怖い隣人
みらい
怖い隣人
私の隣人はいつもマンションの隣の部屋の窓から体を乗り出してこちらを睨んでいる。いや、睨んでいることはないのかもしれない。でも、ただこちらを凝視してくる隣人だって相当恐ろしいことは想像に難くないだろう。
朝一番、冷えきった空気を浴びながら私の住んでいる街を見回して、ふと視線を感じて左を向くと、こちらを睨んでいる隣人と目が合う。
昼間、休日独特の気だるさを感じながら窓を開けて、物音を感じて左を向くと、こちらを睨んでいる隣人と目が合う。
夜中、飲み会の酔いを覚ますために夜風を浴びようと窓を開けて、思い出したように左を向くと、こちらを睨んでいる隣人と目が合う。
思い出してみてほしい。怪談なんかに出てくる不気味なものというのはその大半が夜に姿を現すだろう。だからこそ夜の帰り道や学校、墓場なんていうのは一層怖いのだ。しかし、私が隣人を見る時というのは、いつも酔っているためか、夜が一番怖くない。なんだか真っ黒なその目の奥に惹き込まれそうな気さえするのだ。
だからって、いつ窓を開けてもこちらを睨んでいる隣人に慣れる要因にはならない。私がなにかしてしまったのだろうか。仕事で基本家にいないから騒音だって無いはずなのに。そもそも何故私が窓を開けるタイミングが分かるんだ。いつ、どんなタイミングで開けたって隣人はこちらを睨んでいる。ずっと睨んできてるのかと思えば、外から見た時には隣人の家の窓は閉じられていてなんてことない遮光カーテンだけが見えるのがまた恐ろしい。
さらに恐ろしいことには、家に来た友人が窓を開けてもこちらを睨んでいる隣人など居ないと言うのだ。しかもだらしなく顔を緩ませて手まで振っている。大家に相談した時も、呆れたように笑って隣人になにか言うでもなく帰ってしまった。私の話がタチの悪い冗談だと思われたのだ。それ以来、私には隣人がより不気味に思えて、怖い。
今日もこちらを睨んでいるのかと思うと、換気のために窓を開けるのすら恐ろしくなる。でも、窓を開ければ、私は好奇心に負けて必ず左を見てしまう。昨日も、今日も、明日も。睨んでくる、目が合う、鋭い牙の光る大きな口が笑ったように歪んで。
「にゃー」
怖い隣人 みらい @Mii_31
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