ギンゴ

[声掛け事案（■■）（2024年5月24日　15:13）]

最終更新日:2024年5月24日

5月24日（金曜日）午後14時30分頃、■■市■■■町地内を歩いていた女子生徒等が、車に乗った男に「名古屋の方に行きたいのだけど道に迷ってしまった。カーナビの使い方がわからないので、一緒に車に乗って見てくれないか。お礼に家まで送るから」と声を掛けられる事案が発生しました。

【男の特徴】

30～40代、身長170センチくらい、小太り、金髪、黒い半袖のシャツ、サングラスを掛けていた

◇いざというときのために防犯ブザーを携帯しましょう。

◇不審人物を目撃した場合、すぐに最寄りの交番・警察署・駐在所に通報して下さい。緊急の場合は110番をお願いします。

[サトウ]　不審者が出たみたいです

[くにこ]　怖い……。まだ近くにいるのかな

[MAMI]　今日のお迎え、うちで車出そうか？　みんな一緒の方が安心でしょ

[サトウ]　いいんですか!?　助かります！

[MAMI]　幼稚園には16時くらいに着くと思うから、一応みんなからも園に連絡入れておいて

[くにこ]　いつもありがとう(泣き顔の絵文字)

[MAMI]　わかちゃんも大丈夫？

[島田わか菜]　すいません、仕事中で気付きませんでした！　マミさんいつもありがとうございます！　園には直接連絡して、ミズホにはミクちゃんのママの車で一緒に帰るよう伝達してもらいます！

[MAMI]　(犬のキャラクターが「かしこまりました！」と敬礼しているスタンプ)

[MAMI]　いえいえ困った時はお互い様ですよ～(ハートの絵文字)

■■県防災メール

●発表日時：2024年9月6日 5:05

●県気象情報：気象庁から発表されました。

■■県では、6日夜遅くにかけて、竜巻などの激しい突風や落雷、急な強い雨に注意してください。

［気象概況］

■■地方には、高気圧周辺の暖かく湿った空気が流れ込んでいます。このため、■■県では、引き続き6日夜遅くにかけて大気の状態が非常に不安定となり、局地的に雷雲が発達する見込みです。

［防災事項］

竜巻などの激しい突風、落雷、急な強い雨に注意してください。

発達した積乱雲の近づく兆しがある場合には、建物内に移動するなど、安全確保に努めてください。

［補足事項］

今後発表する防災気象情報に留意してください。

次の「突風と落雷に関する■■県気象情報」は、7日6時頃に発表する予定です。

気象庁：※URLリンク※

防災ポータル：※URLリンク※

注： スマートフォン・タブレット・PCの方はこちら

※URLリンク※

注： ガラケーの方はこちら

※URLリンク※

[MAMI]　雨と風、これからもっと強くなるみたい

[MAMI]　(犬のキャラクターが「が～ん…」という文字をバックに青ざめているスタンプ)

[MAMI]　わかちゃん今日も仕事掛かる感じ？

[島田わか菜]　すいません、職場全体で残業発生中です……園、今日は16時にはしまっちゃいますよね？

[くにこ]　うちも家の台風対策が思ったより大変で、時間通り出発できなさそう(泣き顔の絵文字)

[サトウ]　うちの旦那が休みだから迎えに行ってもらいますよ(星の絵文字)帰り掛けにミサキちゃん下ろしますね

[くにこ]　すいません！(泣き顔の絵文字と土下座の絵文字)

[MAMI]　じゃあ、うちはミズホちゃん一緒に拾うね

[島田わか菜]　ありがとうございます！　ごめんなさい、この前も助けてもらったばかりなのに(汗

[MAMI]　同じマンションなんだし全然苦じゃないよ～(笑)

[MAMI]　(犬のキャラクターがサムズアップしているスタンプ)

[令和7年　ギンゴ目撃等情報]

※お住まいの地域でギンゴの目撃等情報が更新されました

記載日 R7.2.9

年月日:7年2月9日

確認時間:10:20

市町村:■■市

場所：■■■町

成獣:

幼獣:

不明:1

合計:1

目撃・痕跡等:痕跡（蛆）

確度:中

地域住民避難必要性:検討中

周辺ペットショップ・酪農家・畜産家への通告必要性:検討中

関連防衛組織協力要請必要性:検討中

病院・保健所等連絡必要性:検討中

除菌・清掃作業準備必要性:検討中

神道系宗教施設へのバックアップ要請:検討中

[くにこ]　ギンゴが出たんですって

[サトウ]　へぇ

[島田わか菜]　ギンゴ…

[MAMI]　やばいね

[くにこ]　どうしましょう(汗

[MAMI]　痕跡(蛆)かぁ……これは危険だね

[くにこ]　もう大人になってるかも

[サトウ]　襲われたらどうしよう……

[MAMI]　あたしが車出そうか？　ミニバンなら対抗できるでしょ

[サトウ]　大丈夫？　この前、大島さんが車ごとひっくり返されたって

[MAMI]　もしもの時は轢き逃げアタックよ！

[MAMI]　(犬のキャラクターがパンチしているスタンプ)

