しっとりと心に迫ってくるストーリーでした。
主人公の女は、「二十五年」の逃亡生活に区切りをつけようとしていた。かつて、愛した男を刺し殺してしまった。そして指名手配もされ、逃亡する生活を送ることに。
男を愛するため、どんな生活をしてきたか。逃亡している間にどんな不安に苛まれ、どんな風にして身を隠してきたか。何度も顔を変えたこと、体重を増やしたり減らしたり、別人に見えるように努力を続けたこと。
そしてそんな時間の中でも、やっぱり「彼」への愛情は忘れられなかったこと。
最後に辿り着いた日本海の景色。そして二十五年という時間。寒々しさも覚えさせられる一方、長い時間を必死に生き抜いてきた「想いの強さ」がひしひしと伝わってきます。
往年の松本清張の作品などを思わせるような、「必死な想いを抱いた犯罪者」と「それを追う刑事」という構図。この構図がノスタルジックな風味を持つと共に、「普通の人生」を失ってしまった女性ならではの、激しい生き様が浮き彫りになります。
ただ逃げ続けることだけで多くの時間を使い、もう後戻りをすることもできない。他の選択をすることもできない。あるのはただ「25年」という「出口」に辿り着くことだけ。
心が軽くなる日を求めて。今という時間が終わることだけを求めて。ただ「そのこと」のために生き続けてきた彼女。
その想いが最終的にどのような結末を迎えるのか。この物語の後、彼女が抱くのはどんな想いとなるのか。
彼女の必死な想いを読み解いていくことにより、読者は「その後」について自然と想いを馳せられることになります。
全てが終わった時、彼女はどんな表情をしているだろう。もしかしたら、微笑んでいるかもしれない。そんな色々な絵が心をよぎる、鮮烈な印象に満ちた作品でした。
現実に起きた事件を元にして書かれた本作。
主人公の女は、サラ金から借金したり、風俗で働いたりしてまで、さんざん貢いできた男に捨てられたことで、怒り狂い、殺人を犯してしまった。
そしてそれから始まる、辛い逃亡の日々。逃げてからもうすぐ25年が経とうとしていた、そんな状況での逮捕。
主人公は逃げ続けた日々を、自由な広い牢屋に閉じ込められていたようなものと言っているけど、その苦しさが如実に伝わってくる表現で、素晴らしいと思いました。
やったことは到底許されることではないですが、心理描写が非常に巧みで、彼女に深く同情してしまいました。
丁寧な文章で紡がれる情景描写も大変魅力的です。
最後まで読んで、彼女が罪を償い、本当の意味で自由になれる日が来たらいいのになあ、と思いました。
いろいろ考えさせられる、素晴らしい作品でした。是非ご一読を。
私しりませんでした。
昔は殺人事件にも時効があって、あわや逃げ切りそうな犯人がいたのだとか。
そうです。
本作は実在した逃亡劇から着想を得て、書かれたものなのです。
逃亡犯はオリジナルと同じく、女。
長かった逃避行も、まもなく終わり。
あと二十八時間で時効を迎えます。
四半世紀を振り返る彼女。
複雑な感情が入り混じる独白は、この作者様ならではです。
同時、北陸の重たい空の下に立つ影。
彼らの目的地は――――
時効を迎える犯人の心境。
幸いそんな状況にはおりませんが、考えてみると興味深いですね。
法律の専門家が垣間見せてくれる「事件」。
あなたも覗いてみてはいかが?
最低な男に貢がされて、最後は刺し殺し、全国を逃げ回る女
数多くの男に抱かれながら、自ら殺めた男が一番良かったという彼女
買春してでもホストに貢ぐような、まるでストックホルム症候群のような、その退廃的な愛は狂気とも純愛ともつきません
作者さんは、カクヨム作家の他に法律家の顔を持つので、私よりもそんな悲しい犯罪者たちについて詳しそうです
27から50まで逃げ続け、青春を無にした彼女
ついには捕まる、その後の彼女の人生に本当の幸せと安寧があることを祈ります
いつもは元気で優しい素敵なヒロインの他に、こんな女の執念の塊のような女性をおかきになられるとは、小田島さんの新境地を見た気がします