第11話 佐渡ヶ島、両津港からのテレビ中継1


 宿舎のテントに戻ると、ロシア兵士がテントにテレビを設置していた。有機ELの65インチの大型だ。テントの奥にTVテーブルを置いて、テント内の日本人が視られるようにしていた。


 兵士の一人が「みなさん、テレビが見られるようにいたしました。地上波、BS、どのチャンネルも視聴できますので、御自由にして下さい。ただし、全佐渡ヶ島のネットは遮断してあります。ネット経由のチャンネルは視聴できませんのでご了解下さい」と流暢な日本語で説明した。集まってきた日本人の一人にリモコンを渡した。


 エレーナは何を考えているんだ?俺たちに外部のニュースなんかを見せてどうしようというんだろう?


 テレビの電源が入った。NHKがうつる。アナウンサーが「佐渡ヶ島、両津港からの中継が入っています。NHKと民放の合同取材クルーが住民の退避用フェリーに同乗を許されました・・・映像が・・・あ、大丈夫ですね。佐渡の藤田アナ、聞こえますか?」


 画面には両津港に接岸されている佐渡汽船、新日本海フェーリーが映っていた。日本人らしく、整然と列を作って並んで乗船を待っている島の人達の姿が画面に大写しになった。ロシア軍は列の脇に待機している。拡声器で「船内に持ち込める荷物は誠に申し訳ありませんがスーツケース二個までです。慌てずお待ち下さい。席は充分にあります。親族親類で同じ船に乗船していないなどの場合はお申し出下さい。調査の上、順番を組み替えます」と日本語でアナウンスしている軍人の声が聞こえる。


 フェリーの横には、ロシア軍の大型強襲揚陸艦二隻と異様な姿のエアクッション型強襲揚陸艇十数隻が停泊していた。日本はロシアの艦艇を攻撃しなかったのだろうか?こんな艦艇なら潜水艦で一撃のはず?


 ああ、憲法か。あの馬鹿げた憲法で、日本の領海を侵入する艦艇が何もしなければ、先制攻撃の禁止だから、市ヶ谷も官邸も何も指示できなかったというわけか?ということは、エレーナの言っていた北海道上陸作戦とタイミングを合わせて、このサドガシマ作戦を同時実行したのか?だから、北海道も海自も空自も何もできなかったのだな。


 困った国だよ、日本は。


 カメラが藤田アナを映した。「さて、ここで、ロシア軍の広報担当の方がいらしています。ロシア軍からの許可がありましたので、お話を伺いたいと思います」とカメラがパンして、藤田アナの横の軍人をうつした。(あ!エレーナ!)


 エレーナ少佐は、昨日の迷彩服と違って、ロシア軍の正装姿だった。カーキ色のツーピースのスカート姿で、斜めにサッシュを着用しており、胸に略綬をつけている。ロシア軍の制帽をしていた。スカートが短い。普通、ロシア軍の女性兵士のスカートは膝丈なのに、彼女は膝上10センチくらいのミニだ。これはテレビ映りを気にしたのか?


「エレーナ少佐、NHKの藤田です」


「藤田アナ、おはようございます。ロシア連邦軍東部軍管区、第109高射ミサイル旅団通信大隊所属のエレーナ陸軍少佐と申します」と流暢な日本語で答えた。「現在は、佐渡市立両津中学校で日本人の方々の警護任務についております」


「エレーナ少佐・・・」

「エレーナとお呼びになって。機密事項以外、何でもお応えします」

「では、エレーナ、まず、この日本人退避計画の概要ですが、説明願えますか?」

「ハイ、佐渡ヶ島の人口約五万人の退避は、日本政府との折衝で、佐渡汽船、新日本海フェリーの船舶を使用し、本日から五日間の予定で行います」

「退避対象は日本人全員ですか?」

「いいえ、佐渡ヶ島の民間人の方1,920人、航空自衛隊佐渡分屯基地の自衛隊員80名の合計2,000人は、私たちロシア軍と共に撤収まで残っていただきます」


「二点、お伺いします。はじめに、その2,000人の日本人は捕虜であり、人間の盾にされるということですか?それから、撤収と言われましたが、ロシア軍は佐渡ヶ島を占領されるんじゃないのですか?撤収されるんですか?」

「最初の質問ですが、日本人の方々はジュネーブ条約に従い、戦争時の捕虜として人道的に対処いたします。また、藤田アナが言われた人間の盾とは、敵が攻撃目標とする施設の内部や周囲に民間人を配置して、攻撃を牽制することで、ジュネーブ条約では戦争犯罪とみなされます。我々ロシア軍は、できうる限り、自衛隊、在日米軍の攻撃目標から彼らを離して収容いたします。人間の盾には当たらないと思います。次の撤収に関してですが、いつかは撤収いたします。日本国領土をいつまでも占領するのは不可能でしょう?期限に関してはノーコメントです」