[島田わか菜]　ごめんなさい、ギンゴって何ですか？　そういう野生動物がいるんですか？　すいません、無知で

[くにこ]　みんな、実物は見たことある？

[サトウ]　あれだよね、大きな迷彩柄の首が二つあるトカゲみたいなやつだよね

[MAMI]　違う違う！　四足歩行の人間の背中から牛の頭が生えててその額から猿の右足がぶら下がってる奴！

[くにこ]　鼻から毒を噴出するから気を付けてね！

[サトウ]　目からビーム撃ってくるらしいよ！

[くにこ]　がぽっがぽっがぽっがぽっ

[MAMI]　くにちゃん、害獣除け用のショットガン借りていい!?

[くにこ]　熊退治用のヤツでよければ！(銃の絵文字)

[MAMI]　笑笑笑藁笑笑笑笑

[島田わか菜]　あの…

[くにこ]　wwwwwwwwwwwww

[サトウ]　ちょっとwwwwww

　■□■□■□■□■□

　………はい。

　これが、半年ほど前のやり取りです。

　私、■■県■■市に住んでいるシングルマザーで、これは、同じ幼稚園に子供を通わせてるママ友同士のチャットグループなんですけど。

　サトウさん、くにこさん、MAMIさんとは、離婚後に引っ越しを済ませて、娘を幼稚園に連れて行った初日に知り合いました。

　みんな同じくらいの歳の女の子の親だったので、すぐに意気投合して、仲良くなりました。

　特にMAMI……マミさんとは、同じマンションに住んでいるって事もあって、とてもよくしてもらって。

　私、日中は働いているんですけれど、中々多忙……というか、スケジュール通りにいかない仕事というか。

　その時の状況によっては、閉園時間までに子供のお迎えに行けない事もあるんです。

　そんな時は、マミさんが娘のミクちゃんと、うちのミズホを一緒に迎えに行ってくれたり……他にも、不審者が出たとか、災害があったりとか、そういう地域の危険情報がチャット内で共有された時、子供達が不安にならないように率先して対応してくれたり……。

　もう、本当に、助けてもらいっぱなしで、感謝しかありませんでした。

　マミさん、ずっと運動系の部活をやってたり、結婚後も旦那さんとアクティブな趣味を一緒に楽しんでたり……何ていうか、気弱で内向的な私と真逆で、正に憧れの人でした。

　………はい。

　以前お話した、問題の件っていうのは……この最後の……『ギンゴ』に関する事です。

　忘れるわけありません……いえ、今も何も解決していません。

　なんで、あんな恐ろしい事に……。

　………はい。

　はい、お話します。

　先程見ていただいたとおり、半年ほど前、ギンゴの目撃等情報というメッセージがチャット内に表示されました。

　このメッセージは、チャットアプリの市の公式アカウントが配信している防犯・防災に関する最新情報が更新された時、登録している同じアプリ内のチャットグループにも自動でメッセージが送られるっていうサービスのもので、その前の不審者や台風に関するものと同じ発信元からのもの……のはずでした。

　最初に見た時、私は、正直意味が分かりませんでした。

　一応ネットですぐに検索してみたんですけど、当然、ギンゴなんていう動物はいないみたいですし。

　にもかかわらず、他の皆は当たり前のように会話を進めていく。

　全然、情報が噛み合ってないのに、当然のように。

　私、何だか怖くなってきて、でも、何かを言い出せるような空気でもなくて……。

　結局、みんなの笑い声のコメントを最後に会話は途切れてしまいました。

　……しばらくして、夕方の16時くらい。

　チャット内の最新メッセージが更新されました。

　■□■□■□■□■□

[令和7年　ギンゴ目撃等情報]

※お住まいの地域でギンゴによる被害者が出ました

記載日 R7.2.9

年月日:7年2月9日

確認時間:16:10

市町村:■■市

場所：■■■町

被害者:谷村未玖さん(5)

