第4話 交差点

(怪談師村上ロックさんに提供した話)


 明け方五時ごろ、いつも通りパトカーに乗って警ら(パトロール)を行っていた。空も若干白んできていた。日の長さから夏を感じる。

 運転をしていると周囲に水田が広がり民家が点在した見通しのいい十字路交差点の横断歩道を八十代くらいのお婆さんが渡っているのが目に入った。横断歩道の前でパトカーを停めお婆さんが安全に渡りきるのも見守る。ご高齢の方々が日が登りきる前に散歩している姿ははよく見かけていたので元気がいいなくらいにしか思っていなかった。

 お婆さんはパトカーの前を通り過ぎる時指を二本立ててピースサインをして行った。お茶目なお婆さんだなと自然と笑みがこぼれた。疲れと睡眠不足で重くなった頭も気のせいか少し軽く感じる。


 お婆さんが横断歩道を渡り終えた頃私はある事を思い出した。私が所属する警察署では薄暮時や夜間の歩行者事故防止のために反射材を配布しているのだ。お婆さんに配布して安全な散歩をしてもらおうと思い、運転席の後ろポケットに入れておいた反射材を取るため安全な場所にパトカーを停車した。運転席から車をおり後方のドアを開け反射材を取り顔をあげ周囲を見渡す。お婆さんはどこにも見当たらない。交差点の周囲にある民家のどれかがお婆さんのご自宅で、私が少し目を離した間に家に入ってしまったのだろうと考えた。

 同じような出来事が当番の度に起こった。毎度のことなので後半の方は助手席に反射材を置いてすぐに手渡せるように工夫していたが少し目を離すとすぐに見失ってしまう。いよいよ不思議思いだした・・・というか本当に人間なのか?幽霊では?と考えるようになった。私にピースサインをして横断歩道を渡っていくお婆さんが毎回無表情だったことも私にそう考えさせる一端だったかもしれない。しかしはっきりと見えているのだ。


 結論から言うとあのお婆さんは一ヶ月ほど前にその交差点で起こった事故で亡くなっていた。私が見たのは幽霊だったようだ。


 私がその事故を知らなかったのは、その事故の前後合わせて二週間ほど専門知識の勉強のため警察学校に入校していたからだった。交通課に書類を提出に行き先輩がまとめていた死亡事故の書類をたまたま目にした。そこにはそのお婆さんの写真があったのだ。書類を見せてもらった。朝方散歩中のお婆さんがその交差点を横断中にそれを見落とした車が接触したとのことだった。しかしそれだけではなっかのだ。車の前で倒れるお婆さんと停車する車。後から来た後続車が停車中の車を追い抜く。その際に倒れたお婆さんを見落としてしまい轢いてしまうという事故だった。被害者がどの段階で亡くなってしまったのかがはっきり判明しないらしのだ。これを判明させないと二名の被疑者の罪状に大きく関わってくる。

 この書類を読み終わった後ある考えがよぎった。


 お婆さんが私にしていたのはピースサインではなく・・・・・自分を殺したのは二台目の車だというサインだったのかもしれない・・


 事故から四十九日が経った頃お婆さんを見かけることはなくった。



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警察官だった私の怪談 @SHIN-H

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