第18話 時止めのカラクリ 弐

「買ってしまった・・・」


青年はストップウォッチを買う。

買うと言ってもお金を払った訳ではない。

代価として幾つか骨董店を回って集めていた自分のコレクションから数点手放すだけで済んだ。

アンガラサイトの書き込みを見て集めいていたいわく付きの品々だった。

青年の名は動本どうもと和夫かずお

大学に通う普通の大学生である。

大学ではオカルトサークルというマイナーサークルに所属していた。


かずご機嫌だな」

「ああ、実はな面白い品を手に入れた」

「へ~」

「それにな、例の店に行って来たぞ」

「マジか!!」

「ああ、面白い品というのがな」

「まさか!」

「そのまさかだ!!」

「マジか~スゲエ!!」


実は異界のこと、異界にある骨董店のこと等々を教えてくれたのは目の前にいる動本の友人であった。

友人もオカルトサークルに所属していて、そこで知り合い、お互いに異界の骨董店『異界堂』を探していた。

何方が先に見つけるかも競っていた間柄でもあった。

友人の方はあまりにも見つからない為、動本より先に早々に探すのを止めていた。


「詳しく聞かせてくれ!!」

「そのつもりだ」

「楽しみにしているぞ!!」

「ああ」

「じゃぁさ!今夜にでも飲みながら話そうぜ」

「分かった。何時もの所でいいのか?」

「おう!」


話が終わると友人と別れ講義に向かう。

何時もの日常である。

特に異界から持ち帰った品を持ち歩いているからといって変わるものではなかった。

その事が段々と動本を落ち着かせた。

何時もの何となく聞いて何となく理解する講義、昼になれば一緒の講義であった仲間と昼食を取り、次の講義に向かう。

今までと変わらぬ動本の大学生としての日常であった。

夕方、大学の講義も終わり、待ち合わせ場所の何時もの行きつけの店へと足を向ける。

今日の話題のネタは確りとポケットの中にあり、競い合って探していた異界の骨董店『異界堂』へ動本が間違いなく辿り着いたよいう確たる証拠の品でもあった。


「今日の店の払いはあいつだからな!さて、何を頼むか?唐揚げは外せんとして、よし!異界だけに魔王を飲もう!!」


唐揚げは動本の好物であり、魔王とは焼酎の銘柄で、少しお高い為、何時もは躊躇して頼んでいなかった銘柄であった。

驕りならば遠慮はしないとばかりに動本は独り言を囁きながら、これから飲む美酒に酔いしれる様に顔を綻ばせて街を颯爽と歩いて行った。

不意にポケットの中の品が震えた様な気がして歩き足を止め、取り出す。

アナログなストップウォッチにバイブ機能などは搭載されていないのは見なくても解る。

しかし、先程一瞬震えた様な気がした動本はマジマジと見詰める。

そんな動本の耳に焦ったような叫び声が聞こえる。


「危ない!!」


その声が発された方を見れば、更にその先、横断歩道の所、子供が車道に飛び出す姿が見える。

更にその先、その飛び出した子供はその車の行き道に身体を投げ出した様な状態である。

なぜその子供が危険な車道に飛び出したかなどは解らないが、このまま行けば悲惨なこととなり、明日のNEWSの悲惨な事故の報道の一つになる事だけは明らかであった。

動本は何の躊躇もなく、手に持つストップウォッチのスタートボタン的なスイッチを押す。

押した瞬間、周りの街の喧騒は消え、耳が痛くなる程の静寂が動本を包む。

人という人、車という車、空飛ぶ鳥、見渡す限りの全てが彫刻の様に固まり、動かない。


「マジか・・・」


その品の能力を予め聞いていた動本も正直言えば今の今まで半分は信じていなかった。

ただ、所有欲に駆られて手に入れただけの品。

その能力は知りつつも眉唾物程度に聞いていた店主・玉藻様の言葉。

全く信じていなかったかといえば、少しは信じていた。

少しというのは本当に少しであるが、今の今まで試そうと思わなかった。

何故ならば、玉藻様より聞いた代償が怖かったからである。

もし仮に、本当に時を取られるとしたら・・・

動本にはそれを頼り、代償を払い続ける自分の姿が手に取る様に見えたからこそ、今の今まで試そうと思わなかった。

しかし、子供の危機を目の当たりにし、助けずにはいられなかった。

動本の良心が手段があるのに使わないという選択肢を無くしたのである。


「あ!急がないと!」


動本は慌てて走り、子供の許に行くと、抱き抱える様にしてその子供を車道から移動させて安全な場所に移動させる。

移動させると慌ててストップウォッチのボタンを再度押す。

秒針が元に位置まで戻ると、時は動き始める。


「大丈夫か?」

「え?・・・」


先程まで車にひかれそうになっていた子供は周りをキョロキョロ見渡し、驚いている。


「え~と・・・ありがとうございます?」


動本は苦笑いしながらその子供の頭を撫でる。


「何で飛び出したんだ?」

「あ・・・その・・・あの・・・」


動本は少し考えて、子供によくある咄嗟の不可解な行動だろうと思った。

子供というのは時に周りの状況を考えずに行動することがある。

何かに気を取られていたり、衝動に駆られたり、色々だろうが、行動した子供にも何故そうしたのか解らないことはよくある事でもある。

だからこそ、目を離してはいけないのである。


「あ!ありがとうございます!!・・・あれ?動本君?」


声をする方を見れば、見知った人物であった。

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異界堂奇譚 ―異界にある骨董店― 生虎 @221t2

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