陰キャな僕が大学でウザ絡みをしてくる後輩ギャルと仲良くなるまで

フィステリアタナカ

陰キャな僕が大学でウザ絡みをしてくる後輩ギャルと仲良くなるまで

 晴れ渡る日の大学二年生の七月。大学の前期試験が始まる頃、僕は講義室の一番端の席で教授の話を聴いていた。講義が終わり「今年こそは単位を取らないと」と気合いを入れていると、僕を悩ませている後輩の声が聞こえた。


「ヤッホー、先輩。今年は単位取れそうですか?」

「うるさいな」

「そんなこと言わないでくださいよ。履修登録を失敗して、去年の前期の単位を全部落とした雑魚ザコ先輩のことを心配しているんですよ?」

「心配してるなら雑魚とか言わない」


 僕に声をかけて来たのは後輩の陽キャギャルの香那子ちゃん。明るめの茶髪に可愛くて少し童顔だが背が大きい。ヒールを履くと僕よりも背が高くなるくらいだ。ちなみにおっぱいの方は大きくないが、胸を強調するような服を着ていることが多い。


「じゃあ、ぼっち先輩」

「カナちゃん。ぼっちも違う」

「えー? サークルで最近孤立していますよね? あれってぼっちじゃないんですか?」

「同期とウマが合わないんだよ。我慢していたけど辞めようと思っている」

「そんなぁ、先輩がいなくなったらあたし寂しいじゃん。揶揄う人がいなくて♪」

「ふぅ、これだから――」

「先輩、このあとサークル室へ行きましょうよ?」

「行かない。単位落とせないから、今から帰る」


 僕は彼女と話を終えて、彼女と出会ったときのことを思いだした。


 ◇◆◇◆


「香那子ちゃん飲んでる? せっかくの二十歳の誕生日だし、たくさん飲もうよ」

「飲んでますよ~。あっ、カシスオレンジを一つお願いします」

「いいねぇ。じゃあ、俺も頼んじゃおうかな」


 今年四月の新入生歓迎コンパ。正直参加はしたくなかったが「去年、奢ってもらったんだから、今年は奢るの」とサークル先輩達に言われ、しぶしぶと居酒屋に赴いた。新入生歓迎コンパが始まり、みながワイワイとしている中、一人ハイペースに飲むギャルの姿が僕の目に止まる。「香那子ちゃんねぇ。潰されなきゃいいんだけど」と思いながら、僕は一人片隅で静かに夕食を摂っていた。えんもたけなわとなり居酒屋の外へ出て一次会終わりの挨拶を待っていると、心配していた陽キャのギャル香那子ちゃんがくらくらと揺れながら立っていて、僕の同期に話しかけられていた。


