概要
記録できないものが、ここにいる。
地方の宗教共同体「静止の会」。「苦しみの連鎖を断つことが慈悲である」という理念のもと、出生回避を推奨するその施設に、外部観察員の桐島は記録係として赴任する。
ケース番号0047。二十六歳。暴力歴あり。経済的自立の手段なし。妊娠十四週。
条件は揃っている。結論は出ている。記録するだけでいい。
しかし桐島は、付き添い室の女に出会う。判断を下さず、声もかけず、ただ対象者の傍らに座り、一定のリズムで指を動かし続ける女。その視線が何をしているのか——助けているのか、苦しめているのか——桐島には判断できない。
週を追うごとに、記録が変容していく。書いた覚えのない一文。主語を失った記述。三人、と数えた時、その場にいたのは二人だった。
これは記録の崩壊なのか。それとも、記録されなかったものが記録に侵入してき
ケース番号0047。二十六歳。暴力歴あり。経済的自立の手段なし。妊娠十四週。
条件は揃っている。結論は出ている。記録するだけでいい。
しかし桐島は、付き添い室の女に出会う。判断を下さず、声もかけず、ただ対象者の傍らに座り、一定のリズムで指を動かし続ける女。その視線が何をしているのか——助けているのか、苦しめているのか——桐島には判断できない。
週を追うごとに、記録が変容していく。書いた覚えのない一文。主語を失った記述。三人、と数えた時、その場にいたのは二人だった。
これは記録の崩壊なのか。それとも、記録されなかったものが記録に侵入してき
ここまでの歪みに耐えてくれて、ありがとう。
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- ★★★ Excellent!!!無機質な白いパンドラの箱
静謐、無機質、そして或る筈のない 何か。
これは某宗教団体が主導する『出生回避』の
記録である。
貧困、暴力、孤立、そして新たな命。
『苦しみの連鎖を断つ事が慈悲である』との
理念の下で行われる出生回避。それは
外部からの記録を必須としている。
主人公は、その記録の為に 対象女性 を
事細かに観察する。
観る、そして 記録する。
その単調な繰り返しは心臓の鼓動の様でいて
誰しもが容易に想像できるものだったが。
作者の徹底したリアリズムは、有機質の
生々しさと同時に、正反対の無機質を
感じさせる。時間のながれ、規則的な音、
文字にまでそれは染み込んでは
想像しなかった 幻影 …続きを読む