第6話

プレフが消えた後、私の頭の中の秩序は奇妙な方法で崩壊し始めた。


それは文字通り消滅だった。 存在自体が痕跡もなく消えてしまったのだ。 私の知覚領域でも、一部のプラグが抜けてしまったような感覚だった。


それは単に機能が一つ停止しただけの問題とは次元が違うものだった。 以前であれば、状況をA、B、Cの順に精緻に分類し、発生し得る変数を格子状に配置して最適な結論を導き出しただろう。 私の世界は常に誤差のない設計図の中で安全に機能してきた。 しかし、今や私の内部にある精巧な機械装置は、歯車が一本抜けたまま空回りしていた。


霧が立ち込める夜明けの道を歩くように、すべてがぼんやりとして不透明だった。 フレフが奪ったのは単なる「コントロール」だけではなかった。 物事を冷静かつ客観的に見つめさせてくれた私の精神的フィルター自体が、まるごと剥がれ落ちたような気分だった。 世界を構成していた堅固な境界線がインクのように広がり始め、私はそのぼんやりとした境界の上で危うくよろめいた。


日常のすべてが新鮮で鋭く感じられた。 キッチンでパチパチと落ちる水道水の音は、普段なら無視できる些細な騒音だったが、今では鼓膜を鋭く切り裂く刃のように神経を尖らせた。 窓の外を通り過ぎる風の音や、誰かの咳払いの音一つにも、心臓は不規則なリズムで暴れた。 内面を支えていた堤防が崩れた場所には、理由のわからない苛立ちが粘り強いタールのようにくっついて離れなかった。


私はリビングのソファに座り、静かに自分の手を見下ろした。 指先の感覚さえも自分のものではないかのように遠く感じた。 制御できない感情の断片が勝手に飛び出し、思考の流れを妨げた。 何をすべきか、次にどこへ足を踏み出すべきか判断できないという恐怖が、背筋を凍らせて流れた。 私を支配していた完璧な独裁者、プレフの不在は自由ではなく、混沌という名の牢獄に私を押し込んでいた。


混乱した頭の中を整理しようと目を閉じたが、閉じたまぶたの向こうにプレフが設置した監視カメラの赤い点滅灯が残像のように消えていった。 今、私は自分自身さえも制御できない、最も危うい状態で次の自我に向き合わなければならなかった。 空っぽの廊下の端から聞こえてくる誰かの笑い声が、異様に奇妙に鼓膜を揺らした。


私は重い足取りで3階の廊下を歩いた。 プレフの部屋だった301号室は、今や完全な沈黙に包まれていた。 その隣、302号室のドアの前には華やかなショッピングバッグや宅配ボックスが城壁のように積まれていた。 アークの領域だった。


私はノックもせずに302号室のドアを開けた。


"ああ、びっくりだ! 礼儀を守れ


アークは驚いて携帯電話を置き、床に散らばった荷物を整理し始めた。


初めてこのヴィラに入ったときのあの鋭い礼儀は、すでに失われて久しい。 狭い共用キッチンで毎朝顔を赤らめ、ランドリールームでお互いの湿った洗濯物を見つめ合いながら、私たちはいつの間にかお互いの言葉の端を潰し始めた。 線を引く敬語よりも、無礼なタメ口の方がこの奇妙な同居にはより似合っていた。


部屋の中は日常の匂いの代わりに、張り詰めた演出の雰囲気だけが満ちていた。 天井には幾何学的な線が際立つシャンデリアが金属的な光を散乱させており、壁面を埋め尽くす限定版スニーカーやバッグは、まるで持ち主を待つのではなく、誰かの「いいね」を待つ展示品のように精巧に整列していた。


確かに華やかだったが、人が息をする空間特有の温かさは感じられなかった。 昼間にもかかわらず窓は完全に遮断されており、その代わりに高出力のスタジオ照明が影ひとつ許さずに部屋を漂白していた。 ここは生活のための部屋というより、24時間体制で放送される準備が整った巨大なスタジオ、あるいは誰かに見せるために丁寧に加工されたショーウィンドウに近い。


「おじいさんがこんなものを集めるようにあなたにチャンスを与えたわけではないだろう。」


低く投げた言葉にアークの眉間が見事に歪んだ。 普段ならもう少し礼儀正しく振る舞ったかもしれないが、生の感覚が目覚めた今の私は、迂回する方法を忘れたようだった。


「言葉に気をつけて。」 これは私のギャラリーの収益と活動で正当に稼いだものだ。」


アークは顎を上げてプライドを示した。 しかし、私は知っていた。 彼女の華やかなフィードの裏には、祖父が注ぎ込んだ巨額の財政支援があることを。 彼女は自分自身が自立して生きていると信じたいように見えた。 底から転がりながら実力を積み上げてきた私の目には、彼女は自立の意味が何なのか分かっていないように見えた。 自ら否定しているその温室のビニールハウスが裂ける瞬間、すぐにしおれてしまう彼女の未来が見えるようだった。


"正当に?おじいさんが君の母に相続させた分だよ。 でも、君のお母さんは今どこにいるの?"


アークの顔から一瞬で血色が失われた。 彼女は祖父のアーク母娘への支援金はきちんと受け取りながらも、体の不自由な老母を郊外の古い介護施設に放置している。


"お前は何を知っている?"