「香那子ちゃん、酔ってるでしょ? 大丈夫? ゆっくり休憩した方がいいんじゃない?」

「だいどぶでずよ。あたし、よっでまぜん」

「酔っているじゃん。休むのにいい所知っているから、一緒に行こうよ」

「ぶぅ」


 ああ、これ。同期がお持ち帰りしようとしているな。初めてのお酒で彼女が持ち帰られるのは何かおかしいと感じ、僕は同期に声をかけた。


「あのさ。この子、酔っぱらっているから、直接帰ってもらった方がいいんじゃない?」

「そうか? 一人でいるより誰かといた方が安心じゃないか? 俺が見てればいいし」

「別に誰か見ている人が必要なら、女の先輩がいるでしょ?」

「ちっ――、ねぇ、香那子ちゃん、俺といた方が安心するよね?」

「お前には任せられん。僕が家まで送っていくよ」


 僕が同期とそんなやり取りをしていると、香那子ちゃんは揺れながら僕の所に寄りかかって来た。


「うぅぅん」

「ほら、彼女も帰りたいって言っているみたいだし、一次会で帰すよ」

「おんぶぅ」

「ん?」


 香那子ちゃんの両腕が僕の腕に絡みつく。ああ、歩くの大変だからおんぶしろってことか。僕は二次会には行かず、彼女をおんぶして家まで送ることにした。僕は彼女に訊く。


「香那子ちゃんだっけ? 家ってどこ?」

「すぅぱー」

「ん? ひょっとしてスーパーの近くってこと?」

「ぅん」

「ずいぶん遠いな……」


 春の夜風は思いのほか心地よく、星空のもと初めてあったギャルを僕は背負って彼女の家まで歩いた。


「ここでいいの?」

「ぅん」

「鍵って取り出せる?」

「ある」

「じゃあ、僕帰るね。ちゃんと水分摂るんだよ」

「ぁりがと」

「どういたしまして。じゃあ、またね」


 ◇◆◇◆


「先輩、美味しいクレープ屋さんがあるので、一緒に行きましょうよ。先輩の奢りで」

「はぁ。何で僕が奢らなきゃいけないの?」

「単位を落とす雑魚な先輩の勉強を見るから、その手間賃ですよ」

「自分一人でやるよ」

「またまたぁ~、不安なんですよね? あたしが一緒に勉強してあげますよ」


 一年生と受ける講義は複数あり、その講義の度に相変わらずウザ絡みをしてくるギャルに参っている。僕は辟易した声で彼女に言った。


「こんな風に邪魔してくるでしょ? カナちゃん」

「邪魔だなんて失敬だな。あたしは先輩のお守りをしているんです」

「はぁ」

「そうだ、先輩。あたし先輩に相談したいことがあるんですけど、バーBARに行きませんか?」

「そんなこと言って、僕に奢らせる気なんでしょ? 飲むならスーパーでお酒買って家で飲めばいいじゃん」

「それもそうか――、じゃあ、相談がてら先輩の家で宅飲みで♪」

「自分の家で飲めばいいじゃん」

「えーっ、片づけ面倒くさい」

「僕の家なら片づけしなくていいってことか」

「うん、そうですよ。だから先輩、カワイイ後輩の為に――ねっ♪」


 この問答はいつまでするのだろうか。結局僕が折れて、夕方スーパーでお弁当とお酒を買って彼女と一緒に僕の家へ向かった。


 ◇


「先輩ってサークル辞めるんですか?」

「たぶん辞める」


 僕の部屋でお弁当を食べた後、彼女がお酒を飲んでいると、彼女が僕のことについて訊いてきた。


「えーっ、辞めないでくださいよぅ」

「僕のことはいいんだよ。それよりもカナちゃん、相談したいことがあるんでしょ?」

「相談したいこと? うーん、先輩が飲んでくれないと言いづらいな」

「僕は飲まないよ。それにまだ十九だし」

「ぶぅ、いけず」


 目の前にいるギャルはおつまみを食べながらお酒を飲み続けている。「あのときみたいに潰れないか?」と心配になるが、相談したいことが何なのか聴きたくて彼女が切り出すのを待った。


「先輩、あたし告白されたんです。それも二人に」

「ん? そうなの? サークルの人?」

「はい――、どうしようかなって」

「そっかぁ」


 正直、告白を受けるかどうかは彼女自身が決めることだし、僕がとやかく言う権利は無い。僕が曖昧な返事でやり過ごしていると、お酒を飲み過ぎて眠くなってきた彼女は僕のベッドの上に寝転んだ。


「おちつくぅ」

「おいおい、そこ僕が寝る場所」

「別にいいじゃないですか」

「ふぅ」


 彼女がお休みモードに入ったので、僕はまばらに置いてある缶の片づけをし始めた。流し台へ行き、缶を洗いゴミを分別する。お弁当もだ。一通り片づけをし、僕はベッドの方を見ると、香那子ちゃんの服が乱雑に置いてあった。どうやら彼女は下着姿で布団に潜ったようだ。あまりにも無防備過ぎる。もしかしたら告白してきた二人は隙のある彼女を見て邪な気持ちで告白してきたのかもしれない。僕は彼女が心配になると同時に、彼女の酔いが醒めて「早くベッドが空かないかな」と思った。


「ふぅ、まったく」


 それから二十分ほど香那子ちゃんの寝ているべっどの奥の壁をぼんやりと見ていると、急に彼女の声がした。


「先輩って、ヘタレですよね?」


 彼女はそう言って、下着姿でベッドから起き上がったのだ。


「ぼっちな先輩の為にあたし一緒にいるのに」


 そう彼女の言われ僕の中で、何か糸が切れるような音がした。何でそんなことずっと言われなきゃいけないんだ?


