
──あなたの場合、それがいちばん強い嘘になる』
※コマ:真昼、その一行で手が止まる。
※作画:第1話「あなたの『白』は誰よりも信用される」の燐の台詞と、
同じ意味を、正反対の温度で言われています。
まひる(本名)『……はい』
S『次。噛み先の決め方。これは明日でいいわ、今夜は決まってるから』
まひる(本名)『決まってる?』
S『初日の犠牲者はアプリが選ぶ。わたしたちの仕事じゃないの』
まひる(本名)『そうなんですか!?』
S『……そこから?』
まひる(本名)『すみません』
S『謝らない。──最後に、台本を渡す』
まひる(本名)『台本』
S『明日、吠え数を突かれたらこれを貼りなさい。一字も変えないで』
S『『村人です。初日の夜のことは、わたしには何もわかりません。
吠え数が多いのは狼の事情で、わたしの事情ではありません』
──書かれた言葉なら、あなたは言えるでしょう』
※コマ:真昼、返事を打とうとして──指を止める。
打たずに、画面に向かって小さく頷く。
※作画:ここ、あえて返信させないこと。
「一回ぶんを惜しんだ」のが、この子の最初の成長です。
真昼(モノローグ)(──書かれた、言葉なら)
※コマ:真昼、ぎゅっとタブレットを握る。
第1話の台本の付箋が、一瞬だけフラッシュ。
※画面:『村人Aが無残な姿で発見されました』
※コマ:部室。窓の外はすっかり暗い。
四人の顔が、タブレットの光で青く浮かんでいる。誰も、口をきかない。
※コマ:真昼の画面の隅。──数字だけの、最後のコマ。
『28』
第4話・了
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