第5話『ホンモノの出るお化け屋敷』上

 


 朝。お弁当屋の横の自動販売機の前


紀代「乃ノ子ー。おはようっ」


 いきなり紀代に肩を叩かれ、ひーっ、と悲鳴を上げる乃ノ子。

 な、なにっ? と驚いた顔で紀代、立っている。


乃ノ子「ああ、ごめんごめん。

 ぼうっとしてて」


 乃ノ子、笑って見せる。

 二人、並んで学校への道を歩き出す。


乃ノ子「そうだ、紀代。

 まだあのジュンペイとメッセージのやりとりしたりしてる?」


 紀代、笑って、バシバシ乃ノ子の肩を叩く。


紀代「やだあ。

 そんな言い方されると私とホンモノのジュンペイが二人でメッセージ送り合ってるみたいじゃない~っ」


 よろける乃ノ子にのろけるように言う紀代。


紀代「今朝もジュンペイにおはようって入れたら。

 おはよう、気持ちのいい朝だねって返ってきたのよ」


乃ノ子(それ、雨の日はなんて言うんだろうな。

 ちゃんとスマホのGPSと天気予報から、天気割り出してしゃべってるんだろうかな?)


乃ノ子「それって、ジュンペイの方から話しかけてくることあるの?」


紀代「あるわよ。

 昨日、話しかけてきたわよ。


 おはよう。

 明日、アルバムの発売日だよ。

 予約してくれた? って?」


乃ノ子(……商魂たくましいAIだな。)


乃ノ子「あのさ、ごめんなんだけど。

 またジュンペイに都市伝説のこと、訊いてみてくれる?」


紀代「いいよー」


 スマホに打ち込む紀代。


『都市伝説』


ジュンペイ『都市伝説っていえば、ターボばばあって知ってる?』


 笑顔のジュンペイのスタンプ。

 乃ノ子、首を傾げる。


乃ノ子(あれ? やっぱり偶然だったのか。

 この間、あのタイミングで『疾走するさっちゃん』の話始めたから。

 もしかして、イチさんの都市伝説アプリと連動してるのかなと思ってたんだけど……。

 あのあと、イチさん、家の近くまで送ってくれたけど。

 肝心なことは訊いても上手くはぐらかされちゃったし。)


 乃ノ子回想。

 超絶イケメン、イチと月に照らし出された夜道を歩く幻想的な光景。


乃ノ子(こんな明るい通学路で思い出しても、全部夢だったのではと思ってしまいそうな記憶だな。)


 自分のスマホを開いた乃ノ子。

 ん? という顔をする。


乃ノ子(そうだっ。あのときとは違っていることがある!)


 乃ノ子、慌てて、イチとアプリで共有している都市伝説メモを開けてみる。


乃ノ子(しまった~っ。

 『疾走するさっちゃん』から書いてなかったっ!)


「話まとめて書いとけよ」と言うイチの顔を回想。

 急いで『未来変わる鏡』の方を書き足す。


乃ノ子「紀代っ」


 新しいジュンペイのアルバムの話を延々としている紀代の肩を後ろからつかむ。


紀代「うわっ、なにっ?」


 紀代、振り向く。


乃ノ子「都市伝説ってもう一回入れてみて」

紀代「えーっ。

 もう学校着くしーっ」

乃ノ子「今入れて駄目だったら、昼休みに入れてみてっ」

紀代「なにがどうなったら駄目なのよっ。

 ってか、そんな何回も入れたら、ジュンペイに変な女かと思われるじゃないっ」


 二人、見つめ合う。


乃ノ子「……そのジュンペイ、AIだよ」

紀代「……夢くらい見させてよ」


乃ノ子(まあ、イチさんの例もあるけど。)


 文句を言いながらも、紀代、入れてくれる。


『都市伝説』


ジュンペイ『都市伝説、知ってるよ、僕も』


 横から紀代のスマホを眺めている乃ノ子。


乃ノ子(あのときと同じ文章のような気がする……。) 