ギンゴに近付かないで下さい

ギンゴを見ないで下さい

ギンゴを想像しないで下さい

ギンゴに触らないで下さい

　■□■□■□■□■□

　……被害者の名前。

　マミさんの娘さんの、ミクちゃん。

　何これ？　何かの冗談？　って、正直思いました。

　もう何が何だかわからないけど、時間はもうすぐ幼稚園の閉園の時間。

　その日は仕事も問題無く終わったので、私はそのまま、園に娘を迎えに行きました。

　園に到着すると、やっぱり気になったので、ミクちゃんの姿を探しましたが見当たりません。

　その時娘に、「ミクちゃんはもう帰ったの？」って、聞いてみたんです。

　そうしたら、娘は「ミクちゃん、いなくなっちゃった」って……。

　……ここからは、全て後から聞いた話なんですが。

　あのギンゴによる被害者発生のメッセージが貼られたくらいの時間に、ミクちゃんは幼稚園から少し離れた路地で倒れているところを発見されたそうです。

　すぐに病院に搬送されて、マミさんと旦那さんも駆け付けて……。

　ミクちゃんは生きていました。

　特に外傷も無かったそうですが、なんで自分が路地で倒れていたのか、そこまでどうやって行ったのかとか、誰かに連れて行かれたかとか、そういった記憶は一切覚えていないのか、何を聞いても小さく首を振るばかりだったそうです。

　ミクちゃんが園から消えた瞬間さえ、幼稚園の先生達も把握していませんでした。

　私、病院から帰って来たマミさんに、あのチャットとギンゴの情報メッセージの事、聞いたんです。

　そうしたら、マミさん、覚えてないって。

　そんな防災情報が更新された事にも気付かなかったし、その後の会話も、そんなこと書いた覚えが無いって。

　サトウさんも、くにこさんも、同じでした。

　市の公式アカウントに問い合わせしても、公式アカウントの運営も認知していない、何らかの通信障害で別の誰かの発信が混ざってしまったんじゃないか、現在確認中だって未だに返答が無く……。

　……それで、その……。

　……ミクちゃんなんですけど、その後、ちょっと様子がおかしくなってしまって。

　ずぅっとボーッとして、何を話し掛けても反応が無くて、幼稚園にも当然行かせられなくなっちゃって。

　マミさん、大分参っちゃって。

　それでも、私も、何かできる限り助けになろうとしました。

　今まで助けてもらった分、何か恩返しできないかって。

　夕食時や休日に、娘と一緒に訪問させてもらって、話し掛けたり。

　……でも、ダメでした。

　ミクちゃんは、もう、手遅れだったんです。

　ある日の休日、娘と一緒にマミさんの家に遊びに行った時。

　玄関のドアを開けると同時に、この世のものとは思えないマミさんの悲鳴が聞こえてきました。

　急いでリビングに向かったら……。

　部屋の真ん中にミクちゃんが立ってて。

　その顔の……目や、鼻や、口や、耳から、夥しい量のハエが湧いてました。

　小さいハエが、何百匹も、ぶんぶんと五月蠅いくらいに羽音を重ねて。

　すぐに救急車を呼んで、病院に行って、看てもらいました。

　ミクちゃん……CTスキャンで見たら、頭の中に大量の蛆が湧いてて、それが孵って顔の穴という穴から這い出てきたんだって。

　脳味噌がハエの巣になってたそうです。

　ミクちゃんは、生きながらにハエの巣になってしまったんだって。

　……はい、生きてはいるんです。

　普通の人間ではなくなっちゃいましたけど。

　結局、マミさん達一家は、ほとんど夜逃げするみたいにアパートから引っ越していきました。

　マミさんとは、それ以来連絡も取れていません。

　…………。

　……一つ、気になる事があって。

　実は、ミクちゃんがギンゴに襲われた後、何度かおうちに遊びに行かせてもらった時。

　一度だけ……そう、一度だけ、ミクちゃんが私の言葉に反応してくれた事があったんです。

　マミさんがキッチンでお菓子の用意をしてて、ミズホはトイレに行ってた時。

　私、ミクちゃんにこっそり聞いたんです。

　ギンゴって、どんな姿をしてた？　って。

　………。

　……それまで、何も喋らない、ただ一点を見詰めてボウッとしていただけだったミクチャンが、口を開きました。

「あれだよねおおきなめいさいがらのくびがふたつあるとかげみたいなやつだよねちがうちがうよんそくほこうのにんげんのせなかからうしのあたまがはえててそのひたいからさるのみぎあしがぶらさがってるやつはなからどくをふんしゅつするからきをつけてねめからびーむうってくるらしいよがぽっがぽっがぽっがぽっくにちゃんがいじゅうよけようのしょっとがんかりていいくまたいじようのやつでよければ」

