最終話「再会したら結婚して」と言って引っ越していった幼馴染が、翌日隣の家に引っ越してきた

「ねぇゆう君……、再会したらさ、亜美と、結婚してくれないかな?」


 亜美あみは頬を真っ朱に染めて、俺の瞳をしっかりと見ながら告白をしてくる。


 亜美が顔を真っ朱に染めた時点で、もしかしたら告白されるかも……なんて淡い期待をしていたが、まさか本当に告白だったとは……。

 それに、亜美が俺のことを好きだったとは思わなかった。


 俺は亜美が好き。亜美は俺が好き。

 なら、答えは1つだろう。


 俺は朱く染まった顔で、亜美に告白の返事をする。


「うん、良いよ。再会したら結婚しよう……ん? 結婚……? 結婚!?」


 俺は遅れて言葉の意味を正しく理解して、瞳を見開き、驚愕した表情を浮かべて亜美を見る。

 これではもはや、告白ではなくプロポーズではないか。逆プロポーズである。


「えっ!? 亜美、今結婚って言った!? 付き合ってじゃなくて!?」

「うん、亜美はゆう君と結婚したいの。それくらいゆう君のこと好きなの。でも、次いつゆう君と再会出来るか分からないでしょ? だから、亜美と結婚の約束をして、ゆう君が亜美の婚約者になって欲しいの。そしたらゆう君に悪い虫がつかないでしょ?」

「……」


 どうやら、亜美は俺のことが相当好きなようだ。こんなに好意を持っていてくれたとは……。俺は相当な鈍感野郎なのかもしれない。


「さっきゆう君、亜美と結婚してくれるって頷いたから。やっぱり無しとかダメだからね?」

「いや、あれは告白だと思って頷いて、頷いた後に『結婚して』だったと分かったわけでして……」

「やっぱり無しとか──ダメだからね?」

「はい! もちろんです!」


 亜美からの圧が凄いのよ……。

 

 亜美が目尻に力を入れて見てくるので、俺は思わず頷いてしまう。

 でも、俺は亜美が好きなんだ。なら、断る選択肢なんてはなからないだろう。

 

 今日、亜美と別れたら次の再会がいつになるか分からないけど、亜美を幸せにするためにも勉強頑張らないと。そして、亜美に相応しい男になったら、俺は亜美を迎えに行こう。


「亜美、一応ゆう君に聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいいかな……?」


 亜美は不安そうに身体の前で指を絡めて、上目遣いでチラリと見てくる。可愛い!


「いいけど……。なんかあるのか?」

「その……、亜美の、さ、『結婚して』って言葉、受け入れてくれたでしょ?」


 亜美の問いかけに頷いて肯定の意を現す。

 それを見た亜美は、先程よりもさらに不安そうに瞳を揺らしながら、続けて俺に聞いてくる。


「ゆう君は私を見て仕方なく頷いてくれたのか、それとも、そ、その……亜美の、ことが、す、す、好き、だから、頷い、て、く、くれ、たの……?」


 なんだ。そんなことか。

 流石の俺も、好きでもない女子の告白に頷くことなんてしない。

 俺はこれでも、何故かちょくちょく女子から告白されるくらいの男ではあるが、今までの女子のその告白に頷いたことは一度もない。

 何故なら、俺は亜美のことが好きだから。


「俺は誰でも頷くわけじゃないぞ? 相手が亜美だから、俺は頷いたんだよ。だから安心してよ。俺はちゃんと、その……、亜美のことが、す、好きだからさ……」


 少し気恥ずかしくなり、亜美から視線を逸らしながらそう答えた。


 それを確認した亜美は、パァーと表情が明るくなった。


「そんなんだ! ゆう君は亜美のこと好きだったんだ! 亜美、今すっごく嬉しい!」


 亜美の笑顔を見て、俺も亜美とは同様に笑顔になった。


「じゃあ、亜美、そろそろ帰ろうか」


 俺は亜美に右手を差し出した。

 亜美は俺の差し出された右手を見て、嬉しそうにその手を繋いだ。


「うん!」


 亜美は元気よく、返事をした。


 俺と亜美は仲良く手を繋ぎ、亜美の家へと向かって歩いていく。


 これが終われば、明日からは亜美がいない生活。昨日までの俺は寂しさと悲しさで絶望していたが、それもさっきまでの話だ。

 何故なら現時点をもって、俺と亜美は婚約者同士になったからだ。そんなもん、全部吹き飛んだ。


 絶対に俺のことが異性として好きじゃないと思っていた大好きな女の子が、今は俺と手を繋いでいるのだから。いや、前もこんなことあったか……。

 とにかく、しばらく亜美と会えなくなったとしても、亜美の婚約者になって人生絶好調の今の俺からしたら、寂しくも悲しくも全くないのだ!