ジュンペイ「君も知ってる? 『未来変わる鏡』って話」

乃ノ子「えっ?」


 あはははは、と笑っているジュンペイのイラストのスタンプが何故か連打されてくる。


紀代「ねえ、もう気が済んだ? 遅れちゃうよ~っ」


 紀代、慌ててスマホをしまい、校門のところにいた体育教師に頭を下げる。


紀子「おはようございますー」


 乃ノ子、教師の横で立ち止まると、慌ててスマホを出し、すごい速さで打ち込む。


『此処ではない何処かにつながる公衆電話』

と都市伝説ノートに書き入れる。


乃ノ子「紀代ーっ、もう一回ーっ」


 紀代、少し先から振り返り言ってくる。


紀代「えーっ。もういやーっ。

 ジュンペイに嫌われるーっ!」

教師「福原ーっ。なにやってんだっ。

 早く入れーっ」


 チャイムの音。



 騒がしい休み時間。

 紀代が人を連れてやってくる。


紀代「乃ノ子、乃ノ子ー」


 紀代、連れて来た子の両腕を後ろからからつかんで、グイと乃ノ子に向かって押し出す。


紀代「あんた、都市伝説好きじゃん。

 三戸みとちゃんがさ。

 去年聞いた都市伝説が気になるんだって」

乃ノ子「……去年?」

風香「こんにちは。

 隣のクラスの三戸風香みと ふうかと申します、福原さん。

 よろしくお願いいたします」


 紀代の隣に立つ、セミロングのふわふわとした髪の少女、風香。

 乃ノ子に深々と頭を下げる。

 乃ノ子も頭を下げ返す。


乃ノ子「よ、よろしくお願いします」


 風香、おずおずと話し出す。


風香「去年聞いて。そのときは気にならなかったんですけど。

 また、夏が来たので」


乃ノ子(何故、敬語……。

 我々は同級生ですよね、三戸ちゃんとやら。)


風香「実は……この言霊町に、ホンモノが出るお化け屋敷があるって聞いたんです。

 でも、何処のかはわからなくて」

乃ノ子「……えーと。

 ホンモノ、とは?」

紀代「ホンモノの幽霊ってことじゃないの?」


 風香、頷く。


風香「たぶん、そういう意味だと思うんです。

 それで、うっかり行っちゃったらどうしようと思って」

乃ノ子「お化け屋敷行く予定あるんですか?」


乃ノ子(あ、つられて敬語になっちゃった。)


 風香、赤くなって俯く。


風香「あ、あります」

紀代「できたばかりの彼氏と行くんだって。

 普通、そう聞いたら協力しないとこなんだけど。

 まあ、三戸ちゃんだからね」


乃ノ子(これは私だったら、協力しないということだろうか……。)


 乃ノ子、二人に訊いてみる。


乃ノ子「言霊町にお化け屋敷って何個あったっけ?」

紀代「私が知ってるのは、三つかな。

 通年ある奴じゃないのも、どれももうやってるよ」

乃ノ子「三つか。

 それくらいなら、チェックできるか。

 ところで、三戸ちゃん、その話、誰に訊いたんですか?」


 ……えーと、と少し考える風花。


風香「たぶん。

 友だちの友だちに――」



 帰り道。


紀代「まあ、彼氏と行くのなら、ホンモノ出てもいいと思うんだけどね。

 きゃーって抱きつけたりするじゃん」

乃ノ子「いや~、でも、ホンモノだと、彼氏もぎゃーって逃げ出すんじゃない?」


 それはまずいか、と二人頷き合う。

 紀代と話しながら陸橋まで行く。

 乃ノ子は、ふと、お弁当屋さんの方を振り返ってみるが、なにもない。



 夜。

 イチにメッセージで報告している乃ノ子。


イチ『ほう。ホンモノの出るお化け屋敷か。

 悪くないな』


 乃ノ子、ホッとしながら打ち込む。


乃ノ子『イチさんは、すぐに会話が通じてすごいですね~』

イチ『……舐めてんのか、てめー』

乃ノ子『いやー、すみません。

 さっき、通販会社のチャットボットに質問してたんですけど。

 なかなか話が噛み合わなくて。

 何度も質問し直しになるし』

イチ『何度も言うようだが。

 俺はチャットボットでもAIでもないからな。

 リアルで会っただろっ』

乃ノ子『いや、あれ、VRだったかもしれないじゃないですか』

イチ『てめー、いつヘッドセット被ったっ』


乃ノ子(だって、この世のものならぬ感じのイケメンだったので。

とか本人に言うのは恥ずかしいな。)


