参考文献とあとがき
◯参考文献
バタイユ『太陽肛門』
アウグスティヌス『告白』
伊藤千広のYoutubeにおける一連の語り
◯あとがき
まず昨今の小説の傾向を述べたい。
昨今の売れている小説は、登場人物の特性と定式的な弁証法を重視する傾向がある。言い換えれば、マイノリティーを出して、(必然性のない)他者との関係性に(手荒く)ぶち込んで、苦悩をさせれば、つまり、読者に登場人物とのただ引き延ばされた時間を多く過ごさせれば、それで登場人物は聞こえのよい結論を言い、そんな作品らが評価される傾向にあるだろう。
さらに厄介なことに、昨今の作品の文体と筋の明朗さは、新たに誕生する文章なるものを阻む抑圧者として、現代的な小説が成立する前提条件として、無自覚ながら機能している。
当然ながら、この文体と筋における明朗さの転回は、堕落した大衆の病巣としても、過去の偉人を祀るための祭壇としても、解釈してはならない。それは単なる懐古的な抑圧にほかならない。我々がなすべきはその抑圧者の討伐であり、その死体の切り傷から、新たな抑圧者の誕生を待つことだけだ。その新たな支配者が善良なるものかどうかは重要な問題ではない。その後に、如何にこの抑圧者を育て上げ奉るかに我々は関心を向けるべきだろう。だがその討伐も簡単なものではない。我々はただ崩して待つしかない。
この歴史観を前提として、筆者は作為的に成そうとした事が二つある。
一つは没個性的な登場人物の可能性である。これは前述した歴史観の内の登場人物の概念へのオルタナティブとして提示したい。語り手の正体は一切語られず極めて中性的な人間である。そして、登場する空き巣も隣人も別の視点を登場させるための装置であり、親しさとやましさの印象である。死んだ女性の正体は言わずもがな、それは現実的に語られず、神話的な語りと語り手の一方的な推測によって、部分的に語られるだけである。このような中性的な属性は、前述したキャラ勝負の傾向に対するオルタナティブ=もう一つの可能性として提示したい。これでその傾向が打ち破れるとも、正解だとも言えないことに留意をしてほしい。
次にもう一つは、自己の文体の表出させることである。しかし、ただ表出されない。それは文化的で個別的な語り方と共に出現して残される。村上春樹なら翻訳体、森見登美彦なら古風な長い地の文、又吉直樹なら漫才風の物語構成、それぞれの語り方で文章が書かれる。たとえニュートラルに思える論文もアカデミックな語り方であり、感情を介さない論理命題の連なりも認識が減衰した語り方である。語り方は選択可能である。ならば私は欧州中世神学的な語り方を取り入れてみたい。
アウグスティヌス『告白』、ゴシック教会に対する同時代の批評をちょうど読んでいた。厳密に言えば彼の文体だし、それは私が選びとったものではなく授かったものだが、その語り方と自信の文体の調和を見てみたかった。
彼の語り方を端的に説明するのは難しい。そもそもそれは客観的に文体とも分割できるものではない。しかし過剰なほどに祝福に溢れた言葉への修辞、内省的な傾向、超越的存在(神)と自己の強い関係性、個人的な経験への賛辞、これらが明白に現れている。そしてこのような傾向は本作にも表れており、執筆行為自体とその成果物の生成がまさに目的である。
捕捉にバタイユに関して、物語とモチーフの散逸の参考にしてもらった。『太陽肛門』の語り手は中性的に書かれており、その物語性はモチーフの統一と主体的な語り手によってのみ成立されている。そして、本作の結末もそれを彷彿とさせるが、しかし徹底的に違う点は構成と行動である。まず、本作は回想・出会い・悟りの三部で構成されおり、物語的なものを付している。また語り手は場所を移動し他者へと働きかけている。静的な語り手は動き出し、詩的な流れは物語性を帯びる。このようなズレを本作に挟んでみた。
まぁ、書いていくうちにやりたい事が、複合的に絡んきてしまったので、もっとやりたい事を絞るべきなのは適当で、実験作品として劣悪なのは否めない。だが、意識の表れを見たい思いもあったので、その折衷に難儀している。
追記:以上は2025/6に書かれた作品とあとがきだが、現在2026/07の私はこれと少し違う考えをもつ。それは昨今の傾向ではなく、作為的に成そうとした二つの事についてであり、二つとも失敗に終わったと考える。その詳細はまた別で述べるにしよう。
透きとおった 聖心さくら @5503
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