港町の風習

秋村 和霞

港町の風習

 とある海辺の町では、お盆の時期になると行われる風習がある。

 亡くなった身近な人に向けて、手紙を書いてボトルに詰める。そして海に流すのだ。

 水平線の先にあの世がある。そんな信仰によるものだが、この風習には一つ気をつけなければならないルールがある。この手紙には、人に知られると困るような秘密を書いてはならないのだ。

 亡くなった人への手紙といいつつも、これは誰にも読まれることのない文章だ。何を書いても問題ない。そう高をくくる人は後を絶たないが、そんな愚かな人々は、いずれ後悔することになるだろう。

 このボトルは、実際には水平線の先に行くことはない。潮の流れに乗って、いったんは沖の方に向かうが、あの世にたどり着くことはなく、波に押し返されて陸へ戻ってくる。そして、最終的には近隣の浜辺に流れ着くのだ。

 そして、そのボトルは地元の漁師たちが回収する。打ち上げられたものは当然として、水底に沈むボトルも徹底的に回収する。

 漁師たちの言い分では環境保全だという。それも一理あるとは思うが、あくまで建前だろう。

 この港町では漁師の力が非常に強い。町長選挙で勝利するのは、たいてい漁業組合の関係者だ。


 つまり、そういうことなのである。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

港町の風習 秋村 和霞 @nodoka_akimura

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