イチ『よし、とりあえず、その言霊町の三つのお化け屋敷を洗い出して』


 そこまで送信してきたイチだったが、何故かそこで、十数秒、沈黙する。


イチ『いや、待て。

 この話は、今はやめておこう』

乃ノ子『何故ですか』

イチ『都市伝説の匂いがしないからだ』

乃ノ子『もしかして、あれですか。

 今、ネット上のデータベースを検索したら、都市伝説でないと出たとか』

イチ『まあ、そうかな』

乃ノ子『でも、瞬時にデータベースを検索するとか、イチさんにそんな力あるんですか?』

イチ『てめーが言ったんだろうが、最初によっ』


 イチ、乃ノ子に怒りマークのスタンプを送る。



 次の日の夕方、自動販売機の前。

 乃ノ子、あのガードレールに腰掛け、友だちと話している。


乃ノ子「――って、イチさんは言うけど。

 お化け屋敷、調べようと思うのよ」

友だち「いいの? それ」


 友だち、笑う。


乃ノ子「だって、あやしいじゃん、なんか。

 あのイチさんが調べるななんて。

 まあ、言霊町にお化け屋敷、三つしかないらしいし、回ってみるくらいできるよね」


乃ノ子(今年、新しいお化け屋敷ができているとしても、あのウワサは去年のもののようだし。

 それは外してもよさそうだ。)


乃ノ子「一緒に回る?」

友だち「回れるわけないじゃん」


 友だち、笑う。


乃ノ子「そうか。じゃあ、ひとりで、ささっと行ってみるね。

 あんまり時間かけてると、イチさんにバレそうだしね」


 友だち、うーん、となにか考えるように遠くを見つめる。


友だち「まあ、問題ない気がするけど。

 なにかあったら、イチさんに言ってみたら?」

乃ノ子「怒られそうだけどね」


 乃ノ子は、マスキングテープをカメラに貼る。


友だち「いいの? それ」

乃ノ子「いいのいいの、じゃあ」


 乃ノ子、立ち上がり、その場を去る。


乃ノ子(「あっ、なにしやがる!」とかイチさんから入ってくるかと思ったけど、ないな。

 まあ、忙しいのかも。

 ……猫探しで)


 乃ノ子、笑う。


乃ノ子ナレーション「その頃、イチさんは犬を探していた。」



夕暮れの図書館近くの茂みの中を探しながら、あやかし、すねこすりに向かって話しかけるイチ。

 すねこすり、白い玉みたいなもふもふ。

 イチの足元にまとわりついて転がそうとしている。


イチ「猫探しも大変だが、犬探しも大変だな。

 もうお前に目鼻つけて、犬ですって言って引き渡すかな。

 なあ、すねこすり」


イチによる解説「すねこすりは雨の夜に現れるという、犬とも猫ともつかない小型の生き物のようなあやかしで。

 そのふわふわした毛をスネにこすりつけてくる。

 まあ、うちのこのすねこすりは、犬でもなく、猫でもなく、ふわふわした白い大きな玉みたいなものなのだが。

 ……もしかしたら、すねこすりではなく、巨大なケセランパサランなのだろうか?

 話しかけても答えないのでわからないのだが。

 ちなみにケセランパサランとは、幸運を呼ぶという、白いうさぎの尻尾のようなものだ」


イチ、すりすりしてくる、すねこすりを見下ろす。


イチ「……うーん。

 今のところ、あやかしと都市伝説と乃ノ子しか呼んきてないから違うかな」


 スマホを見る。


イチ「乃ノ子のやつ、ひとりでお化け屋敷、調べてんじゃねえだろうな」


ジュンペイ「そうかもしれないねえ」


 男の声がいきなりして、背後を振り向くイチ。

 だが、ここでは夕陽を背にしたシルエットで顔はわからない。


 イチ、警戒しつつ。


イチ「……なにしてんだ、こんなところで」


ジュンペイ「いやいや。ちょっと時間が空いたから。

 そうだ。僕が見ててあげようか、乃ノ子ちゃん」


 夕暮れを背に、笑う口元。















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都市伝説探偵 イチ ~言霊町怪奇地図~《シナリオ》 櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん) @akito1

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