まっすぐであったかい愛があるから、不穏な事件もへっちゃらだった！

全寮制のタリス魔法学校に通うエメ・デポルトは、寮の部屋分けでついにランダル・クストーと同室になった。これはもしかしたら自分の幸運をすべて使い果たしてしまったのではないだろうか。
どうしてこんな心地かって、だってエメは、この学校に進学したばかりの頃からランダルに秘密の恋心を抱いていたから！

そんな、幸せいっぱい、でもそうそうランダルに想いを打ち明けることなんでできない！という甘酸っぱい悩みを抱えたエメの、きゅんきゅん学園生活、と思いきや……。

　君のように美しい人はこの世に存在しない。
　エメ・デポルト。
　マイエンジェル。

不穏なメッセージが予感させるように、エメの周りで不審な出来事が起こりはじめます。どうやらエメをストーキングする存在がいるようなのです。
いたずらでは済まされない出来事がいくつも起こりはじめて—— 。

不穏な視線、ともすれば命の危険につながるような出来事が起こるなかで、ランダルにもある事故が起こり、恋路にはおおきな壁が生まれます。けれどもエメは、いつだってまっすぐに愛を信じてその時をくぐりぬけてゆくのです。

この物語の最も好きなところは、エメも、エメの友人たちも、どんなに不穏な事件が起きても、誰もが足の引っ張り合いをしたり、意地の悪い行動を取ったりしないところです。
みなさま普段の学校生活や社会人生活のなかで、自分がこんなにも真摯に向き合ってきたのに、どうしてか嫌な気持ちにさせられたり、肩すかしをくらうような態度を取られた経験は、ありませんか。
エメとその友人たちの間には、そんな苦々しい出来事は生まれません。疑心暗鬼になってしまうような状況でも、ただまっすぐ、もとの生活を取り戻し、幸せな愛を育める日を思って、戦うのです。

夢のような魔法、めずらしい植物、めずらしいお菓子、豊かな寮のディナー。
わくわくするようなアイテムが飛び交う世界の中で、困難がありながらもまっすぐな愛を信じるエメの物語は、現実の世界でちょっとだけささくれてしまった読者の気持ちを、あったかい飲み物を飲んだときのように安堵させてくれるはずです。

ちょっと疲れてしまっている毎日の終わりに、1話ずつゆっくりと。
そんな向き合い方がしっくりくるような、あったかくて大切なお話でした。