「カナちゃんさぁ。ぼっちとか雑魚とかヘタレとかって僕のこと馬鹿にして楽しんでいるの? 単位がかかっている時期だし、もう鬱陶しいから話しかけないでくれる?」

「えっ」


 僕がそう言うと、彼女は俯きながら乱雑に置いてあった服を拾って着始めた。服を着終えた彼女の頬には涙が伝い、彼女は震える声で僕に言う。


「あた、し――もう、帰りますね(先輩に嫌われちゃった……)」


 僕は何も言わずに彼女の様子を見ていると、彼女は荷物を持って扉のドアノブに手をかけた。


「あたし、告白受けるかもしれません」

「そうか」

「はい――、今までありがとうございました」


 バタンという扉の閉まる音が聞こえ、僕は彼女と今後関わりを持つことが無くなるのだろうと思った。それと同時に僕の胸にきゅっとなる痛烈な痛みが走った。何だろうこの感覚。香那子ちゃんは告白を受けて、誰かの彼女になる。彼女が絡んできた時間は、僕にとって思いのほか心地よい時間であることに気がついた。彼女の楽し気な声。屈託のない笑顔。僕は彼女を誰かに取られたくないのだと――そう、僕は彼女のことをいつの間にか好きになっていたのだ。


「出ないか……」


 スマホで連絡をしてみるが、電話には出ない。チャットを送ってみるが返信は無い。


「よし、行くか」


 今、この思いを伝えないと手遅れになってしまうような気がする。僕は彼女に会いに行くことを決め、彼女の家へ向かった。


 ◇


「ここだよな……」


 三か月前の記憶を頼りにして、おそらく彼女にいる部屋の前まで来た。チャイムを鳴らすが、反応が無い。部屋を間違えたかもしれないが、後悔はしたくない。なので僕はもう一度チャイムを鳴らして、彼女が出てくるのを待った。


「――はい」


 扉が開き、元気の無い彼女は細い声で僕に捻り出すように言う。


「何ですか?」

「カナちゃん、話したいことがある。中に入ってもいい?」


 彼女は少し迷う素振りを見せたが、僕を部屋の中に招き入れてくれた。


「先輩、飲み物いりますか?」

「飲み物はいい。さっき言い過ぎたよ、ごめん。それで単刀直入に言う。カナちゃん、告白は受けないで欲しい」

「えっ」

「告白を受けるくらいなら僕と一緒にいて欲しい」

「それって――」

「僕と付き合ってくれ。カナちゃんとずっと一緒にいたい」


 彼女は僕に抱き着いてきた。耳元ですすり泣く音が聞こえる。彼女の体温が伝わってきて、彼女からシャンプーのいい香りがした。


「あたしもずっと一緒にいたいです」

「うん」

「先輩、好きです。今まで変な態度取ってごめんなさい」

「それはいいよ。それよりも僕のこといつも気にかけてくれてありがとう」

「あの、先輩。あたししたいことがあるんですけど」


 彼女は僕にそう言って、カバンの中からトランプの箱の様なものを取り出した。


「先輩、これあたしとしましょ」

「ん? トランプ? 神経衰弱でもやるの?」

「ハッハッハッ、先輩ってバカですよね?」

「馬鹿って失礼だな」

「これは男女がベッドの上で使うものです」


 つまりはアレだよな。そんな急に――、


「急じゃない? 付き合って初日だよ?」

「もう三か月もお互い関わってきたじゃないですか? だから三か月一緒に過ごした様なものなので、問題ないです」

「随分と強引だな」

「だって先輩とこうやって絡まないと、進展しなさそうなんですけど」

「確かにそうかもな」


 こうして僕に可愛い後輩の彼女ができた。彼女がウザ絡みをしてくれたことで僕に恋人ができたのだ。そして彼女と付き合い始めてから三年後。大学の卒業単位が足りず、二人で同じ年に卒業することになったのはまた別のお話。

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