第4話 地下の真実

扉を開けると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。


「……ビビット、ここで待って――」


「ビビ!」(一緒に行く!)


ビビットが強引に体を割り込ませてきた。マークは苦笑いして、先に階段を降り始めた。


石造りの階段は、下へ下へと続いていた。頭上の賑やかな音楽が、少しずつ遠ざかっていく。


「……なんか、静かになったな」


やがて、視界が開けた。


そこに広がっていたのは――


「……え」


マークは言葉を失った。


薄暗い巨大な空間。無数の人間たちが、汗だくになって巨大なハンドルを回している。ギシギシと軋む音が、洞窟中に響いていた。


老人も。子供も。若者も。誰もが、虚ろな目でハンドルを回し続けている。


「な、なんだよ、これ……」


マークが近づくと、一人の男がちらりと目を向けた。だが、すぐにまた俯いて作業を続ける。


「あの……大丈夫ですか?」


「……大丈夫も何も、ない」


男はぼそりと答えた。


「これを止めたら、上のパークが動かなくなる」


「上って、あの遊園地……?」


「そうだ。俺たちの力が、あの街の全部を動かしている」


マークの背筋が冷えた。


***


「なんで、逃げないんですか」


思わず口をついて出た言葉だった。


男は、初めて顔を上げた。乾いた笑いを浮かべる。


「逃げて、どうする」


「どうするって……自由になれるじゃないですか」


「自由……」


男はその言葉を、まるで知らない外国語のように繰り返した。


「もう何年も、ここにいる。外がどうなってるかも、覚えてない」


「そんな……」


「若いの。お前も、大人しく回してた方がいい」


男はそう言って、また作業に戻った。


マークは、その背中をただ見つめることしかできなかった。


「ビビ……」


ビビットが、悲しげに鳴いて体を寄せた。


***


その時だった。


「――そこの二人」


冷たい声が響いた。


振り向くと、左半分だけ丸い顔をしたロボットが立っていた。全身は無骨な鉄で覆われ、目だけが赤く光っている。


「労働不能な侵入者を確認。速やかに配置につけ」


「な、なんだよお前……」


「サーユ。力担当監視ユニット」


サーユと名乗ったロボットは、感情のない声で告げた。


「拒否は許可されていない」


その瞬間――


ドサッ、と近くで音がした。


見ると、ハンドルを回していた一人の老人が、力尽きて倒れていた。


サーユがゆっくりとそちらへ近づく。


「労働不能を確認」


そして、迷いなく――老人を蹴り飛ばした。


「――は?」


マークの頭の中で、何かがぷつりと切れた。


***


「てめえ……!」


気がつけば、拳を握って駆け出していた。


「ビビ!?」(マーク!?)


「なにしてんだよ、てめぇ!!」


サーユの顔面に、渾身の右ストレートが叩き込まれた。


ドゴォッ!!


轟音とともに、サーユの体が吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。


一瞬、辺りが静まり返った。


奴隷たちが、信じられないものを見るような目でマークを見つめている。


「……大丈夫か、じいさん」


マークは倒れた老人を助け起こした。老人は震えながら、マークを見上げた。


「な、なんで……お前まで殺されるぞ……」


「知るかよ、そんなの」


マークは拳を鳴らしながら、立ち上がった。


「こんなの、見過ごせるわけねえだろ」


サーユの体が、瓦礫の中でゆっくりと起き上がる。


「――抵抗を確認。排除対象に変更」


その声に応えるように、天井から轟音が響いた。


見上げると、電力設備側から、もう一体のロボットが飛んできた。右半分だけ丸い顔をした、サーユとよく似た機体。


そしてその手には――ビビットが、鎖に繋がれていた。


「ビビット!!」


「マーク!」


ビビットが叫んだ。人間の言葉だった。


十年かけて、初めて聞いた言葉。


だがその感動に浸る間もなく、右顔のロボットが冷たく告げた。


「ウーユ。電力担当監視ユニット。……お前が、マークだな」


洞窟の空気が、一変した。

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クリスタル・セブン ―7つの世界と分断の神― イミハ @imia3341

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