「人間の盾ですが、しかし、距離的に攻撃対象の近くに日本人がいたら・・・」

「それは、自衛隊、在日米軍が、わざわざ、日本人が収容されていると思われる場所を攻撃すれば、ということですよね?日本人の方々の収容場所はお教えできます。ただし、攻撃目標である兵器の設置場所はお教えできません。それは、日本政府、米国の監視衛星で調査すれば良いことです」


「わかりました。人間の盾に関しての議論はやめます。それで、収容場所については?」

「日本人の方々が収容されているのは、佐渡市立両津中学校、佐渡市立両津小学校、佐渡市立加茂小学校、新潟県立佐渡中等教育学校、佐渡市立河崎小学校、新潟国際藝術学院佐渡国際教育学院、新潟県立佐渡高等学校、これら七校です」


 あ!エレーナのやつ、捕虜の収容されていない佐渡国際教育学院、佐渡高等学校の二校も含めやがった、と鈴木は思った。


 藤田アナとエレーナの会話が続いたが、ロシア軍の兵力、戦備に関してはノーコメントで、アクティブレーダー基地の占拠は継続していることだけを答えた。また、日本人の扱いは、食事の内容まで事細かに説明した。結局、日本側は何もわからない。ただ、ハキハキと質問に答える美人の女性兵士の存在が日本国民の印象を多少は和らげた、とは言えるだろう。


 それから、いつもながらのテレビのコメンテーターが出てきて、ああでもない、こうでもないという無駄な議論が映し出された。NHKから民放にチャンネルを変えても、BSにしても、掛け持ちで出てくる軍事専門家、政治評論家、芸人がバカな話をするのに変わりはなかった。確かに、ここの日本人にテレビを見せてもロシア軍の損にはならないな。


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 テレビに飽きて、ベッドに寝転がっていると、テント入り口の合わせ布がはぐられて、長身のロシア人士官が入ってきた。「スズキ少佐はどなたかしら?」彼女はテント内を眺め回して、片言の日本語で言った。「私が鈴木少佐だ」と俺は手を上げて英語で答えた。


 彼女は私に敬礼をして(同じ軍属だからお互いの挨拶ってことだ)「私はアデルマン大尉であります。ジ…、いえ、エレーナ少佐がお呼びになられてます。執務室に来ていただきたいとのことです」と彼女も英語に切り替えて言った。


「お!エレーナはテレビの放送現場から帰ってきたんだな」

「ハイ、さきほどお戻りになられました」

「ふむ、それで、あなたがアデルマン大尉?」確かに、アニーの言うように彼女はとっつきにくそうだ。固く食いしばった唇が氷の女みたいな印象を受ける。この女性が本当にアニー曰くの『ツンデレ』なのか?


「ハイ、そうであります」と直立不動で答える。

「わかりました。すぐお伺いしましょう。アデルマン大尉が案内していただけるのですか?」

「ハイ、そうであります」

「了解。そうそう、大尉、あなたに紹介しないといけない人間がおりますが」

「ハ?紹介?なんのことでしょうか?」


 俺は小野一尉を呼び寄せる。「小野、彼女がアデルマン大尉だ。アデルマン大尉、彼が小野一尉です」


「ハ?」とアデルマン。

「この男が小野一尉、あなたのお相手。エレーナから聞いているでしょ?」

「ハ?」と直立不動の姿勢だが、頬に赤みがさした。ガードを崩したな。この気の強そうな女性がツンデレだったら、小野が羨ましいな。


「これからエレーナのところに行ったら、彼女に頼んでアデルマン大尉をフリーにしてもらうから。肩章にピンクのリボンをつけないと。そしたら、ここに戻って、小野とお話できるでしょ?」

「鈴木三佐、それは命令でありますか?」とますます頬を赤らめる。


「私がロシア軍人に命令できるわけがないでしょ?こんなこと、小野にだって命令できませんよ。これは、本人の自由意志次第です。あなたにとっても、小野にとっても」

「アデルマン大尉、私は大歓迎ですが・・・」と小野。こいつは軽い。


「ハ、ハイ・・・え?あの・・・」

「大丈夫、エレーナに聞いてご覧なさい、俺と同じことを言うから」

「わ、私は、命令と受け取ります。了解いたしました。小野大尉とコミュニケーションを後刻致します」

「硬いなあ・・・まあ、いいでしょう。さて、行きましょうか」

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「⚓エレーナ少佐のクロニクル」2027年から始まった日本周縁の北朝鮮・中国との紛争と日本・東ロシア共和国の防衛戦 ⚓フランク ✥ ロイド⚓ @betaas864

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