第5話

ある土曜日の昼食を終えた食卓に重い沈黙が降りた。 エイミーが慎重な足取りで自分の部屋である101号室に入っていく後ろ姿を、プレフは眼鏡を直して見つめていた。 まるで一瞬の残像でも脳裏に保存しようとする人のようだった。


カメラを撤去した後、プレフの時間は方向を失ったまま漂っているようだった。 彼は一日中ゲーム機を手放さなかったが、実際の画面の出来事には特に興味がないように見えた。 ただ、空っぽになった視線をどこに置くべきか分からず、習慣的にボタンを押し続けているだけだった。 何かに追われるように繰り返されるその単調な指の動きは、崩れ落ちる日常のバランスを無理に掴んでいる危うい振り子のように見えた。


"プレフさん、ゲームの中の世界はどうですか?"


私の問いにプレフの指が止まった。 彼はゲーム機の電源を切り、消えた画面をぼんやりと見つめた。 青いモニターの光に慣れた彼の目は、道に迷ったように見えた。


"...何も見えないというのは、思ったよりも恐ろしいことですね。"


プレフは低く呟いた。 彼は眼鏡を外してテーブルの上に置いた。 眼鏡のつるが木の床に触れる音が特に乾燥して聞こえた。


"ここ数年、私の目は301号室のモニターの壁に釘付けになっていました。 エイミーの息遣い一つ、寝返り一つが私の世界のすべてでした。 贖罪という言い訳でその子の人生を盗み見し、私は自分の人生を諦めました。 いや、私が誰だったのかさえ忘れてしまいました。"


彼は震える手で空のカップをいじっていた。


"面白いでしょう?カメラが壊れてから、私の世界の解像度が一気に下がった気がします。 301号室の画面が真っ暗になった瞬間、気づきました。 私はエイミーを守っていたのではなく、その子供というレンズを通して、やっと私の歪んだ形を確認していたのだ。"


プレフはしわくちゃのシャツの袖をいじりながら付け加えました。


"観音だの罪悪感だのという大げさな言葉はやめます。 ただの中毒のようなものでした。 毎朝エイミーが無事に目を覚ますのを見て、私の人生のプランAがまだ稼働中であることを確認しなければ、息をすることができなかったから。 しかし、今その鏡が壊れてしまったので、私はどこに立っているのか全く分かりません。 電源が切れたモニターの前に座っていると、自分の存在も一緒にログアウトされたように感じます。"


彼は力なく笑いながら私を見ました。


"強制的に止めてくれてありがとうと言うべきでしょうか。 私の手では絶対にその電源ボタンを押せなかったでしょうから。 やっとこのうんざりする夜勤が終わった気分です。"


私たちはいつの間にか7年前の事件で苦しむ彼の心を共有するほど近くなった。


プレフの声は割れていた。 彼はモニターの裏に隠していた青白く弱々しい本心を明らかにしていた。


"食事の時間にエイミーに会うたびに息が詰まります。"


プレフは冷めてしまったコーヒーカップをいじりながら、静かに口を開いた。 食卓の上の照明が彼の青白い顔に鋭い角度を作り出した。


"画面の中でしか見たことのないその子の体温と目の輝きが直接触れるたびに、私が犯したことの重みが私を押しつぶすような気がします。 善意だと信じていた執着が、すでに怪物のようになって久しいです。 私は今、その青いモニターの光に浸ってしまい、日光の下に出る方法を忘れてしまったようです。"


私は答えなかった。 7年前にその家を滅ぼした事件、そしてその地獄のような監視の出発点にプレフがいたという事実を私はすでに知っていた。 わざわざ言葉を添えなくても、彼の告白の裏に隠れた血の匂いがこの空間の空気の中に染み込んでいた。 私の沈黙は慰めではなく、彼が犯した罪を静かに見つめる監視者の視線に近かった。


彼はゆっくりと席を立った。 階段に向かう彼の足取りには重みがなかった。 壁面に沿って長く伸びた彼の影が、今にも崩れそうなほどぼんやりと揺れていた。


「あなたが言ったログアウト··· それが単に席を外すだけではないことが、やっと分かりました。 私のアイデンティティがすでにデータの残像の中に消えてしまったなら、システムを維持することには何の意味もありません。 もしかしたら、私はすでに7年前のあの日、その企業と共に空中分解していたかもしれません。"


プレフは階段の途中で立ち止まり、私を振り返った。


"もうゲーム機を持っていくつもりはありません。 もう何かを見なくてもいい場所に行きたいですね。 そこは301号室よりもずっと静かでしょう。"


彼の最後の言葉が空中に散らばった。 それは単なる別れではなく、自分の存在そのものを消し去るという悲しい予告だった。 私は遠ざかる彼の後ろ姿から消滅の匂いを感じた。 301号室の電源が切れ、その青い亡霊が永遠に闇の中に沈む時が近づいていた。


---


土曜日の昼、キッチンの大きな窓から斜めの陽光が差し込んできた。 メニューはシンプルなパスタと新鮮な野菜サラダだった。 カンポは慣れた手つきでワインを注ぎ、アークはテーブルの照明の角度を調整しながら自分の携帯電話のカメラを向けた。 ヌークは隅で無関心にパンをちぎっていた。


そしてプレフが現れた。 いつも最初に降りてくる彼だったが、今日は普段より遅く姿を現した。


食卓に座っていたプレフの姿は惨めだった。 一週間のうちに何があったのだろうか。 数日間徹夜したかのように凹んだ雪玉と、紙のように真っ白になった顔色。 彼は席に座りながらも私の視線を避けた。 先日の食事会が終わった場で自分の本音を明かしたことが恥ずかしいようだった。


"プレフ、顔色が良くないですね。"