◇◇◇



 ──あああああああああああああああ!! 亜美が居ないいいいいいい!! もう俺は無理だああああああ!! 俺はこの先、生きていけないいいいいいい!!!


 俺は自分の部屋のベッドの上で、枕にしくしくと涙を流して絶望していた。


 昨日、亜美が居なくても寂しくないし悲しくないと言ったな? アレは嘘だ。バチくそに寂しいし、バチくそに悲しい。


 昨日、亜美を亜美の家まで送った後に、自分の家に帰ってから亜美と夜遅くまで電話してたのに、亜美とはもう当分会えないと思うとめちゃくちゃ泣けてくる……。


 もう亜美と会いたくなってる自分がいる。

 でも、我慢だ。俺は亜美の婚約者だ。なら、亜美の隣に立てるように立派にならないと。


 俺は今年、受験生だ。勉強をもっと頑張って良い会社に入って、亜美を楽させてあげるんだ!


 俺は気合いを入れてベットから起き上がり、勉強机の椅子に触り、教科書を開いて勉強しよう……と思ったその時、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。


 ──こんな朝から一体誰なんだ?


 現在時刻は朝の9時30分。こんな朝早くから訪問販売でもしているのだろうか? マジでご苦労様だわ。


 まぁ、母さんが出てくれるだろ。

 と言うことで、俺は筆記用具を手に持ち、勉強をしようとノートにシャーペンを走らせようとするが──


「優人ー! 母さんの代わりに出てくれないかしらー!? 今ちょっと手が離せないから!!」


 ──丁度、母さんからの呼びかけがかかった。

 どうやら俺が出ていかないといけないらしい。


 2階にいる俺にも聞こえるように、母さんの大きな声が1階から聞こえてくる。


「分かったー!!」


 俺も1階にいる母さんに聞こえるように、大きな声で返事をした。


 俺は筆記用具を置き、自分の部屋を飛び出して1階に降りていく。


 母さんはリビングのソファに座ってニヤニヤとした表情を浮かべていた。


「全然母さん手空いてるじゃん……」


 俺は母さんにジト目を向けた。


「早く出て。お客さんがお待ちよ。お隣に引っ越してきた人みたい。挨拶してきなさい」


 なるほど。

 最近引っ越し業者のトラック来てたもんな。


 と言うか、なんで俺が出るんだよ。おかしいだろ。父さんが居ないなら、普通こういうのって母さんが出るもんだろ……。

 あと、なんで母さんはニヤニヤしてんだ? 訳分からん……。


 俺は母さんに呆れと疑問を抱きながら、てくてくと玄関まで歩いていく。玄関の扉の取手に視線を向けて、掴む。そして玄関の扉を開けてから流れるように取手から視線を上げ、訪問者に顔を向ける──


「今日隣に越してきた城ヶ崎じょうがさきと言います。これ、つまらないものですがどうぞ」


 どうやら隣に越してきた人は城ヶ崎さんと言うらしい。その城ヶ崎さんが菓子折りを持ってきてくれたみたいだ………………………………………

…………………………………………………………

…………………………………………………………

……………………………………………………………………………………………………………………………………………ん???????


 ッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………………………………………………………………………………ん????????


 俺の目の前には、亜美と瓜二つの人物がいた。

 でも、昨日亜美って引っ越していったよな?


 俺は目をゴシゴシと手で擦り、もう一度ちゃんと相手を見る。 

 俺の目の前には、亜美と瓜二つの人物がいた。


 ………………ん??????


 俺はもう一度目をゴシゴシと手で擦り、相手をしっかりと見る。 

 俺の目の前には、亜美と瓜二つの人物がいた。


 亜美と瓜二つの人物は俺を眺めながらニコニコとしている。

 数秒後、亜美と瓜二つの人物が口を開いた。


「昨日の結婚約束、覚えてるよね?」


 ………………………………。


 俺の思考がやっと正常に回りだす。


 そして、俺は思う──


「再会したら結婚して」と言って引っ越していった幼馴染が、翌日隣の家に引っ越してきた。


 ──と。



                     完






──────────────────────


 初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。胡桃くるみ 瑠玖るくです。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「再会したら結婚して」と言って引っ越していった幼馴染が、翌日隣の家に引っ越してきた 胡桃瑠玖 @kurumiruku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