派手な事件は起きません。赤い薔薇の花束と、お惣菜屋さんのコロッケと、ささやかな日常の手ざわりだけで進んでいきます。でも読み終えたとき、それまでの何気ない場面が、まったく違う意味を帯びて立ち上がってくる。説明はひとつもないのに、ひとりの人の長い時間が、静かに胸に残ります。直接書けることを、あえて書かない。いちばん言いたいことを、言葉にせず行間に沈める——そういう手つきの作者さんです。
もっと見る