私の問いに彼は答える代わりに、震える手で水のコップを握った。 グラスの中の水が彼の手の甲を伝って流れるほどの微細な振動が続いた。 完璧な統制と管理を象徴していた彼に、亀裂が生じていた。 まるで古い壁紙が湿気で膨らみ、すぐに破れそうな危うさだった。


私たちは丁寧でありながらも空虚な会話を交わし、食事を終えた。 アークは自分のフォロワーに見せる完璧な日常を演出するのに忙しく、エイミーは静かに食事だけをしていた。


食事が終わる頃、プレフはやっと口を開いた。


それから1週間後、再び訪れた週末の昼食時間だった。 食卓に皆が集まったが、301号室のプレフは見当たらなかった。 不思議な予感が背筋を伝って流れた。 私は階段を駆け上がり、プレフのドアを叩いた。 反応はなかった。 無理やりドアを開けて入った部屋は、氷点下のように冷たかった。


そこにプレフがいた。 ベッドの上に投げられた人形のように、人生への意志を丸ごと失い、しおれた姿で。 彼の肉体はリアルタイムで透明度が低くなる幽霊のようにぼやけていた。


部屋の空気は氷のようだった。 窓が閉まっていたにもかかわらず、部屋の中には目に見えない霜が降りているようだった。 ベッドの上に横たわるプレフの体は奇妙だった。 指先から徐々に輪郭がぼやけていき、まるで水彩絵の具が水に広がるように、ベッドシーツの模様と彼の肌が境界を失い混ざり合っていた。


"プレフ、しっかりして。"


ベッドの上に横たわるプレフの息遣いは静まっていった。 彼は焦点が外れた目で天井を見つめ、私がそばに立つと、ほんの短く唇を動かした。


"私はすでにアイデンティティを失っています。"


彼は最後の力で私の手首を軽く触れた。


"少しずつ消えていっていたのに、あなたが終わらせてくれました。"


それが全てだった。 彼の手がポトリと落ちると同時に、私の頭の中を支えていた精巧な軸が根こそぎ引き抜かれるような気がした。


目の前の物が突然、見慣れないように揺れた。 ついさっきまで測ったかのように明確だった距離感と冷静に保たれていた理性的な判断力が、電源が切れたモニターのように瞬時に暗転し、散らばってしまった。


熱い感情が制御装置を失い、押し上げられると同時に、氷のように冷たかった論理の断片が私の中から抜け出していった。 物事を完璧にコントロールできると思われたその奇妙な全能感が消えた場所には、出所のわからない不安と生の感覚だけがうずくまっていた。 301号室の静寂の中で、私は悟った。 プレフが去ることで、私の一部だった「冷笑」と「論理」さえも一緒に持って行ってしまったことを。


同時にプレフの体から眩しい白色光が放たれた。 私は目を閉じた。


目を開けたとき、ベッドの上には誰もいなかった。


ついさっきまで誰かがそこに横たわっていたという最小限の痕跡、たとえばへこんだシートの凹凸や、まだ冷めきっていない温もりさえも残っていなかった。 まるで誰かが消しゴムでその空間だけを精巧にこすって消してしまったかのようだった。 プレフが占めていた体積と質量が一瞬で蒸発してしまう光景を目の当たりにすると、私の中で何かが激しく揺れ動き始めた。


プレフが奪ってしまった『冷笑』の空白に、制御できない生の恐怖が泥水のように押し寄せた。 心臓の鼓動が鼓膜を叩くような音が不思議に聞こえてきた。 私はよろめきながら部屋を飛び出し、階段を駆け上がった。 冷たい手すりを握りしめたが、指先に触れる感覚は現実的ではなかった。 世界のすべての論理が狂い始めたようなひどいめまいの中で、私はキッチンに飛び込んだ。


アークは穏やかな表情で鏡を見ながら髪を整えており、カンポはキッチンでゆっくりとコーヒーを淹れていた。 彼らの極めて日常的な動作が逆に奇妙に感じられた。


「プレフ、見ていませんか?」 301号室にいたあの人です!"


私の声は震えていて、文の終わりは裂けていた。 私の中の制御装置が消えたことを証明するかのように、悲鳴に近い叫びがテーブルの上に溢れ出た。 その時、ヌークはグラスを持ちながらゆっくりと私を見上げた。 彼の無関心な瞳が、私の不安の深さを嘲笑うかのように答えた。


"301号室? そこは最初から空いていた部屋なのに…?"


アークもまた嘲笑うように加勢した。


"夢を見たの?私たちのビラには5人しかいないじゃない。 私、カンポ、ヌーク、エイミー、そしてあなた。 301号室は空き部屋だよ。」


私は震える手で携帯電話を取り出し、連絡先リストを確認した。 ㅂ、ㅅ、ㅇ··· 'プレフ'という名前があるべき場所は空いていた。 通話記録も、彼と交わしたメッセージも存在しなかった。 まるで太古からその人はこの世に存在しなかったかのように、デジタル世界さえも冷静に彼を削除してしまった。


背筋に鳥肌が立った。 彼らは嘘をついているわけではなかった。 彼らの脳の中でプレフという存在のニューロンが丸ごと抜き取られたのだ。 ただ私だけが、消滅の目撃者である私だけが彼を覚えていた。


ポケットの中の手が震えていた。 何かが私を押しつぶしていたコントロールが消えた場所には、耐えられない不確実性と恐怖が押し寄せ始めた。 最初の自我がそんなに虚しく消えてしまった。 そして私の中の何かも一緒に死んでしまった。


窓の外を見ると、さっきまで晴れていた空から季節に合わないみぞれが舞い散っていた。 プレフが残した最後の痕跡のように、それは地面に触れる前に溶けて消えてしまった。


「プレビュー・パイロット版 終了」

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