夢に見た吸血鬼美少女にキスされた話

秋犬

吸夢鬼

 とてもいい夢を見た気がした。


「こうしちゃいられない!」


 僕はすぐ机に向かって、覚えているうちに夢に出てきた女の子を紙に描いていく。


「ツインテールで、ほっぺは白くて、胸はまん丸で……」


 忘れもしない。ピンクの髪の毛で赤い小さな角が2本生えていた。大きな赤い目に不釣合いな真っ赤なルージュ。フリフリのピンクのキャミソールに黒いレースのカーディガン。背中には紫色のコウモリの羽根。真っ黒なミニスカートの下は白黒ボーダーのニーソックスに片方だけのローファー。そんな美少女吸血鬼が「ざぁこ♡ざぁこ♡」と言いながら迫って来る夢を見たんだ。


「できた……」


 描きなぐったから、出来は良くない。でも、夢を具現化するって気持ちいいな。もっと技術を向上させて、もっといい美少女を描きたいものだ。


『あら、いい夢持ってるじゃない』


 急に後ろから声がして、驚いて振り向くと夢に出てきた通りの美少女が宙に浮かんでいた。


『貴方が望んだから出てきたの。私は吸夢鬼きゅうむき。夢を吸い取る存在よ』

「夢って……バクみたいなものですか?」

『そういうのも食べるけど、どちらかというと人の希望とかやる気とか、そっちのが好み』


 僕がぽかんとその吸夢鬼を見ていると、そいつが「ざぁこ♡ざぁこ♡」と夢のように僕を煽り始めた。僕が慌てている隙に、そいつの顔が目の前に迫ってきた。


『夢っていうのはね、叶ってしまっては終わりなの。だから夢っていうのね、儚いわ』


 僕が何か言う前に、吸夢鬼に唇を塞がれた。脳天を突き抜けるような甘さと痺れが同時に襲ってきた。あまりにも強い刺激に僕は涙を流して、そして気を失った。


***


 とてもいい夢をみた気がする。


「なんか、夢見たなあ……」


 どうしても夢の内容を思い出せない。温かくてぬるぬるした、すごくいい夢だった気がする。


「まあ、どうせ夢だしどうでもいいか……」


 ベッドから起き上がると、机の上に汚ったない落書きがあった。いつの間に描いたんだろう、寝ぼけていたのかな。僕は不審な落書きをぐちゃぐちゃに丸めて、ゴミ箱へ捨てた。変な女の子の絵なんか描いてたって、しょうがないしな。


〈了〉

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