同族喰い
フリ-クス
第1話 同族喰い
「……やはり、食うしかないな」
船長のジェームズが自分に確かめるように言った。
「……ああ」
黒人クルーのタイロンも追随するように言葉を発した。
僕は、何も言わずに頷いた。
我々はアンドロメダ第118惑星の洞穴の中で救援を待っていた。
宇宙船の故障、そして爆発。
ほとんど食料もないまま脱出ポッドで彷徨い、ここに漂着して7日になる。
我々のSOS信号が基地に届いていたとして、
救援隊が到着するまでにあと2週間はかかるだろう。
我々の飢餓は極限に達していた。
眼窩が落ち窪み、
薄汚い髭が顔中に暗い陰を落としている。
そして一昨夜、
爆発のショックで脊髄を傷めていたアンナが死んだ。
いま、我々の目の前に彼女の美しい遺体がある。
我々は、決断を迫られていた。
尊厳を持って死を選ぶか、
生きるために、彼女の遺骸を喰うか、
神は、我々にもっとも困難な十字架を突きつけたのだ。
ジェームズは黙ってアンナの宇宙服の前をはだけた。
生きていた頃、
我々の垂涎の的だったアンナの胸があらわになった。
我々は、黙って彼女の服を脱がし続けた。
すでに死後硬直が解け始めていて、
身体は冷たく、その感触はぐにゃりとしていた。
最後に彼女の下着を脱がして陰毛と性器があらわになった時、
僕は自分の肩口にはっきりと神の視線を感じた。
誰ともなく、我々は自然に十字を切った。神よ、許したまえ。
ジェームズがナイフを取り出した。
鋭い刃が、薄暗い洞窟の中で鈍く光った。
ごくり。僕は唾を飲み込んだ。
「……俺は、胸を食う」
ジェームズが言った。
「……待て。胸は俺だ」
タイロンがそれを抑えるように言った。
「お前は足でも食ってろ」
ジェームズがいらいらした口調で言った。
「なら、お前はケツの穴でも食ってな。とにかく胸は俺だ」
「黙ってろタイロン。リーダーは俺だ」
「俺たちを漂流させた阿呆船長にリーダーの資格なんかねえ」
「……疥癬持ちの罰当たりがでかい口叩くな」
「てめえこそ、女の胸が恋しかったら淫売のおふくろとファックでもしてろ」
「今の言葉取り消せ。……後悔することになるぜ、黒〇ぼ」
「上等じゃねえか。真っ赤な首をした包茎のチキン野郎に何ができる」
胸なんか二つあるんだから分ければいいじゃないか、
僕がそう言おうとしたとき、
二人がいきなり立ち上がって大乱闘になった。
ジェームズはタイロンの心臓をナイフで刺し貫き、
タイロンは倒れざまに熱線銃でジェームズの額をぶち抜いた。
そういうわけで、
いま僕の目の前には3体の遺骸がある。
助けは、まだこない。
ああ神よ。かんべんしてください、ほんとに。
同族喰い フリ-クス @Freeks
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