　そして、乾いた声で笑いました。

　ミクちゃんの声には、ぶぶぶぶ……っていう、ハエの羽音が混ざってたような気がしました。

　………。

　………。

　………。

　何なんですか……ギンゴって……。

　あの日、あの、あの。

　私達のチャットに、私達の日常に。

　いきなり、湧いて出たみたいに、現れたあれは。

　一体。

　………。

　……すいません、動揺しちゃって。

　ともかく、今回このお話をさせていただいたのは、出来ればこの謎を究明してただきたいからです。

　ギンゴとは、何なのか。

　お願いします。

　あれ以来、私は、常にギンゴの存在に怯えて生きています。

　ある日突然、あのメッセージが、ギンゴに関する情報が届くんじゃないかと……。

　被害者情報が更新されて、そこに記されてる名前は、私の娘で……。

　娘のミズホが、ミクちゃんみたいになっちゃうんじゃないかって……。

　それが、とても恐ろしいんです。

（2024年、8月25日、■■県■■市に住む、あるシングルマザーの女性へのインタビューより）

　え？

　表の石柱に掘られた文字？

　ああ、あれね。

　ガンゴって読むんだよ。

　ガンゴ。

　まぁ、見慣れない漢字だからね。

　しかし、あんたも物好きだね。

　こんな寂れた神社に立ち寄るなんて。

　え？　話を聞きたい？

　ガンゴが何かって？

　何って、この神社が祀ってるもんだよ。

　そう、ガンゴを祀ってんの、この神社。

　で、あたしが神主。

　神主っても、名ばかりの管理人っていう方が正しいかもね。

　こんなジャージに作業帽の神主もおらんでしょ(笑)

　ん？

　……何、って、何が？

　ああ、ガンゴが何か、って事？

　神様？

　違う違う。

　じゃあ、妖怪？

　怪物？

　それも違うんだよ。

　じゃあ、人？

　あー……人神様でもないんだよなぁ、これが。

　あはは、わかったわかった。

　話す話す。

　ここはね、“沼”を祀ってるんだよ。

　そう、ヌマね、沼。

　昔話をしようか。

　ここに神社が建つに至った、言い伝え。

　ここには昔、沼があった。

　いや、本当は泉だったんだよ。

　村里から離れた森の中に、ぽつんと存在した美しい泉。

　ある日、一人の村の若者が森の中で作業をしていると、誤って私物の斧を泉に放り落としてしまった。

　すると、泉の中から美しい女神様が現れ、若者に「あなたが落としたのはこの汚れた斧か、それともこの金の斧か」って二つの斧を見せて質問した。

　若者は正直に汚れた斧の方だと答えると、女神様は「あなたは正直者ですね」と、ご褒美に金の斧もくれた。

　若者は急いで村に帰り、村人達にこの話を伝え、証拠に金の斧も見せたという。

　……あはは、どっかで聞いたような話でしょ(笑)

　でもね、この言い伝えはあの有名な童話とはちょっとその後の流れが違う。

　正直者に褒美を与える女神様の泉の噂は、すぐに村中に知れ渡った。

　さて、村人達はどうしたか。

　そうか、あの泉の中には大量の金銀財宝が隠されているのか。

　噂は尾ひれも付いて、そんな事になった。

　欲に目が眩んだ村人達は総出で泉に向かうと、大人しく泉を明け渡さない女神様を殺し、泉を浚って財宝を奪おうとした。

　しかし、泉の中には何もなかった。

　財宝は女神の力で生み出されたものだったんだね。

　まぁ、少し考えればわかりそうなものなんだけど。

　とんだ無駄骨だったと怒った村人達は泉に女神の死体を投げ捨て、唯一得をした若者も妬み殺してその死体も捨て、更に村で出るゴミも捨て、いつの日か美しかった泉は誰も近寄らない悪臭を漂わせる汚水の沼となった。

　ある時、村で病が流行りだした。

　村人達は苦しみのたうち次々に死んでいった。

　原因は沼の中から湧いた羽虫で、そいつらが村に病を運んだのだ。

　村は、羽虫の苗床になった死体があちこちに転がり、正に地獄の様相と化した。

　殺され捨てられた女神の怒りと、若者の恨みが混ざって、村人を殺す祟りが生み出されたんだろうな。

　そして、話を聞いた時の権力者が沼を埋め立て、その上に神社を建て、祟りを鎮めるため祀った。

　それが、この神社の由来。

　石碑に彫られた漢字の意味がわかっただろ？

　人を蝕んで殺す沼。

　だから、疳淤（がんご）。

（2009年、9月11日、四国地方に存在するある神社の神主へのインタビュー。後にギンゴが出没したとされる地域は本州の東海地方に位置し、遠く離れている為、この二件の間の関連性は不明。なお、このインタビューより数年後、この神社はある大規模な気象災害の影響により本殿が倒壊。行方不明となっていた神主の男性は、数日後、神社より数十メートル離れた林の樹の上より遺体で発見された）