未来へと続く声

第1章 死の訪れ

宇部市・湾岸地区。

廃ビルの屋上で、一人の男が背後から突き落とされた。

月明かりに浮かんだその顔――彼は「ゴースト」と呼ばれていた。

だが、裏社会の人間ではない。

彼は地域の大学で講師を務め、学生たちに慕われる存在だった。

その教えは厳しくも温かく、特に一人の学生――ビスマルクにとっては大切な先輩であり、恩師でもあった。

地面に叩きつけられる直前、ゴーストは最後の力を振り絞り、声を漏らした。

「……アザゼル……なぜだ……」


第2章 現場の緊張

夜半、署内に緊急の電話が鳴り響いた。

「カマエル課長!事件です!」

報告するのは佐伯――通称“ナポレオン”ではなく、新たな若手刑事ビスマルクだった。

彼は大学に通いながら警察実習に参加している学生で、捜査現場に触れることを許されていた。

「被害者は“ゴースト”。……湾岸地区の廃ビルから転落死です」

カマエルは額を押さえ、深く息を吐いた。

「ゴースト……あの男が、なぜ……」

現場に到着した第一課。

遺体を前に、捜査が始まった。

インク:「転落痕は不自然です。事故ではなく、誰かに突き落とされた」

ハヤテ:「近くに靴跡があります!逃げたのはごく最近のはず!」

ロック:「遺体の手に紙切れが……“アザゼル”とある」

GLAY:「ゴーストの知人……いや、かつて同じ職場にいた人物じゃなかったか?」

冷たい風が吹き抜ける。

その名は、事件の核心に触れるものだった。


第3章 疑念

捜査が進むにつれ、事実が浮かび上がってきた。

――ゴーストはかつて、後輩であったアザゼルを厳しく指導していた。

しかし、そのやり方は時に冷たく映り、アザゼルの心に傷を残していた。

インク:「つまり……アザゼルにとってゴーストは“自分を追い詰めた存在”だった。だから……」

ロック:「憎悪が募り、殺害に至った……か」

ハヤテ:「でもゴーストは決して悪意で接していたわけじゃない。あくまで指導者として……」

議論が続く中、ビスマルクは膝を抱えるように座り込んでいた。

彼にとってゴーストは、悩む自分を支えてくれる唯一の人だった。

「……どうして……先輩が……」

その声には、憧れと喪失が入り混じっていた。


第4章 対峙

湾岸倉庫街。

ついにアザゼルが追い詰められた。

彼は銃を握りしめ、声を荒げる。

「ゴーストは俺を追い詰めた!あいつの冷たい言葉が、俺を壊したんだ!」

ハヤテが一歩踏み出す。

「だからって命を奪っていい理由にはならねえ!」

アザゼルの目には、恐怖と憎悪が入り混じっていた。

「俺は……生きるためにやった!

俺はただ……認められたかっただけなんだ!」


第5章 希望の残響

銃声が響いた。

ロックが飛び出し、アザゼルを取り押さえた。

手錠を掛けられ、地面に膝をついたアザゼルは、声を震わせた。

「……俺は……ただ、生きたかっただけだ……」

誰も答えられなかった。

ただ、カマエルだけが静かに言った。

「生きるために人を傷つけてはいけない。

間違いは……お前が“選んだ”ことだ」

沈黙が落ちる中、ビスマルクが震える声を上げた。

「課長……ゴースト先輩は……本当に冷たい人だったんですか……?」

カマエルは目を閉じ、そして答えた。

「ビスマルク。ゴーストはお前の悩みを誰よりも気にかけていた。

彼は最後まで、お前のことを“未来を担う後輩”だと語っていた」

ビスマルクの瞳から、涙が溢れる。

「先輩……俺は……!」

崩れ落ちながら叫ぶ。

「先輩ぇぇぇ……!」

その声に、カマエルは寄り添った。

彼はそっと肩に手を置き、優しく語りかけた。

「泣いていい。だがな、ビスマルク……

見えない未来を恐れるな。毎日を進めばいい。

お前には仲間がいる。親もいる。

絆を持って進めば、必ず道は開ける」

ビスマルクは涙の中で、かすかにうなずいた。

その姿は、失われた恩師の意志を継ぐ者のように、確かに立ち上がろうとしていた。

夜明けが近づき、湾岸の空にわずかな光が差し込み始めていた。

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罪に沈む街で、絆は裏切りを超えられるのか 絆川 熙瀾(赤と青の絆と未来を作る意味) @xyz78

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