"私が言ったじゃない。 このヴィラにはオーナーがいる。 主人は隅に生えたカビの匂いさえ嗅ぎ分けることができる。」


私は化粧台の上に置かれた高価なクリーム缶を指先で軽く押した。 ポンと音を立てて床に転がるクリーム缶が、彼女の危ういプライドのように見えた。


"もう支援は途切れた。 祖父が亡くなった今、いつまでその粗末な城壁の後ろに隠れて生きていられるだろうか。 権利だけを享受し、義務を無視するのは、病気だ。 おばさん


最後の言葉が空気を切り裂くと、アークの呼吸が荒くなった。 彼女は祖父の末っ子の娘で、私より年下の叔母だった。 彼女は答える言葉を見つけられず、唇だけが震えていた。 正面から反論する勇気も、そうしてこの状況を終わらせる配布もない彼女の顔に恥ずかしさが極まってしまったとき、ちょうど開いたドアの隙間から低い口笛の音が流れ込んできた。


"ドアが開いていたので、失礼しました。"


ヌクだった。彼は門の前に丁寧に立っていたが、その眼差しは部屋の中の騒ぎをくまなく見渡していた。どこまで聞いたのか分からなかった。 アークは待っていたかのように私に向けた視線を外し、ヌークの方に顔を向けた。 今までの恥ずかしさを無理に飲み込み、彼女はまるで何事もなかったかのように慌てて化粧台の前の乱れた物を整理し始めた。


"ああ、ヌク··· いつ来たの


アークの声は微かに震えていた。 彼女は私を非難したり対立したりする代わりに、ヌクという存在を壁にして私の視線を回避した。 私という存在がこの部屋に全くいないかのように、彼女は突然鏡の中の自分の顔を撫でながら必死に平穏なふりをして演技を始めた。 それは卑怯だが、彼女が生き延びてきた唯一の方法だった。


ヌックはそんなアークの態度に気付いていながらも知らないふりをし、ただ柔らかな微笑みを浮かべて私を見つめた。 彼の登場は荒々しくはなかったが、むしろその丁寧さが部屋の鋭い緊張感をさらに奇怪に圧迫した。


"見せるものがあるから.."


ヌックが差し出したパンフレットをざっと見ていたアークの目が、欲深く変わった。


"これ··· 本当にルシエンの遺作なの? 市場に絶対に出ないと噂されていたんだ。」


"アーク、君のギャラリー開館記念作としてこれほど完璧な『プライド』が他にあるだろうか?"


ヌクが不気味に[笑いながらアークの肩を軽く叩いた。 アークは不快そうに体を震わせながらも、パンフレットから目を離せなかった。 祖父の遺産だけで維持されている自分の空っぽの名声を埋める最後の手段だと信じているようだった。 私はその二人の後ろ姿を見ながら3階を下りた。 頭の中がジジジと鳴るラジオの周波数のようにめまいがした。


再び訪れた週末の昼食時、2階の共用キッチンの木製テーブルは氷の上よりも冷たかった。 フレフが座っていた空の椅子は、もう誰も見向きもしなくなった。


静寂が漂う食卓で、フォークが皿をこする音が特に鋭く響いた。 アークは食べ物を噛まずに、皿の上のサラダだけを厳しく掘り返していた。


私が水のコップを置く音に、アークの指先がピクッと震えた。 彼女は私を見ずに、横に置かれたホワイトワインを一気に飲み干した。


「…本当に、やるんだね。」


アークは低く呟きながら、粗い杯を置いた。 彼女の視線は虚空を漂い、向かいに座る私の存在を無理に消そうとする様子が明らかだった。 私はその卑怯な回避を静かに見つめながら再びフォークを持った。


テーブルの端に座っていたカンポは、食事に手をつけていない様子だった。 彼はただ膝の上に置かれたノートを軽く握り、私たちの微細な呼吸と揺れる眼差しを一つ一つ目に収めていた。 彼が口を開かなくても、彼の視線が届くところすべてで空気がべたべたとくっつくような感覚がした。


"カンポさん、冷める前に食べてください。"


私の言葉にカンポは返事の代わりに軽く頷いた。 そしてまるで非常に重要な場面を目撃したかのように、ペン先でノートの角をポンポンと触れた。 その音はまるで秒読みの振り子の音のように、テーブルの空気を張り詰めていた。


カンポが小さく口を開いた。 彼の視線が私に留まった。


"店主、最近ちょっと変わった気がする。 以前はもう少し··· 機械のようだったが、今はとても人間的だ。 愚かになるほどだ。」


カンポの指摘は鋭かった。 プレフの論理力が抜けた隙に芽生えた感情が、私をますます制御不能にしていた。 カンポはまるで自分の未来を予見しているかのように、冷えたスープを一口すくって飲みながら言った。


不便な食事が終わりに近づく頃、アークは勝利感に酔いしれた表情で私を見ながら宣言した。


"来週、私のギャラリーでVIPプレビューがあるよ。 そこでルシエンの作品を公開するつもりだ。」


私は答えの代わりに水を一口飲んだ。 ヌックが投げた餌がアークの喉の奥深くに刺さる音が聞こえるようだった。 カンポはそのすべての光景をカメラのシャッターを押すように目に収めていた。


プレフが消えた場所に咲いたのは自由ではなかった。 それは互いに食い合い始めた歪んだ欲望の序章だった。 私はポケットの中で細く震える手を隠し、窓の外の濃くなる闇を見つめた。

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