第4話:AI弁護士に敗北した男

「異議あり」


その言葉は、もう誰も使わなくなっていた。


古賀洋介は、かつて法廷で“逆転の男”と呼ばれていた。

証言の矛盾を突き、わずかな感情の揺らぎを見逃さず、判決をひっくり返す。


それが彼の仕事だった。


だが今、法廷にはAIが立っている。


「本件における有罪確率は99.92%です」


証拠、証言、過去の判例。

すべてを統合し、“最適な結論”を導き出す。


「……それで終わりか?」


古賀は呟いた。


誰も答えない。


判決は、すでに決まっているからだ。


保険課の窓口で、彼は言った。


「俺の仕事は……もういらないのか?」


「論理は、すべてAIが処理します」


淡々とした答えだった。


「では、こちらを」


差し出された紙。


《職業:占い師》


「……冗談だろ」


最初の客は、若い女性だった。


「彼、私のことどう思ってるんですか?」


古賀は戸惑った。


証拠もない。

論理もない。


(どう答えればいい?)


沈黙のあと、彼は言った。


「……あなたは、どう思っているんですか?」


女性は、少し驚いた顔をした。


そして、ゆっくりと答えた。


「……好き、です」


古賀は頷いた。


「じゃあ、それでいいんじゃないですか」


女性は、涙を浮かべて笑った。


その瞬間、古賀は理解した。


AIは“正しい答え”を出す。


だが人間は——


“納得できる答え”を求めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

📘 AI失業保険課へようこそ! Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る